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用語集 / 民法 / 特定物債権と保存義務

特定物債権と保存義務(400条)・注意義務の程度の一覧とは

とくていぶつさいけんとほぞんぎむ

民法 債権の目的と効力

特定物債権とは、この絵画・この建物のように、当事者が物の個性に着目して定めた特定物の引渡しを目的とする債権のことで、債務者は引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもってその物を保存しなければなりません(400条)。注意義務の程度は、善良な管理者の注意、自己の財産に対するのと同一の注意、固有財産におけるのと同一の注意などに分かれ、制度ごとに条文で決まっています。

中古の絵画を買う約束をして、引渡しは来月と決めたとします。その間、絵は売主の手元にあり、壊れれば買主が困ります。そこで民法は、特定物を引き渡す債務者に、引渡しまで物を大切に保管する義務を負わせています。どの程度の注意が要るかは、無償か有償か、誰のための管理か、相手方に落ち度があるかで変わり、条文が場面ごとに書き分けています。試験では、この注意の程度の言い回しが1語だけ入れ替えられます。

画廊の倉庫の場面。壁に一枚の絵画が掛かり、札「特定物(この絵)」が付いている。先生が売主役(札「売主」)で、手袋をはめて絵の額を布で丁寧に拭いている。横の机に契約書(「引渡しは来月」)と、温度湿度計。入口から男性(札「買主」)がのぞき込んで

特定物の引渡債務者は、引渡しをするまで、契約と取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意でその物を保存しなければなりません

400条は、債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならないと定めています。善良な管理者の注意とは、その人の能力にかかわらず、その立場にある人に一般に求められる程度の注意のことです。「特定物の引渡しを目的とする債権の債務者は,その引渡しをするまで,自己の財産に対するのと同一の注意をもって,その物を保存すべき義務を負う」という肢は、注意の程度を軽い方に入れ替えているので誤りです。贈与には寄託の659条のような軽減の規定がないので、特定物を贈与した者も400条により善良な管理者の注意を負います。「贈与者は,贈与した特定物を引き渡すまでの間,善良な管理者の注意をもってその物を保存する義務を負う」という肢は正しく、「贈与契約の贈与者は,目的物の引渡しまでの間,自己の財産に対するのと同一の注意をもって,目的物を保存すれば足りる」という肢は誤りです。400条は任意規定なので、当事者の特約で注意義務を加重することも軽減することもでき、「特定物の引渡しを目的とする債権の債務者が負う目的物の保存の義務は,特約により軽減することができる」という肢は正しいです。改正後の400条が「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる」と書き加えたのも、保存義務の中身が契約の趣旨で決まることを示すためです。なお、引渡しをすべき時の品質を契約などから定めることができないときは、その時の現状で引き渡せば足ります(483条)。

債権者が受領を拒み、又は受領できないときは、債務者は履行の提供をした時から自己の財産に対するのと同一の注意で保存すれば足ります

413条1項は、債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りると定めています。引渡しが遅れている原因が債権者の側にあるのに、債務者に重い注意を負わせ続けるのは公平でないからです。「債権者に受領遅滞があった場合であっても,善良な管理者の注意をもって,目的物を保存する義務を負う」という肢と、買主が受領できない場合に売主が「履行の提供をした時から引渡しが完了するまで」善良な管理者の注意で保存しなければならないとする肢は、いずれも誤りです。軽減されるのは注意の程度であって、保存義務そのものがなくなるわけではないので、受領遅滞の後に債務者が故意に物を滅失させれば責任を負います。受領遅滞のそのほかの効果(増加費用の負担・不能の帰責)は、受領遅滞の語で扱います。

無償であることを理由に注意義務が軽くなるのは条文に定めがある場合だけで、無報酬の受寄者は軽くなりますが、受任者は無償でも善良な管理者の注意を負います

659条は、無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負うと定めています。対価を得ずにもっぱら寄託者のために保管を引き受けた者には、重い注意を求めないという趣旨です。「受寄者は,無償で寄託を受けた場合には,自己の財産に対するのと同一の注意をもって,寄託物を保管すれば足りる」という肢は正しく、「無償受寄者は,善良な管理者の注意をもって寄託物を保管しなければならない」という肢は誤りです。ただし、商人がその営業の範囲内において寄託を受けた場合には、報酬を受けないときであっても善良な管理者の注意を負います(商法595条)。これに対し、委任には無償の場合の軽減規定がなく、受任者は委任の本旨に従い善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負います(644条)。委任は当事者の信頼関係を基礎に他人の事務を任せる契約だからです。「無償委任の受任者は,自己のためにするのと同一の注意をもって,委任事務を処理しなければならない」という肢は誤りです。株式会社と取締役の関係も委任に関する規定に従うので(会社法330条)、「株式会社の社外取締役は,善良な管理者の注意をもって任務を遂行しなければならない」という肢は正しいです。他人の物を占有する担保権者も重い注意を負い、留置権者は善良な管理者の注意をもって留置物を占有しなければならず(298条1項)、この規定は質権に準用されます(350条)。「質権者は,善良な管理者の注意をもって質物を占有しなければならない」という肢は正しいです。事務管理の管理者も、急迫の危害を免れさせるための緊急事務管理(698条)を除き、善良な管理者の注意を負うと解されているので、その旨の肢は正しいです。

相続財産の管理は固有財産・自己の財産と同じ程度の注意で足り、親権者の財産管理は自己のためにするのと同一の注意で足ります

相続人は、相続の承認又は放棄をするまでの間、その固有財産におけるのと同一の注意をもって相続財産を管理しなければなりません(918条)。相続人は自分の意思で財産を取得したわけではなく、帰属もまだ決まっていないからです。「相続人は,相続の承認又は放棄をするまでの間,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産を管理すれば足りる」という肢は正しいです。限定承認者も、その固有財産におけるのと同一の注意をもって相続財産の管理を継続しなければならず(926条1項)、限定承認者が善良な管理者の注意を負うとする肢は誤りです。相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときに限り、相続人又は相続財産の清算人に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産を保存しなければなりません(940条1項。令和3年改正で「管理の継続」から「現に占有している財産の保存」に改められました)。放棄者が善良な管理者の注意で管理しなければならないとする肢は誤りです。親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意をもってその管理権を行わなければならず(827条)、親子という関係から注意義務が軽減されています。「親権者は,善良な管理者の注意をもって子の財産を管理しなければならない」という肢は誤りで、「親権を行う者は,自己のためにするのと同一の注意をもって,その管理権を行わなければならない」という肢は正しいです。これに対し、後見人には644条が準用されるので(869条)、後見人は善良な管理者の注意を負います。

教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の前に立つ。黒板に縦に段の並んだ表があり、上から「善良な管理者の注意=特定物の債務者・贈与者・受任者(無償でも)・後見人・留置権者」「自己の財産に対するのと同一の注意=受領遅滞の後の債務者・無報酬
  • 善良な管理者の注意特定物の引渡債務者・贈与者(400条)、受任者(無償でも、644条)、後見人(869条)、留置権者・質権者(298条1項・350条)、事務管理者(緊急事務管理を除く)、商人の受寄者(無報酬でも、商法595条)
  • 自己の財産に対するのと同一の注意受領遅滞の後の特定物の債務者(413条1項)、無報酬の受寄者(659条)
  • 固有財産におけるのと同一の注意熟慮期間中の相続人(918条)、限定承認者(926条1項)
  • 自己の財産におけるのと同一の注意相続放棄者で現に占有している者(940条1項)
  • 自己のためにするのと同一の注意親権者の財産管理(827条)
  • 悪意又は重大な過失がある場合に限り責任緊急事務管理の管理者(698条)

民法400条

債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

民法413条1項

債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。

民法659条

無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。

論文ではこう使う

論文で特定物の滅失・損傷が問題になる事例では、まず債務者が400条の保存義務を尽くしたかを検討します。保存義務の中身は契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まるので、契約書の条項や取引の慣行から、どのような保管をすべきだったかを具体的に示します。そのうえで、債権者に受領遅滞があれば413条1項で注意の程度が自己の財産に対するのと同一の注意に下がることを当てはめ、義務違反があれば415条の損害賠償、なければ危険負担(536条)や受領遅滞中の不能(413条の2第2項)の処理に進みます。

試験ではこう問われる

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