事務管理の効果(702条・費用償還・代弁済・報酬と損害賠償の否定・本人名義の法律行為)とは
じむかんりのこうか
事務管理の効果とは、事務管理が成立したときに本人と管理者の間に生じる権利義務のことで、管理者は本人のために有益な費用の償還と有益な債務の代わりの弁済を請求でき、本人の意思に反する管理ではそれが本人の現に受けている利益の限度に限られますが、報酬や損害の賠償は請求できず、本人の名でした法律行為の効果も本人には帰属しません(702条)。
頼まれずに隣家の生け垣を直した人が、かかった費用を隣家に払ってもらえるかが問題になります。民法は、本人のために有益な費用であれば償還を請求でき、業者への未払代金も本人に払ってもらえるとしました。他方で、頼まれていない以上、報酬や管理中にけがをした損害の賠償までは求められません。親切を損させない範囲で費用を戻し、それ以上の負担は本人に負わせないという線の引き方です。
管理者は本人のために有益な費用の償還を請求でき、有益な債務を負担したときは本人に代わりの弁済を請求できます
702条1項は、管理者が本人のために有益な費用を支出したときは、本人にその償還を請求できると定めています。ここでいう有益な費用には、必要費も含まれると解されています。同条2項は650条2項を準用し、管理者が本人のために有益な債務を負担したときは、本人に対し自己に代わってその弁済をすることを請求でき、その債務が弁済期にないときは相当の担保を供させることができるとしています。生け垣の修理を造園業者に頼んだ管理者は、未払の請負代金を本人に支払うよう請求できるので、「Bは,Aに対し,造園業者へ未払の請負代金を支払うよう請求することはできない」という肢は誤りです。有益な債務を負担した管理者が本人に代わりの弁済を請求できるという肢は正しいです。委任と違い、費用の前払を求める規定(649条)は準用されていないので、「事務管理をするについて費用を要するときは、本人は、管理者の請求により、その前払をしなければならない」という肢は誤りです。
本人の意思に反して事務管理をしたときは、費用の償還も代わりの弁済も、本人が現に利益を受けている限度に限られます
702条3項は、管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ同条1項・2項を適用すると定めています。本人の意思に反することが管理を始めた時に明らかでなかったから事務管理は成立するものの、本人が望まない管理の費用を全額負わせるのは酷だからです。本人の意思に反していても有益な費用の「全額の償還を請求することができる」という肢、反対に「その償還を請求することができない」という肢は、どちらも誤りで、現に利益を受けている限度で請求できます。管理の開始後に本人の意思に反することが明らかになった場合も、既に支出した費用の償還がまったくできなくなるわけではないので、「既に支出した費用の償還を請求することができない」という肢は誤りです。他方、隣家が近くブロック塀にする予定だった垣根を直したところ、翌週の台風で修理箇所が再び倒壊したときは、本人に残る利益がないので、修理費用の償還は請求できなくなり、その肢は正しいです。生け垣全体が台風で倒壊した事例で「生け垣の修理がAの意思に反していたときは,Bは,Aに対し,その修理に要した費用の支払を請求することはできない」という肢も正しいです。
管理者は報酬を請求できず、管理のために受けた損害の賠償も本人に請求できません
事務管理には、委任の報酬の規定(648条)も、受任者が過失なく受けた損害の賠償の規定(650条3項)も準用されていません(701条・702条2項が準用するのは645条〜647条と650条2項だけです)。そのため、管理者は本人に報酬を請求できません。迷い犬を自宅で世話している者が「犬の飼い主に対して報酬を請求することはできない」という肢、生け垣を自ら修理した隣人が「その修理に対する報酬の支払を請求することはできない」という肢は正しく、「管理者は,その事務が終了した時に,本人に対して相当の額の報酬を請求することができる」という肢は誤りです。また、管理者が事務の管理について自己に過失なく損害を受けても、本人に賠償を請求できません。その旨の肢は正しく、世話をしていた犬が花瓶を割った場合に、過失のない管理者が「犬の飼い主に対して損害賠償を請求することができる」という肢は誤りです。もっとも、管理に当然伴う出費(救助で破れた衣服の修繕費など)は、702条1項の費用として請求できると解されています。
管理者が本人の名でした法律行為の効果は、事務管理の効果としては本人に帰属しません
事務管理は本人と管理者の内部関係を定める制度で、管理者に本人を代理する権限を与えるものではありません。判例は、事務管理者が本人の名で第三者との間に法律行為をしても、その効果は当然には本人に及ばず、本人に効果が及ぶためには代理権の存在が必要だとしています(最判昭和36年11月30日)。管理者の行為は無権代理になり、本人が追認するか表見代理が成立したときに初めて本人に効果が及びます。「管理者が本人の名でした法律行為の効果は,本人に帰属する」という肢、「事務管理の効果として直接本人に帰属する」という肢は、いずれも誤りです。なお、迷い犬の治療費を支払った者は、702条1項の費用償還請求権を被担保債権として留置権を主張し、償還を受けるまで犬の引渡しを拒めるので、その肢は正しいです。
事務管理と委任の効果の比較
- 費用の償還: 事務管理は本人のために有益な費用(702条1項)。委任は必要と認められる費用と支出の日以後の利息(650条1項)
- 代わりの弁済・担保の供与: 事務管理も委任の650条2項を準用(702条2項)
- 本人の意思に反する場合: 現に利益を受けている限度に限られる(702条3項)
- 費用の前払: 事務管理は請求できない。委任は請求できる(649条)
- 報酬: 事務管理は請求できない。委任は特約があれば請求できる(648条1項)
- 損害の賠償: 事務管理は請求できない。委任は過失なく受けた損害の賠償を請求できる(650条3項)
- 代理権: 事務管理からは生じない(最判昭和36年11月30日)
民法702条1項
管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。
民法702条2項
第六百五十条第二項の規定は、管理者が本人のために有益な債務を負担した場合について準用する。
民法702条3項
管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、前二項の規定を適用する。
論文ではこう使う
論文では、管理者が本人に費用を請求する場面で、まず697条1項の要件を当てはめて事務管理の成立を認め、702条1項(有益な費用)・2項(代弁済)を請求の根拠にします。本人の意思に反していた事情があれば、成立は否定されないが702条3項で現存利益の限度に絞られることを示します。管理者が本人の名で第三者と契約した事例では、事務管理から代理権は生じないので無権代理となり(最判昭和36年11月30日)、本人の追認(116条)・表見代理・無権代理人の責任(117条)へと検討を進めます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。