危険の移転(567条)と売買の受領遅滞とは
きけんのいてん
危険の移転とは、売買の目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由で滅失・損傷した場合の損失が、目的物の引渡し(又は契約に適合する物の提供に対する受領拒絶)の時から売主から買主に移ることで、その後は買主は代金の支払を拒めません(567条)。
買った中古自転車が受け取った翌日に落雷で壊れても、買主は代金を払わなければなりません。物を受け取った買主は、自分の手元で物を管理できるので、その後の偶然の事故の損失は買主が負うのが公平です。民法は、引渡しを境に滅失・損傷の危険が売主から買主へ移ると定め、買主が正当な理由なく受け取りを拒んだ場合も同じに扱っています。
目的物を引き渡した後に双方の責めに帰することができない事由で滅失・損傷すれば、買主は代金の支払を拒めません
567条1項は、売主が買主に特定した目的物を引き渡した場合、その引渡し以後に当事者双方の責めに帰することができない事由で目的物が滅失・損傷したときは、買主はそれを理由に追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・解除ができず、代金の支払も拒めないと定めています。危険の移転の基準は引渡しで、所有権がいつ移るかとは関係がありません。「AB間の売買契約に甲の所有権は代金完済時に移転する旨の特約が付されていた場合において、甲の滅失がBへの引渡し後であったときは、Bは、危険負担の抗弁を主張して代金の支払を拒むことができる」という肢は誤りです。引渡し前の損傷でも、過分の費用をかけずに契約に適合した状態に修復して引き渡せるなら、売主の債務は履行不能ではないので、買主は危険負担を理由に代金の一部の支払を拒めません。「過分の費用を要することなく甲を契約の内容に適合した状態に修復して引き渡すことができるときであっても、Bは、危険負担の抗弁を主張して、代金の一部の支払を拒むことができる」という肢は誤りです。
契約に適合する目的物の提供を買主が拒んだ後の滅失・損傷も、買主の負担になります
567条2項は、売主が契約の内容に適合する目的物で引渡しの債務の履行を提供したのに、買主が受領を拒み又は受領できない場合、提供の時以後の双方無責の滅失・損傷も同じく買主の負担とします。受領遅滞中の双方無責の履行不能は債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなされる(413条の2第2項)ので、買主は解除できず(543条)、代金の支払も拒めません(536条2項)。「買主が目的物の受領を拒み、その後に、売主及び買主の双方の責めに帰することができない事由により目的物が滅失した場合、買主は契約を解除することができる」という肢は誤りです。持参債務のワインを買主の住所に持参して受領を拒まれた後に第三者の放火で滅失した場合も、特定した物が滅失したので売主は引渡債務を免れます。「その後そのワインが保管されていた倉庫が第三者の放火によって焼失し,ワインが滅失したときには,売主は,ワインの引渡債務を免れる」という肢は正しいです。他方、品質が契約に適合しない物の提供は567条2項の提供に当たらず、危険は移りません。「その品質が契約の内容に適合しないものであったためにBがその受領を拒んだときは、その後に甲の滅失が生じたとしても、Bは、危険負担の抗弁を主張して代金の支払を拒むことができる」という肢は正しいです。受領遅滞中でも、売主は自己の財産に対するのと同一の注意をもって保存しなければならない(413条1項)ので、売主の重過失で滅失したときは売主の責めに帰すべき不能です。「Aの重過失により甲が滅失したときは,Bは,代金の支払を拒むことができない」という肢は、買主は損害賠償請求や解除ができ、代金の支払を拒めるので誤りです。
引渡し前の滅失は、誰の責めに帰すべき事由によるかで代金の扱いが分かれます
引渡し前に目的物が滅失すれば、売主の引渡債務は誰に帰責事由があるかを問わず履行不能となり、買主は引渡しを請求できません(412条の2第1項)。「当該建物の滅失が売主の責めに帰すべき事由による場合,売主は,買主からの建物の引渡請求を拒絶することができる」という肢は正しいです。売主の責めに帰すべき事由による滅失なら、買主は無催告で解除して既払代金の返還を求められ(542条1項1号・545条1項)、損害賠償も請求できます。「買主は,既に売主に代金を支払っているときは,契約を解除して,その代金の返還を請求することができる」という肢は正しいです。買主の責めに帰すべき事由による滅失なら、買主は代金の支払を拒めず(536条2項)、解除もできないので、既に払った代金も取り戻せません。「当該建物の滅失が買主の責めに帰すべき事由による場合,売主は,買主に対して代金の支払を請求することはできない」という肢は誤りで、「買主は,既に売主に代金を支払っているときでも,その返還を請求することはできない」という肢、受領を拒んだ後に買主の過失でワインが滅失した場合に「買主は,ワインの代金債務を免れない」という肢、引渡し前にBの責めに帰すべき事由で滅失した場合に「Bは,この請求を拒むことができない」という肢は正しいです。双方無責の滅失なら、買主は代金の支払を拒めますが(536条1項)、代金債務は当然には消滅せず、消滅させるには解除が要ります。「甲が第三者の失火により焼失したときは,Bの代金支払債務は当然に消滅する」という肢と、「売買契約は契約時にさかのぼって無効となるため,買主は,既に売主に代金を支払っているときは,その返還を請求することができる」という肢は誤りです。
- 引渡し前・売主の帰責買主は解除と損害賠償ができます
- 引渡し前・双方無責買主は代金の支払を拒めます(536条1項)。代金債務を消すには解除が要ります
- 引渡し前・買主の帰責買主は代金の支払を拒めず、解除もできません(536条2項・543条)
- 引渡し後・双方無責買主は追完・減額・損害賠償・解除ができず、代金も払います(567条1項)
- 適合物の提供を拒んだ後・双方無責引渡し後と同じく買主の負担です(567条2項・413条の2第2項)
民法567条1項
売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
民法567条2項
売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。
民法413条の2第2項
債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
論文ではこう使う
論文では、売買の目的物が滅失・損傷した場面で、まず滅失の時期が引渡し(又は適合物の提供に対する受領拒絶)の前か後かを確定します。引渡し後なら567条1項、受領遅滞後なら567条2項と413条の2第2項により、双方無責の滅失は買主の負担となり、買主は解除も代金の拒絶もできないと書きます。引渡し前なら、誰の責めに帰すべき事由かで分け、双方無責なら買主は536条1項で代金の支払を拒め、代金債務を消すには542条1項1号で解除すると論じます。売主が提供した物が契約に適合しないときは受領を拒んでも受領遅滞にならず、危険は移らないことも確かめます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。