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用語集 / 民法 / 無権代理と相続

無権代理と相続とは

むけんだいりとそうぞく

民法 代理

無権代理と相続とは、無権代理行為の後に本人と無権代理人の間で相続が起きた場合に、無権代理行為の効力がどうなるかという問題です。判例は、無権代理人が本人を単独相続すれば当然に有効になるとする一方、本人が追認を拒絶した後の相続、共同相続、本人が無権代理人を相続した場合には当然には有効にならないとしています。

息子が父の代理人を名乗って父の土地を勝手に売り、その後に父が亡くなって息子が相続したとします。息子が父の立場で追認を拒絶できるかが問題になります。自分で売っておきながら、相続した途端に知らないと言うのは身勝手です。反対に、父が先に追認を拒絶していたり、他にも相続人がいたりすれば話は変わります。判例は、誰が誰を相続したのか、相続の前に本人が何をしていたかで場面を分け、信義則と相続人の利益の両方から結論を決めています。

板書の相続関係図。黒板に「父(本人)」と「息子(無権代理人)」が縦線でつながり、息子から右の「買主(相手方)」へ「父の土地の売買(無権代理)」の矢印。父の上に「死亡→息子が単独相続」の吹き出し。先生が教師役(札「先生」)で図を指している。先

無権代理人が本人を単独で相続した場合、本人が自ら法律行為をしたのと同様の地位が生じ、無権代理行為は当然に有効になります

判例は、無権代理人が本人を相続し本人と代理人との資格が同一人に帰するに至った場合には、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものとして、無権代理行為は当然に有効になるとしています(最判昭和40年6月18日)。自らした無権代理行為について、本人の資格で追認を拒絶するのは信義則に反するからです。学説では、相続で本人と無権代理人の地位が融合するとみる見解と、二つの地位が併存したうえで無権代理人は信義則上追認を拒絶できないとみる見解が対立していますが、単独相続のこの場面で結論は同じです。なお、無権代理人を相続した後にさらに本人を相続した者も、本人の資格で追認を拒絶する余地はなく、本人が自ら法律行為をしたのと同様の地位を生じるとされています(最判昭和63年3月1日)。「無権代理人の地位を相続した後に本人の地位をも相続した第三者は,無権代理行為の追認を拒絶することができる」という肢は誤りです。

本人が追認を拒絶した後に死亡した場合は、無権代理人が相続しても無権代理行為は有効になりません

本人が追認を拒絶すれば、無権代理行為の効力が本人に及ばないことがその時点で確定し、以後は本人であっても追認によって有効にすることはできません。そのため判例は、本人が追認を拒絶した後に無権代理人が本人を相続しても、追認拒絶の効果に影響はなく、無権代理行為は有効にならないとしています(最判平成10年7月17日)。本人が抵当権設定登記の抹消登記請求訴訟を起こしていた事案は、本人が追認を拒絶していた場面に当たります。「本人が抵当権設定登記の抹消登記請求訴訟を提起した後死亡し,無権代理人が本人を相続したとしても,無権代理行為は,有効とならない」という肢と、「その後無権代理人が本人を相続したとしても,無権代理行為が有効になるものではない」という肢は正しいです。「本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合であっても,その後に無権代理人が本人を相続したときは,無権代理行為は有効になる」という肢や、「本人が追認を拒絶した後に死亡したときでも,無権代理行為は有効になる」という肢は誤りです。

法廷の場面。原告席に年配の男性(札「本人(父)」)が「抵当権設定登記抹消請求」の訴状を手にしている。右側に時間の流れの帯があり「訴え提起(追認拒絶)→ 本人の死亡 → 無権代理人が相続」と書かれている。裁判官席に先生が裁判官役(札「裁判所」

無権代理人が他の相続人と共同相続した場合は、共同相続人全員の追認がなければ、無権代理人の相続分についても当然には有効になりません

判例は、無権代理行為を追認する権利はその性質上相続人全員に不可分的に帰属するので、共同相続人全員が共同して行使しない限り無権代理行為は有効とならず、他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理人の相続分に相当する部分においても当然に有効となるものではないとしています(最判平成5年1月21日)。無権代理人の持分だけ有効にすると、他の相続人が望まない共有を押しつけられ、遺産分割の利益も害されるからです。他の共同相続人全員が追認している場合には、無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されません。「無権代理人の相続分の限度で無権代理行為は当然に有効になる」という肢や、「他の共同相続人全員の追認がなくても,無権代理人が本人から相続により承継した部分について,無権代理行為は有効となる」という肢は誤りです。「他の共同相続人の一人が追認を拒絶したときは,無権代理行為は有効にならない」という肢、「Dの追認がない限り,Aの相続分に相当する部分においても,売買契約は当然に有効となるものではない」という肢、「無権代理行為を追認する権利は、相続人全員に不可分的に帰属する」という肢は正しいです。

遺産分割協議の座卓の場面。座卓を囲んで、男性(札「無権代理人A」)、女性(札「共同相続人D」)、先生が司会役(札「先生」)。座卓の上に「連帯保証契約書(亡父名義)」と「追認書」の用紙があり、Dが腕を組んで追認書に手を付けていない。先生の吹き

本人が無権代理人を相続した場合、本人は追認を拒絶できますが、無権代理人の責任は相続により承継します

本人が無権代理人を相続した場合について、判例は、相続人である本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても何ら信義に反するところはないから、無権代理行為は本人の相続により当然に有効となるものではないとしています(最判昭和37年4月20日)。本人は自分で無権代理行為をしたわけではないからです。「本人は,無権代理人の地位を単独相続した場合,無権代理行為の追認を拒絶することができる」という肢と、「売買契約は当該相続により当然に有効となるものではない」という肢は正しいです。もっとも、117条の無権代理人の債務は相続の対象となり、本人が無権代理人を相続した場合も同じで、本人は追認を拒絶できる地位にあったことを理由にその債務を免れることはできません(最判昭和48年7月3日)。「本人は,無権代理人の地位を単独相続した場合,無権代理人の相手方に対する責任を承継する」という肢と、「追認を拒絶することができる地位にあったことを理由として,無権代理人の責任を免れることができない」という肢は正しいです。ただし、本人が承継する履行責任は、無権代理人が自ら負っていた範囲に限られると解されています。

  • 無権代理人が本人を単独相続無権代理行為は当然に有効になります(最判昭和40年6月18日)
  • 本人が追認拒絶をした後に無権代理人が相続有効になりません(最判平成10年7月17日)
  • 無権代理人が他の相続人と共同相続全員の追認がなければ、無権代理人の相続分についても有効になりません(最判平成5年1月21日)
  • 本人が無権代理人を相続本人は追認を拒絶できますが、117条の責任は承継します(最判昭和37年4月20日・最判昭和48年7月3日)
  • 無権代理人を相続した者が後に本人も相続追認を拒絶できません(最判昭和63年3月1日)
  • 無権代理人が本人の成年後見人に就職追認拒絶は原則として許されますが、信義則に反する例外的な場合があります(最判平成6年9月13日)

無権代理人が後に本人の成年後見人に就職した場合は、追認を拒絶することが信義則に反するかを諸事情から判断します

本人が生きている間に無権代理人が本人の成年後見人になった場合、後見人は本人の利益のために代理権を行使する義務を負うので、就職前の無権代理行為の追認を拒絶することは原則として許されます。判例は、そのうえで、相手方の利益にも相応の配慮を払うべきであり、交渉の経緯、追認と拒絶のそれぞれによる双方の不利益、後見人の関与の程度などを考慮して、追認拒絶が当事者間の信頼を裏切り正義の観念に反するような例外的な場合には信義則上許されないとしています(最判平成6年9月13日)。他人の物を売った者の地位を権利者が相続した場合の処理(最大判昭和49年9月4日)は、他人物売買の語で扱います。

最判平成5年1月21日

無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ、無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではない

論文ではこう使う

論文では、まず誰が誰をどの順で相続したか、相続の前に本人が追認又は追認拒絶をしていたかを確認します。無権代理人が本人を単独相続した場面では、地位の融合と併存の見解を示し、併存の立場から無権代理人が追認を拒絶するのは信義則に反すると論じて当然有効の判例の結論に至ります。共同相続では追認権の不可分的帰属から全部について有効とならないこと、本人が無権代理人を相続した場面では追認拒絶はできるが117条の責任は承継することを書きます。後見人就職の事案は、判例の考慮要素を問題文の事情に一つずつ当てはめます。

試験ではこう問われる

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