一般不法行為の要件(709条・712条・713条・720条)とは
いっぱんふほうこういのようけん
一般不法行為とは、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害し、これによって損害を生じさせることで、加害者は損害を賠償する責任を負いますが、責任能力がない場合や正当防衛・緊急避難に当たる場合は責任を負いません(709条・712条・713条・720条)。
自転車でよそ見をして歩行者にぶつかれば、けがの治療費を払わなければなりません。契約がなくても、他人に損害を与えた人に償わせるのが不法行為の制度です。ただし民法は、わざと又は不注意で他人の権利や法律上守られる利益を侵害した場合に限って責任を負わせ、自分の行為の責任が分からない子どもや、身を守るためにやむを得ず反撃した人には責任を負わせません。人の行動の自由を守りつつ、落ち度のある人に損害を負担させる考え方です。
一般不法行為は、故意又は過失、権利又は法律上保護される利益の侵害、損害の発生、因果関係がそろうと成立し、これらは被害者が主張立証します
709条は、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。要件は、①故意又は過失、②権利又は法律上保護される利益の侵害、③損害の発生、④行為と損害の因果関係です。これらは損害賠償請求権を発生させる要件なので、請求する被害者が主張立証します。自転車で歩行者に衝突した事例で、BがAに損害賠償を請求する場合に「Aの過失を主張立証する必要はない」という肢は誤りです。過失とは、結果の発生を予見できたのに、結果を回避するために必要な注意を怠ったことをいいます。過失を加害者が反証しなければならない仕組み(中間責任)は、監督義務者・使用者・工作物の占有者などの特別な不法行為で定められています。
法律上保護される利益には景観利益も含まれ、生存の相当程度の可能性の侵害は死亡との因果関係とは別に不法行為になります
709条は権利だけでなく法律上保護される利益の侵害も対象にしています。判例は、良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(景観利益)は法律上保護に値し、その違法な侵害は不法行為になり得るとしています(最判平成18年3月30日。国立マンション事件)。その旨の肢は正しいです。因果関係について、判例は、医師の過失による医療行為と患者の死亡との因果関係は、医療水準にかなった医療が行われていれば患者がその死亡の時点でなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されて初めて肯定されるとしています(最判平成11年2月25日)。そのうえで、その高度の蓋然性は証明されなくても、患者がその死亡の時点でなお生存していた相当程度の可能性が証明されれば、その可能性を侵害したこと自体について医師は不法行為責任を負うとしました(最判平成12年9月22日)。相当程度の可能性が証明されたときは「その医療行為と患者の死亡との間における因果関係が肯定される」という肢は、可能性の侵害という別の法益の侵害と死亡との因果関係を取り違えているので誤りです。また、権利の行使であっても、社会観念上被害者が認容すべき程度を超えれば違法となり不法行為が成立するので、その肢は正しいです。
未成年者も責任能力があれば自ら責任を負い、責任能力がないことは加害者が主張立証します
712条は、未成年者が他人に損害を加えた場合に、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能(責任能力)を備えていなかったときは賠償の責任を負わないと定めています。未成年者であること自体で免責されるのではなく、責任能力のある未成年者は自ら709条の責任を負います。責任能力はおおむね12歳前後の知能が目安とされています。「未成年者が他人に損害を加えた場合,その未成年者の親権者が損害賠償責任を負うことはあっても,未成年者が損害賠償責任を負うことはない」という肢、未成年者は不法行為責任を負わず監督義務者が責任を負うとする肢は、いずれも誤りです。また、712条・713条は責任を免れる例外を定めた規定なので、責任能力がなかったことは賠償を免れようとする加害者が主張立証します。未成年者に損害賠償を請求する訴訟で「原告は,行為の当時その者に責任能力があったことを主張立証しなければならない」という肢は誤りです。
精神上の障害で責任を弁識する能力を欠く間の加害は免責されますが、故意又は過失で一時的にその状態を招いた者は責任を負います
713条本文は、精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は賠償の責任を負わないと定め、同条ただし書は、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときはこの限りでないとしています。飲酒や薬物で自ら責任を弁識できない状態を招いた者は、その原因をつくった時点で責任を問えるからです。故意又は過失によって一時的に責任を弁識する能力を欠く状態を招いた者はその間の加害について賠償責任を負うという肢、過失によってその状態を招いた者も責任を負うという肢は、いずれも正しいです。責任無能力者が責任を負わないときは、監督義務者が714条の責任を負います。
他人の不法行為に対し自己又は第三者の権利を守るためやむを得ずした加害は、正当防衛として責任を負いません
720条1項本文は、他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は損害賠償の責任を負わないと定めています。守る対象には第三者の権利も含まれます。Aの不法行為に対しBが第三者Cの権利を防衛するためやむを得ずAに加害行為をしたときでも「BはAに対し損害賠償責任を負う」という肢は誤りです。同項ただし書は、防衛のために関係のない第三者に損害を与えた場合に、その第三者が元の不法行為者に賠償を請求することを妨げないとしています。同条2項は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合(緊急避難)に1項を準用します。
一般不法行為の要件と責任を免れる事由
- 成立要件(被害者が主張立証): 故意又は過失、権利又は法律上保護される利益の侵害、損害の発生、因果関係(709条)
- 責任能力の欠如(加害者が主張立証): 未成年者で責任を弁識する知能がない(712条)、精神上の障害で責任を弁識する能力を欠く状態(713条本文)
- 713条ただし書: 故意又は過失で一時的に責任無能力の状態を招いた者は責任を負う
- 正当防衛: 他人の不法行為に対し自己又は第三者の権利・利益を防衛するためやむを得ずした加害(720条1項)
- 緊急避難: 他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合(720条2項)
民法709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法712条
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。
民法713条
精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。
民法720条1項
他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
論文ではこう使う
論文では、709条の要件を①故意又は過失(予見可能性を前提とした結果回避義務違反)、②権利又は法律上保護される利益の侵害、③損害の発生、④因果関係(事実的因果関係と損害賠償の範囲)の順に当てはめます。②では、景観利益のように権利とまではいえない利益も法律上保護に値するかを示し、医療過誤では死亡との因果関係が認められなくても生存の相当程度の可能性の侵害を検討します(最判平成12年9月22日)。加害者側の反論として責任能力の欠如(712条・713条)や正当防衛(720条)を置き、責任能力がなければ監督義務者の責任(714条)へ進みます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。