公示による意思表示と意思表示の受領能力(98条・98条の2)とは
こうじによるいしひょうじといしひょうじのじゅりょうのうりょく
公示による意思表示とは、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときに、裁判所の掲示場への掲示と官報への掲載によってする意思表示のことで、最後の掲載日等から2週間を経過した時に到達したものとみなされます(98条)。意思表示の受領能力は意思表示を受け取って理解する能力のことで、受領時に意思能力を有しなかった者・未成年者・成年被後見人には、その法定代理人等が知るまで意思表示を対抗することができません(98条の2)。
契約を解除したいのに相手が行方不明で手紙を届けられないと、いつまでも解除できません。そこで民法は、裁判所の掲示場と官報を使って意思表示を世間に公示し、一定期間が過ぎれば相手方に届いたものとみなす仕組みを用意しています(98条)。反対に、届いた先の相手が幼い子どもや判断能力を欠く人であれば、内容を理解できないまま不利益を受けかねません。そこで、こうした人に届いても、その法定代理人が知るまでは表意者の側から効力を主張できないとしています(98条の2)。
相手方やその所在を知ることができないときは公示の方法で意思表示ができ、官報への掲載などから2週間で到達したものとみなされます
98条1項は、意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができると定めています。公示は、公示送達に関する民事訴訟法の規定に従い、裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも1回掲載して行います(98条2項)。裁判所は、相当と認めるときは、官報への掲載に代えて市役所などの掲示場への掲示を命ずることができます。公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から2週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなされます(98条3項本文)。手続は、相手方を知ることができない場合は表意者の住所地の、相手方の所在を知ることができない場合は相手方の最後の住所地の簡易裁判所が管轄し(98条4項)、表意者は費用を予納しなければなりません(98条5項)。債権譲渡の通知は、意思表示ではなく譲渡の事実を知らせる観念の通知ですが、意思表示の規定が類推適用されるので、債務者の所在を知ることができないときは公示の方法によってすることができます。「債権譲渡通知は,債権の譲渡人が債務者の所在を知ることができないときであっても,公示の方法によってすることができない」という肢は誤りです。
- 要件表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないこと(98条1項)
- 方法裁判所の掲示場に掲示し、官報に少なくとも1回掲載する。相当と認めるときは市役所等の掲示場への掲示で代えられます(98条2項)
- 到達の時期最後の官報掲載日又は代わりの掲示の開始日から2週間を経過した時に到達したものとみなします(98条3項本文)
- 過失がある場合相手方や所在を知らないことに過失があれば、到達の効力を生じません(98条3項ただし書)
- 管轄相手方を知ることができないときは表意者の住所地、所在を知ることができないときは相手方の最後の住所地の簡易裁判所(98条4項)
表意者が相手方又はその所在を知らないことに過失があったときは、公示による意思表示は到達の効力を生じません
98条3項ただし書は、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じないと定めています。公示の方法は、相手方が実際に内容を知る見込みがほとんどない例外的な手段なので、調べればわかったのに手を抜いた表意者にまで使わせると、相手方が不意打ちを受けるからです。「Bの所在を知らないことについてAに過失があったとしても,Aがした解除の意思表示は,その効力を生ずる」という肢は誤りで、「BがAの所在を知らないことについて過失があったときは,公示による意思表示は到達の効力を生じない」という肢は正しいです。
意思表示を受けた時に相手方が意思無能力者・未成年者・成年被後見人であったときは、その意思表示を相手方に対抗できません
98条の2本文は、意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができないと定めています。内容を理解して対応することが期待できない者を、到達によって不利益な効果が生じることから守る趣旨です。意思能力を有しなかったときは平成29年改正で加えられました。効果は意思表示が無効になることではなく、表意者の側から相手方に効力を主張できないことです。相手方の側から効力を認めることはできます。「Aの成年後見人CがBの契約解除の意思表示を知るまで,当該契約解除の効力は生じない」という肢は正しく、「法定代理人がその意思表示を知る前は,その未成年者又は成年被後見人に対してその意思表示に係る法律効果を主張することができない」という肢も正しいです。被保佐人と被補助人は列挙されていないので、受領能力があります。単に意思表示を受け取るだけなら、それほど高い能力は要らないからです。「意思表示の相手方が意思表示を受けた時点において保佐開始の審判を受けていたときであっても,表意者は,その意思表示をもってその相手方に対抗することができる」という肢は正しいです。
相手方の法定代理人が知った後や、相手方が能力を回復し又は行為能力者となって知った後は、意思表示を対抗できます
98条の2ただし書は、相手方の法定代理人(1号)、又は意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方(2号)がその意思表示を知った後は、対抗することができないとする本文の規律は適用されないと定めています。内容を理解して適切に対応できる者が知った時点で、保護の必要がなくなるからです。「その法定代理人がその意思表示を知った後は,表意者は,その意思表示をもってその相手方に対抗することができる」という肢と、「Bの法定代理人がその解除の意思表示を知るに至った。この場合,Aは,その意思表示をもってBに対抗することができる」という肢は正しいです。
民法98条1項
意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる。
民法98条3項
公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす。ただし、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じない。
民法98条の2
意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。一 相手方の法定代理人 二 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方
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