履行不能・原始的不能と代償請求権(412条の2・413条の2・422条の2)とは
りこうふのうげんしてきふのうとだいしょうせいきゅうけん
履行不能とは、債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であることで、債権者はその履行を請求できなくなり、損害賠償や解除に進みます(412条の2第1項)。原始的不能とは、契約の成立の時にすでに履行が不能であることで、契約は無効にならず、債権者は履行の不能によって生じた損害の賠償を請求できます(同条2項)。
売った家が火事で焼けた、売った土地を別の人にも売って登記まで移してしまった、という場合、買主はもう家や土地を手に入れることができません。このように履行ができなくなった状態を履行不能といいます。不能になれば、買主は履行を求めることはできず、損害賠償や契約の解除で後始末をすることになります。改正で、契約の前から不能だった場合も同じ扱いになり、遅滞中・受領遅滞中に不能になった場合に誰の責任とみるかも条文で決まりました。
履行が不能かどうかは物理的に不可能かではなく、契約その他の債務の発生原因と取引上の社会通念に照らして判断します
412条の2第1項は、債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができないと定めています。物が壊れていなくても、取引の常識から見て履行を期待できなければ不能です。判例は、不動産の二重売買で一方の買主に移転登記がされた場合は、社会の取引観念上不能であり、売主の債務は移転登記の完了の時に履行不能になったとしています(最判昭和35年4月21日)。そのため、約定の期日前でも、買主は履行不能を理由として催告なしに直ちに解除でき(542条1項1号)、その旨の肢は正しいです。承諾を得た転貸借で、原賃貸借が転貸人の債務不履行を理由に解除された場合について、判例は、賃貸人が転借人に目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により転貸借は原則として終了するとしています(最判平成9年2月25日)。「Aが転貸借を承諾していた以上,BC間の転貸借契約におけるBのCに対する債務は履行不能とはならない」という肢は誤りです。履行不能になっても契約の効力が当然に失われるわけではなく、債権者が解除するか、危険負担(536条)で反対給付の履行を拒むかを選びます。「その売買契約の効力は法律上当然に失われ,買主は,代金を支払う義務を免れる」という肢は誤りです。
契約の成立の時にすでに不能であっても契約は無効にならず、債権者は履行の不能によって生じた損害の賠償を請求できます
改正前は、契約の時にすでに不能な給付を目的とする契約は無効と考えられていました。しかし、不能かどうかが契約の前か後かという偶然で、損害賠償の可否が大きく変わるのは不合理です。そこで412条の2第2項は、契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げないと定めました。売買の目的の別荘が契約の前日に焼けていた場合でも、売主に帰責事由があれば、買主は履行利益の賠償を請求できます。「契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、その履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない」という肢は正しいです。
履行遅滞中に誰の責任でもない事由で不能になれば債務者の責めに帰すべき事由とみなされ、受領遅滞中に不能になれば債権者の責めに帰すべき事由とみなされます
413条の2第1項は、債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなすと定めています。期限どおりに引き渡していれば滅失しなかったのだから、遅れた債務者に負担させるのが公平だからで、改正前の判例の結論を明文化したものです。「債務者の責めに帰すべき事由による履行遅滞が生じた後に,債務者の責めに帰することができない事由によって債務の履行が不能になった場合,債務者は履行不能による損害につき賠償責任を負わない」という肢は誤りで、売主が遅滞の責任を負っている間に誰の責任でもない事由で絵画が滅失したときに買主が履行に代わる損害賠償を請求できるとする肢は正しいです。これと反対に、同条2項は、債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によって履行が不能となったときは、その履行の不能は債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなすと定めています。「その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなされる」という肢は、みなされる主体を逆にしているので誤りです。債権者の責めに帰すべき事由による不能になるので、債権者は解除できず(543条)、反対給付の履行も拒めません(536条2項)。
履行不能のときや契約が解除されたときなどは、債権者は解除をしないままでも履行に代わる損害賠償を請求できます
415条2項は、損害賠償を請求できる場合において、債務の履行が不能であるとき(1号)、債務者が履行を拒絶する意思を明確に表示したとき(2号)、債務が契約によって生じたもので契約が解除され、又は債務の不履行による解除権が発生したとき(3号)は、債務の履行に代わる損害賠償(填補賠償)を請求できると定めています。売主の帰責事由で不動産の財産権移転義務が履行不能になった場合、買主は契約を解除しなくても填補賠償を請求できるので、その旨の肢は正しいです。契約を解除した場合にも損害賠償は妨げられないので(545条4項)、売主が買主の代金債務の不履行で解除したときに代金債務の履行に代わる損害賠償を請求できるとする肢も正しいです。他人の権利の売主がその責めに帰すべき事由で権利を移転できないときは、買主が契約の時に他人の権利であることを知っていても、債務不履行として415条により損害賠償を請求できます(改正前は担保責任と別に債務不履行責任を認める形で同じ結論でした)。その旨の肢は正しいです。
債務者が履行不能と同じ原因で目的物の代償を得たときは、債権者は受けた損害の額の限度で、その権利の移転や利益の償還を請求できます
422条の2は、債務者が、その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは、債権者は、その受けた損害の額の限度において、債務者に対し、その権利の移転又はその利益の償還を請求することができると定めています(代償請求権。改正前は判例が認めていました。最判昭和41年12月23日)。たとえば、売った家屋が引渡し前に焼失し、売主が火災保険金を受け取った場合、買主はその保険金の償還を請求できます。債務者に本来の給付以上の利益を残すのは公平でないからです。ただし、債権者が得られるのは受けた損害の額が限度で、それを超えて利益を得ることはできません。履行不能を生じさせたのと同一の原因で債務者が代償を取得した場合に、債権者が受けた損害を限度としてその償還を請求できるとする肢は、いずれも正しいです。
民法412条の2第1項
債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
民法412条の2第2項
契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
民法413条の2第1項
債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
民法422条の2
債務者が、その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは、債権者は、その受けた損害の額の限度において、債務者に対し、その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる。
論文ではこう使う
論文で履行不能を論じるときは、まず412条の2第1項の「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能」に当たるかを、二重譲渡と登記の具備、目的物の滅失など事実に即して認定します。次に、不能の時期と原因から帰責事由を検討し、履行遅滞中の不能なら413条の2第1項、受領遅滞中の不能なら同条2項のみなし規定を当てはめます。そのうえで、債権者の救済として、填補賠償(415条2項1号)、無催告解除(542条1項1号)、反対給付の履行拒絶(536条1項)、代償請求権(422条の2)を事案に応じて選んで論じます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。