公序良俗違反と強行法規・取締法規違反(90条・91条)とは
こうじょりょうぞくいはんときょうこうほうきとりしまりほうきいはん
公序良俗違反とは、法律行為が公の秩序又は善良の風俗に反することで、その法律行為は無効になります(90条)。強行規定に反する法律行為も無効ですが、行政上の目的で行為を取り締まる取締法規に違反しただけでは直ちに無効にはならず、規定の目的や当事者の認識から私法上の効力を判断します。
賭けに勝った人が「約束どおり払え」と裁判所に訴えても、裁判所が強制的に取り立ててくれることはありません。社会の秩序や道徳に反する約束に法が力を貸せば、法がその悪事を後押しすることになるからです。民法は、公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為を無効とし(90条)、当事者が合意していても効力を認めません。他方で、法律の規定に違反しただけで常に無効にすると取引が不安定になるので、どの違反が無効につながるかは規定の目的に照らして決められています。
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は無効で、当事者が望んでも追認によって有効にはなりません
90条は、公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は無効とすると定めています。賭博のような射倖行為、配偶者のある者との婚姻の予約のような人倫に反する行為、相手方の窮迫に乗じて過大な利益を得る暴利行為、男女で定年に差を設ける就業規則の定め(最判昭和56年3月24日)などが無効とされてきました。この無効は当事者を守るためのものではないので、誰でも主張でき、追認によって有効にすることもできないと解されています。現在の配偶者との離婚を条件として他人と婚姻の予約をした場合、条件だけを切り離して無条件の予約が残るのではなく、予約全体が無効になります。不法な条件を付した法律行為は無効とすると定める132条も、行為全体を無効とする規定です。「現在の配偶者との離婚を条件として他人との間で婚姻の予約をした場合,この条件は無効であるから,無条件で婚姻の予約が行われたものとみなされる」という肢は誤りです。
法令の規定に違反した法律行為は、強行規定に反すれば無効ですが、取締法規に反しただけでは直ちに無効にはなりません
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従います(91条)。これを任意規定といい、公の秩序に関する規定である強行規定に反する合意は無効です。行政上の目的から一定の行為を取り締まる取締法規に違反した場合は、規定の目的、違反の程度、当事者の認識などを見て私法上の効力を判断します。判例は、食品衛生法上の営業許可を受けないでした食肉の売買について、同法は単なる取締法規にすぎないとして有効としました。他方で、有害性物質の混入した食品の販売を法令が禁止していることを知りながら、あえて製造し、混入の事実を知る販売業者に継続的に売り渡した契約については、90条に抵触して無効であり、買主は代金を支払う義務を負わないとしています(最判昭和39年1月23日)。「この売買契約は無効であるから,BはAに対してその代金支払の義務を負わない」という肢は正しく、この結論の根拠は公序良俗違反です。これに対し、売主が自ら地上権を設定した後にした残代金の催告、借主の誤信を招いた貸主の期限の利益喪失の主張、単独相続の登記をして抵当権を設定した共同相続人による抵当権の一部無効の主張は、いずれも信義則に反するとして否定されたもので、公序良俗違反を根拠とするものではありません。
動機が不法なだけの法律行為は、動機が表示されたか相手方が知っていたときに限り、90条により無効になると解されています
賭博に負けた者が賭け金を払うために金を借りる場合、消費貸借契約そのものは社会的に問題のない行為ですが、借りる動機は公序良俗に反しています。これを動機の不法といい、相手方の保護と取引の安全から、動機が表示された場合又は相手方が動機を知っていた場合に限って90条を適用する見解が有力です。賭博の勝ち負けで負った債務の支払のために振り出させた小切手について、その事情を知る者との間で支払金額をめぐって和解をした事案で、判例は、和解上の金銭支払の約束も実質上その金額の限度で賭博による金銭給付を得させることを目的とするものであるから、公序良俗違反として無効であるとしました(最判昭和46年4月9日)。和解の確定効(696条)によって不法な原因が消えるわけではありません。「BC間の和解契約は公序良俗に反し無効である」という肢は正しいです。
公序良俗に反するかは法律行為がされた時点の公序で判断し、賭博債権の無効は債権の譲受人にも主張できます
判例は、法律行為が公序に反することを目的とするものとして無効になるかどうかは、法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきであるとし、証券会社の損失保証が反社会性の強い行為であるとの認識がまだなかった時期にされた当初の保証契約を無効とはしませんでした(最判平成15年4月18日)。不倫な関係にある女性への包括遺贈も、関係の維持継続を目的とするものではなく、生計を遺言者に頼っていた受遺者の生活を保全するためのもので、相続人の生活の基盤を脅かすものでもなければ、90条に反しないとされています(最判昭和61年11月20日)。賭博の勝ち負けで生じた債権が譲渡された場合、債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる(468条1項)ので、譲渡を異議なく承諾していても、公序良俗違反による無効を譲受人に主張できます。出題当時は異議をとどめない承諾による抗弁の切断(旧468条1項)がありましたが、判例は当時から、賭博債権については特段の事情のない限り無効を主張できるとしていました。「債務者は,当該債権の譲受人に対し,当該債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張することができない」という肢は誤りです。不法な原因のために給付をした者の返還請求の制限(708条)は、不法原因給付の語で扱います。
民法90条
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
民法91条
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
民法132条
不法な条件を付した法律行為は、無効とする。不法な行為をしないことを条件とするものも、同様とする。
民法468条1項
債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
論文ではこう使う
論文では、契約が法令に違反する、又は動機に問題があるという事案で、まず90条の公序良俗違反に当たるかを問題にします。取締法規違反の事案では、規定が私法上の効力まで否定する趣旨か(規定の目的)、違反行為の悪質さ、当事者が違反を知っていたか、取引の安全への影響を拾って、90条で無効とすべきかを判断します。動機の不法の事案では、動機が表示されたか相手方が知っていたかを要件として立て、当てはめます。無効とした後は、給付の返還が708条で制限されないかまで続けて書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。