委任の解除と終了(651条〜656条)とは
いにんのかいじょとしゅうりょう
委任の解除とは、委任の各当事者がいつでもすることができる解除です(651条1項)。相手方に不利な時期の解除や受任者の利益をも目的とする委任の解除は、やむを得ない事由がなければ損害賠償が必要です(同条2項)。委任は当事者の死亡・破産手続開始の決定と受任者の後見開始の審判で終了します(653条)。
委任は相手を信頼して任せる契約なので、信頼がなくなれば、頼んだ側からも頼まれた側からも、理由がなくてもいつでもやめられます。ただし、相手に都合の悪い時期にやめたり、頼まれた側の利益のためにもなっている委任をやめたりしたときは、やむを得ない事情がない限り損害を償います。また、当事者が死亡したり破産したりすると、信頼の土台がなくなるので委任は当然に終わります。
委任は各当事者がいつでも解除でき、受任者からの解除にもやむを得ない事由は要りません
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができます(651条1項)。信頼を失った相手のために事務を続けさせるのは無意味だからです。受任者からの解除にも、特別の理由は要りません。「受任者からは,やむを得ない事由がなければ解除することができない」という肢と「受任者は,やむを得ない事由がなければ,委任契約を解除することができない」という肢は誤りです。期間の定めのある有償の委任でも、受任者は期間の満了前に解除できます。「期間の定めのある有償の委任契約の受任者は、期間の満了前に契約を解除することができる」という肢は正しいです。相手方に不利な時期であっても解除そのものはできます。「受任者に不利な時期には、委任を解除することができない」という肢は誤りです。
相手方に不利な時期の解除と受任者の利益をも目的とする委任の解除は、やむを得ない事由がなければ損害を賠償します
解除をした者は、相手方に不利な時期に解除したとき、又は委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したときは、相手方の損害を賠償しなければなりません(651条2項本文)。ただし、やむを得ない事由があったときは賠償しなくてよいです(同項ただし書)。「委任を解除した者は,その解除の時期にかかわらず,相手方に対する損害賠償責任を負わない」という肢と「やむを得ない事由があったときであっても、委任者は、受任者に対し、その損害を賠償しなければならない」という肢は誤りです。受任者の利益をも目的とする委任について、平成29年改正前の判例は、委任者はやむを得ない事由があれば解除でき、やむを得ない事由がなくても、委任者が解除権自体を放棄したものとは解されない事情があるときは解除でき、受任者の不利益は損害賠償で償えば足りるとしていました(最判昭和56年1月19日)。現行法はこれを進めて、解除はいつでもでき、損害賠償で調整するという形にしました。「委任者は,やむを得ない事由があるときには,契約を解除することができる」という肢と「委任者が委任を解除する権利自体を放棄したものと解されない事情があるときは,委任を解除することができる」という肢は正しく、「受任者の利益をも目的とする委任契約においては、委任者は、やむを得ない事由がなければ、契約を解除することができない」という肢は誤りです。
委任の解除は将来に向かってのみ効力を生じ、債務不履行による解除でも同じです
委任の解除には賃貸借の620条が準用され、解除は将来に向かってのみその効力を生じます(652条)。継続的な事務処理で既に生じた関係を覆す必要がないからです。任意解除だけでなく債務不履行による解除も同じです。「委任契約を債務不履行により解除したときは,その解除は,将来に向かってのみその効力を生ずる」という肢と「委任の解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる」という肢は正しいです。
委任は当事者の死亡・破産手続開始の決定と受任者の後見開始の審判で終了しますが、委任者の死亡で終了しない特約は有効です
委任は、委任者又は受任者の死亡、委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと、受任者が後見開始の審判を受けたことによって終了します(653条)。委任者の後見開始や受任者の保佐開始は終了事由ではありません。「委任者の死亡によっては終了しない」という肢と「委任者が同決定を受けたことによっては終了しない」という肢は誤りで、「受任者が後見開始の審判を受けたことによって終了する」という肢は正しいです。もっとも、653条は強行規定ではありません。判例は、自己の死後の事務を含めて委任した場合には、委任者の死亡によっても契約を終了させない合意を含み、653条の法意はその効力を否定しないとしました(最判平成4年9月22日)。「委任者の死亡によっても委任は終了しないという合意は,有効である」という肢と「委任は、委任者が死亡しても当然には終了しない」という肢は正しく、「その特約は、無効である」という肢は誤りです。委任が終了した場合に急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者側が事務を処理できるようになるまで必要な処分をしなければなりません(654条)。「受任者は、委任者の相続人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない」という肢は正しいです。
終了事由は相手方に通知したか相手方が知っていたときでなければ相手方に対抗できません
委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができません(655条)。終了を知らずに事務を続けた相手方が不測の損害を受けないようにするためです。相手方が知っていれば通知は要りません。「委任者の相続人は,委任者の死亡による委任の終了を受任者に対抗することができない」という肢と「委任者は、破産手続開始の決定を受けたことを受任者に通知したとき、又は受任者が破産手続開始決定の事実を知っていたときでなければ、受任者に対し、委任の終了を主張することができない」という肢は正しく、「相手方がその事由を知っているか否かを問わず,これをもってその相手方に対抗することができない」という肢は誤りです。なお、任意後見契約は公正証書でしなければなりません(任意後見契約に関する法律3条)。「公正証書に限らず,その他の書面によってもすることができる」という肢は誤りです。
- 任意解除(651条1項)各当事者がいつでも。理由は要りません
- 損害賠償(651条2項)不利な時期の解除・受任者の利益をも目的とする委任の解除。やむを得ない事由があれば不要
- 解除の効力(652条)将来に向かってのみ。債務不履行解除も同じ
- 終了事由(653条)当事者の死亡・破産手続開始の決定、受任者の後見開始の審判
- 死亡で終了しない特約有効です(最判平成4年9月22日)
- 急迫の事情(654条)受任者側が必要な処分をします
- 終了の対抗(655条)通知したか相手方が知っていたとき
民法651条1項
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
民法651条2項
前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
民法655条
委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない。
論文ではこう使う
委任者からの解除の効力が争われる事案では、651条1項で解除そのものは有効と示し、争点を損害賠償に移します。受任者の利益をも目的とする委任かどうかは、報酬を得る利益を除いて、受任者が委任事務の処理から独自の利益を得ているかで判断し、該当すればやむを得ない事由の有無を検討します。委任者が死亡した後の事務の委任なら、死亡で終了しない合意を含むと解して(最判平成4年9月22日)、受任者の事務の継続を認めます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。