損害と損害賠償請求権者(慰謝料の相続・近親者の慰謝料・胎児・逸失利益)とは
そんがいとそんがいばいしょうせいきゅうけんしゃ
損害賠償請求権者とは、不法行為による損害の賠償を請求できる者のことで、被害者本人の慰謝料請求権は死亡すれば当然に相続され、生命侵害の場合は被害者の父母・配偶者・子も固有の慰謝料を請求でき(711条)、胎児は損害賠償の請求権については既に生まれたものとみなされます(721条)。
交通事故で人が亡くなると、亡くなった本人の慰謝料や将来得られたはずの収入は誰が請求できるか、家族自身の悲しみにも賠償があるか、お腹の中の子はどうなるかが問題になります。民法と判例は、本人の慰謝料請求権も当然に相続されるとし、父母・配偶者・子には固有の慰謝料も認め、重いけがの場合や家族同然の人にもこれを広げました。損害を受けた人の範囲を、実際に苦しむ人に合わせて考える仕組みです。
生命侵害の慰謝料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、即死の場合でも当然に相続されます
710条は財産以外の損害(精神的損害)の賠償を認めています。慰謝料請求権は被害者本人の精神的苦痛に対するものなので、一身専属的で相続されないのではないかが問題になりました。判例は、被害者が慰謝料を請求する意思を表明するなどの特別の行為をしなくても、慰謝料請求権は被害者が死亡したときは当然に相続されるとしています(最大判昭和42年11月1日)。損害は被害者本人に生じ、その賠償を請求する権利は単純な金銭債権だからです。生命侵害の慰謝料請求権は相続人に相続されるという肢、即死の場合でも慰謝料請求権は相続の対象になるという肢は正しく、「被害者が生前に請求の意思を表明していなければ,相続人には承継されない」という肢は誤りです。財産的損害(逸失利益など)の賠償請求権も、被害者が即死した場合を含めて相続されると解されています。
生命を侵害された被害者の父母・配偶者・子は固有の慰謝料を請求でき、これと同視できる者や重傷の子の親も請求できます
711条は、他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても損害の賠償をしなければならないと定めています。この請求権は相続とは別に近親者自身に生じる固有の権利なので、相続人であるかを問いません。「他人の生命を侵害した者は,被害者の相続人に対してのみ慰謝料を支払う義務を負う」という肢、不法行為で死亡した被害者の父又は母は「自己が被った精神的苦痛に基づく損害の賠償を請求することはできない」という肢は、いずれも誤りです。判例は、711条に列挙されていない者でも、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視できる身分関係があり、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、同条の類推適用により固有の慰謝料を請求できるとしています(最判昭和49年12月17日。被害者の夫の妹で、身体に障害があり長年被害者に庇護されて同居していた者)。内縁の配偶者もこの考え方で請求できると解されているので、内縁の配偶者は加害者の故意過失を証明した場合に限り慰謝料を請求できるとする肢は誤りです。さらに判例は、被害者が死亡しなくても、子が重傷を負い、その親が子の生命を害されたときにも比肩すべき精神上の苦痛を受けたときは、709条・710条により自己の権利として慰謝料を請求できるとしています(最判昭和33年8月5日)。その旨の肢は正しく、「被害者が死亡していない場合には,被害者の近親者は,慰謝料を請求することができない」という肢、近親者が固有の慰謝料を請求できるのは「被害者がその不法行為によって死亡した場合に限られる」という肢は誤りです。
損害賠償を請求できる者(生命・身体の侵害)
- 被害者本人の慰謝料請求権・逸失利益の請求権: 死亡すれば当然に相続される(最大判昭和42年11月1日)
- 父母・配偶者・子: 固有の慰謝料(711条)。相続人でなくてもよい
- 711条の者と実質的に同視できる身分関係の者: 711条の類推適用(最判昭和49年12月17日)
- 重傷の被害者の近親者: 生命侵害に比肩する精神上の苦痛があれば709条・710条で固有の慰謝料(最判昭和33年8月5日)
- 内縁の配偶者: 扶養利益の喪失を損害として請求できる。相続人がいても同じ(最判平成5年4月6日)
- 胎児: 損害賠償の請求権については既に生まれたものとみなす(721条)。出生前に母が代理して請求・和解することはできない(大判昭和7年10月6日)
胎児は損害賠償の請求権について既に生まれたものとみなされますが、出生前に親が胎児を代理して請求や和解をすることはできません
721条は、胎児は損害賠償の請求権については既に生まれたものとみなすと定めています。父が不法行為で死亡した当時に胎児だった子も、生きて生まれれば711条の固有の慰謝料などを請求できます。しかし判例は、721条は胎児が生きて生まれたときに不法行為の時にさかのぼって権利能力があったものとみなす趣旨で、胎児の間は権利能力がないので、出生前に親族が胎児を代理して加害者とした和解は胎児に効力を生じないとしています(大判昭和7年10月6日。阪神電鉄事件)。胎児の母が子の出生前でも「その代理人として子の固有の慰謝料請求権を行使することができる」という肢、胎児の両親は出生前に胎児を代理して損害賠償請求をすることができるという肢、胎児のときに不法行為を受けた者は出生前に父母が胎児を代理してした和解に「拘束される」という肢は、いずれも誤りです。権利能力の考え方の詳細は、権利能力と胎児の語で扱います。
内縁の配偶者は扶養利益の喪失を請求でき、後遺障害の逸失利益は別原因で死亡しても就労可能期間で算定し、定期金賠償も求められます
判例は、内縁の配偶者は、他方が不法行為で死亡した場合、加害者に対して将来の扶養利益の喪失を損害として賠償請求でき、被害者に相続人がいても同じだとしています(最判平成5年4月6日)。その旨の肢は正しいです。後遺障害で労働能力の一部を失った被害者が、事故と関係のない別の原因で死亡した場合について、判例は、事故の時点で死亡の原因となる具体的事由があり近い将来の死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、死亡の事実は就労可能期間の認定で考慮しないとしています(最判平成8年4月25日)。他方で、死亡後の生活費の控除は、交通事故と死亡との間に相当因果関係があり死亡による損害の賠償も請求できる場合に限られるとしています(最判平成8年5月31日)。その旨の肢は正しいです。また判例は、後遺障害による逸失利益について被害者が定期金による賠償を求めている場合に、不法行為に基づく損害賠償制度の目的と理念に照らして相当と認められるときは、定期金賠償の対象となるとしています(最判令和2年7月9日)。「後遺障害による逸失利益について,定期金による賠償を求めることができない」という肢は誤りです。なお、生命・身体の侵害による損害賠償請求権も金銭債権として譲渡でき、性質上譲渡できないとする肢は誤りです。
民法711条
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
民法721条
胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。
民法710条
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
論文ではこう使う
論文で死亡事故の損害賠償を論じるときは、①被害者本人に生じた損害(逸失利益・慰謝料)を相続人が相続して請求する部分(最大判昭和42年11月1日)と、②近親者が自己の権利として請求する部分(711条、その類推適用、709条・710条)を分けて書きます。相続人でない近親者・内縁配偶者・事実上の家族は②で、内縁の配偶者の扶養利益の喪失も独自の損害として構成します(最判平成5年4月6日)。逸失利益の算定では、別原因の死亡を考慮しないこと(最判平成8年4月25日)と生活費控除の扱い(最判平成8年5月31日)を、賠償の方法では定期金賠償の可否(最判令和2年7月9日)を検討します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。