代理権の範囲と消滅(103条・111条)とは
だいりけんのはんいとしょうめつ
代理権の範囲とは代理人がどこまでの行為を本人のためにすることができるかであり、代理権の消滅とは代理権が失われることです。権限の定めのない代理人は保存行為と性質を変えない範囲内の利用・改良行為だけをすることができ(103条)、代理権は本人の死亡や代理人の死亡・破産手続開始の決定・後見開始の審判などで消滅します(111条)。
留守中の家の管理を頼んだのに、何をしてよいかを決めていなかったとします。雨漏りを直してもらえないのは困りますが、勝手に家を売られても困ります。そこで民法は、権限の定めのない代理人は、財産を守る行為と、性質を変えない範囲で利用し改良する行為だけができるとしました。また代理権は、本人や代理人が亡くなるなど、代理を続ける基礎が失われたときに消滅します。代理人への信頼と本人の存在が、代理権の土台だからです。
権限の定めのない代理人は、保存行為と、性質を変えない範囲内の利用・改良行為だけをすることができます
代理権の範囲は、任意代理では授権の内容で、法定代理では法律の規定で決まります。範囲がはっきりしないときのために、103条は、権限の定めのない代理人は、保存行為(1号)と、代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為(2号)のみをする権限を有すると定めています。保存行為は家屋の修繕のように財産の現状を維持する行為で、利用行為は現金を預金にするように収益を図る行為、改良行為は物や権利の価値を高める行為です。売却のような処分行為はできません。「権限の定めのない代理人は,保存行為をする権限のみを有する」という肢は誤りです。「その利用又は改良を目的とする行為をする権限を有する」という肢と、「権限の定めのない代理人は、保存行為をする権限を有する」という肢は正しいです。
- 保存行為(103条1号)財産の現状を維持する行為です。家屋の修繕や、時効の完成猶予・更新の措置がこれに当たります
- 利用行為(103条2号)性質を変えない範囲で収益を図る行為です。現金を銀行に預けることがこれに当たります
- 改良行為(103条2号)性質を変えない範囲で価値を高める行為です。無利息の貸金を利息付きに改めることがこれに当たります
- 処分行為権限の定めのない代理人はできません。不在者の財産の管理人なら家庭裁判所の許可を得てすることができます(28条)
不在者の財産の管理人は103条の範囲を超える行為に家庭裁判所の許可が要りますが、敗訴判決への控訴は保存行為として許可なくできます
家庭裁判所が選任した不在者の財産の管理人は、103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得てその行為をすることができます(28条)。判例は、不在者を被告とする土地明渡請求を認容した第一審判決に対して控訴を提起することは、不在者の財産の現状を維持する保存行為に当たるので、家庭裁判所の許可は要らないとしています(最判昭和47年9月1日)。負けた判決を確定させないことは財産を守ることそのものだからです。「家庭裁判所の許可を得ないで控訴をすることができる」という肢は正しいです。不在者の財産の管理人の選任と許可が要る行為の範囲は、不在者の財産管理の語で扱います。
成年後見人の代理権は財産に関する法律行為の全部に及び、日常生活に関する行為や本人の意思に反する行為でも無権代理になりません
後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表します(859条1項)。成年被後見人の日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消すことができない(9条ただし書)とされていますが、これは本人が自分でできる範囲を残す規定で、成年後見人の代理権を狭める規定ではありません。「成年後見人は,成年被後見人の日常生活に関する法律行為について成年被後見人を代理することはできない」という肢は誤りです。また、成年後見人は成年被後見人の意思を尊重しなければなりません(858条)が、これは後見人が本人に対して負う職務上の義務で、代理権の範囲を外から画するものではありません。「成年被後見人の意思に反した場合であっても,無権代理とはならない」という肢は正しいです。居住用不動産の処分に家庭裁判所の許可が要る点(859条の3)や利益相反は、後見の語と親権の内容と利益相反行為の語で扱います。
父母の一方が共同名義でした代理行為は、他の一方の意思に反していても、相手方が悪意でなければ効力を妨げられません
父母の双方が親権者であるときは、親権は父母が共同して行います(824条の2第1項)。共同で行使すべき代理権を父母の一方が共同の名義で行使した場合について、825条は、その行為は他の一方の意思に反したときであっても、そのためにその効力を妨げられないとし、相手方が悪意であったときはこの限りでないと定めています。相手方は共同名義を見て双方の同意があると信じるのが普通なので、その信頼を守るためです。「その行為が他の一方の意思に反していることをその行為の相手方が知っているときは,他の一方は,その行為の効力が生じないことを主張することができる」という肢は正しいです。「代理行為の相手方が悪意でない限り,そのためにその行為の効力は妨げられない」という肢も正しいです。
代理権は本人の死亡、代理人の死亡・破産手続開始の決定・後見開始の審判で消滅し、委任による代理権は委任の終了でも消滅します
111条1項は、本人の死亡(1号)と、代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと(2号)を、任意代理と法定代理に共通する消滅事由としています。効果の帰属先である本人がいなくなれば代理を続ける基礎がなく、代理人の個性への信頼も相続されないからです。「代理権を授与した本人が死亡しても,代理権は消滅しない」という肢は誤りです。「被相続人が第三者から与えられていた代理権は,相続人に承継されない」という肢は正しいです。委任による代理権は、これらに加えて委任の終了によっても消滅します(111条2項)。なお、商行為の委任による代理権は、本人の死亡によっては消滅しません(商法506条)。代理人の後見開始と保佐開始の違いは代理人の行為能力の語で、消滅後の取引の保護は代理権消滅後の表見代理の語で扱います。
民法103条
権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。一 保存行為 二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
民法111条
代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。一 本人の死亡 二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。2 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。
民法825条
父母が共同して親権を行う場合において、父母の一方が、共同の名義で、子に代わって法律行為をし又は子がこれをすることに同意したときは、その行為は、他の一方の意思に反したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
民法28条
管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。
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