時効の完成猶予と更新の事由(147条〜152条・旧「中断」)とは
じこうのかんせいゆうよとこうしんのじゆう
時効の完成猶予とは、一定の事由がある間や一定の期間は時効が完成しないことで、時効の更新とは、一定の事由があったときにそれまでの期間が効力を失い、新たに時効が進行を始めることです(147条〜152条)。改正前の時効の「中断」「停止」に代わる仕組みで、裁判上の請求・強制執行・仮差押え・催告・協議の合意・承認などの事由ごとに効果が定められています。
時効期間が過ぎそうな債権者は、黙っていれば権利を失います。そこで民法は、債権者が裁判を起こしたり、債務者が借金を認めたりしたときに、時効を止めたりやり直させたりする仕組みを置いています。時効の完成を一時的に先延ばしにするのが完成猶予、それまでの期間をリセットして新たに時効を進ませるのが更新です。改正前はこれらを「中断」「停止」と呼んでいたので、古い過去問は今の言葉に読み替えて考えます。
改正前の中断と停止は、時効の完成を一時的に止める完成猶予と、それまでの期間を消して新たに時効を進行させる更新に組み替えられました
平成29年の改正で、時効の「中断」と「停止」は、完成猶予と更新に整理し直されました。完成猶予は、その事由がある間や一定の期間は時効が完成しないという効果で、それまでに進んだ期間は無駄になりません。更新は、その時から新たに時効が進行を始めるという効果で、それまでの期間はリセットされます。権利行使の意思が示されただけの段階では完成猶予を与え、権利の存在が確定判決や承認などで確かになった段階で更新を認めるというのが、改正後の考え方です。2006年から2019年の肢は「中断」という言葉で作られているので、その事由が完成猶予にとどまるのか更新まで生じるのかを、今の条文で読み替えて判断します。
- 裁判上の請求・支払督促・和解・調停・破産手続参加等(147条)終了まで完成猶予。権利が確定すれば終了時に更新、確定せずに終了すれば終了から6か月完成猶予
- 強制執行・担保権の実行・財産開示手続等(148条)終了まで完成猶予。終了時に更新(取下げ・取消しによる終了なら終了から6か月の完成猶予のみ)
- 仮差押え・仮処分(149条)事由の終了から6か月の完成猶予のみ(更新はなし)
- 催告(150条)催告の時から6か月の完成猶予。猶予中の再度の催告は効力なし
- 協議を行う旨の書面の合意(151条)合意から1年、定めた期間、続行拒絶の通知から6か月のいずれか早い時まで完成猶予
- 権利の承認(152条)その時から更新
裁判上の請求は手続が終わるまで完成を猶予し、確定判決などで権利が確定すれば更新され、確定せずに終われば終了から6か月の完成猶予となります
裁判上の請求、支払督促、和解・調停、破産手続参加などがあると、その事由が終了するまで時効は完成せず、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなく終了した場合は、その終了の時から6か月を経過するまで時効は完成しません(147条1項)。権利が確定したときは、その事由が終了した時から新たに時効が進行を始めます(同条2項)。訴えを取り下げれば権利は確定しないので、取下げから6か月の完成猶予だけが残ります。「その請求に係る訴訟が訴えの取下げによって終了したときは,その終了の時から6か月を経過するまでの間は,時効は完成しない」という肢は正しいです。一個の債権の数量的な一部だけを明示して請求した場合、裁判上の請求の効力はその一部の範囲でのみ生じ、残部には及びません(最判昭和34年2月20日)。「裁判上の請求による時効中断の効力は,その一部の範囲においてのみ生じ,残部に及ばない」という肢は正しいです。ただし判例は、明示的一部請求の訴えの提起は、残部について権利行使の意思が継続的に表示されているといえない特段の事情がない限り、残部について裁判上の催告として時効の完成を阻止する効力をもつとしています(最判平成25年6月6日)。引渡請求訴訟で留置権の抗弁を出しても、被担保債権について裁判上の請求の効力は生じず、訴訟係属中に催告が続いているものとして扱われるにとどまります(最大判昭和38年10月30日)。「留置権の抗弁を主張したときは,その被担保債権について裁判上の請求による時効中断の効力を生ずる」という肢は誤りです。これに対し、債務者が債務の不存在を理由に起こした抵当権設定登記の抹消登記手続請求訴訟で、債権者が請求棄却を求めて被担保債権の存在を主張したときは、その主張は裁判上の請求に準じるものとされています(最判昭和44年11月27日)。「その債権につき裁判上の請求に準ずる消滅時効中断の効力は生じない」という肢は誤りです。強制競売の手続で催告を受けた抵当権者がする債権の届出は、債権の確定を求めるものではないので、破産手続参加にも裁判上の請求にも準じません(最判平成元年10月13日)。「その届出に係る債権につき時効中断の効力を生ずる」という肢は誤りです。
強制執行や担保権の実行は完成猶予と更新の効力をもち、債務名義のある債権者の配当要求も差押えに準じますが、仮差押えと仮処分は完成猶予しか生じません
強制執行、担保権の実行などがあると、その事由が終了するまで時効は完成せず(148条1項)、事由が終了した時から新たに時効が進行を始めます(同条2項本文)。申立ての取下げや法律の規定に従わないことによる取消しで終了したときは、終了から6か月の完成猶予にとどまります。不動産競売の手続で執行力のある債務名義の正本を有する債権者がする配当要求は、自ら権利を実現しようとする点で強制競売の申立てと変わらないので、差押えに準ずるものとして時効の効力を生じます(最判平成11年4月27日)。「配当要求は,差押えに準ずるものとして,配当要求に係る債権につき時効中断の効力を生ずる」という肢は正しいです。これに対し、仮差押えと仮処分は、責任財産を暫定的に保全するだけの手続なので、その事由が終了した時から6か月を経過するまで時効の完成を猶予するにとどまり、更新の効力はありません(149条)。「不動産の仮差押えがされたときは,その被保全債権の消滅時効は,その仮差押えの登記がされた時から新たにその進行を始める」という肢は誤りです。改正前の判例は、仮差押えによる時効中断の効力は、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は継続するとしていました(最判平成10年11月24日)。「不動産の仮差押えによる時効中断の効力は,仮差押えの被保全債権について本案の勝訴判決が確定した時に消滅する」という肢は誤りで、現在も仮差押えの効力が続く間は「事由が終了」していないので、本案の勝訴判決の確定だけで完成猶予が終わるわけではないと解されています。
催告は6か月の完成猶予にとどまり、猶予中の再度の催告には効力がなく、協議を行う旨の書面の合意も完成猶予の事由になります
催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しません(150条1項)。催告は内容証明郵便などで請求するだけの簡単な手段なので、6か月の間に訴えの提起など本格的な手段をとることが予定されています。催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、完成猶予の効力を有しません(同条2項)。催告を繰り返すだけで時効を無限に延ばせるとすると、時効制度の意味がなくなるからです。「催告によって時効の完成が猶予されている間に債権者が再度の催告をしたときは,再度の催告の時から6か月を経過するまでの間は,時効は完成しない」という肢は誤りです。改正で新しく設けられたのが、協議を行う旨の合意による完成猶予です。権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、合意から1年、合意で定めた1年未満の協議期間、協議の続行を拒絶する書面の通知から6か月のいずれか早い時まで時効は完成しません(151条1項)。猶予中の再度の合意は効力をもちますが、通じて5年を超えることはできず(同条2項)、催告による猶予中の合意や、合意による猶予中の催告は効力をもちません(同条3項)。
権利の承認は更新の事由で、行為能力の制限を受けた者でも単独ですることができ、債権譲渡の承諾、支払猶予の申入れ、充当を指定しない一部弁済も承認に当たります
時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始めます(152条1項)。承認は、時効の利益を受ける者が権利者に対して権利の存在を知っている旨を表示する観念の通知で、法律行為ではなく準法律行為です。「債務者が債権者に対してその債務の承認をする旨を表示することは,法律行為に当たる」という肢は誤りです。承認は権利を処分するものではないので、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しません(同条2項)。「被保佐人である債務者が保佐人の同意を得ることなくその債務を承認した場合,その債権の消滅時効は中断しない」という肢は誤りで、現在の言葉では時効は更新されます。債権譲渡について譲受人に承諾すること(「債務者がその債権の譲渡について債権の譲受人に対し承諾をした場合,その債権の消滅時効は中断する」という肢)と、債権者の代理人に支払猶予を申し入れること(大判大正10年3月4日。「債務者が債権者の代理人に対し支払猶予の申入れをした場合,その債権の消滅時効は中断する」という肢)は、どちらも債務の存在を前提にした態度なので承認に当たり、肢は正しいです。同一当事者間に数個の金銭消費貸借の元本債務がある場合に、借主が充当すべき債務を指定せずに全部を完済するのに足りない額の弁済をしたときは、特段の事情のない限り各元本債務すべての承認に当たります(最判令和2年12月15日)。この肢は正しいです。訴訟上相殺を主張して受働債権の承認があったと認められる場合、その後に相殺の主張を撤回しても、すでに生じた承認の効力は失われません(最判昭和35年12月23日)。「その後相殺の主張が撤回されたときは,承認による時効中断の効力は失われる」という肢は誤りです。
未成年者や成年被後見人、夫婦間の権利、相続財産、天災のように権利を行使しにくい事情があるときは完成が猶予されますが、債務者が国外にいることは猶予の事由になりません
時効期間の満了前6か月以内に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6か月を経過するまで、その者に対して時効は完成しません(158条1項)。未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から6か月を経過するまで、その権利について時効は完成しません(同条2項)。「Aが行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から法定の期間を経過するまでの間は、その権利について、時効は完成しない」という肢は正しいです。夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6か月を経過するまで時効は完成しません(159条)。夫婦の間で訴えを起こすことは期待しにくいからです。「夫婦の一方が他の一方に対して有する債権について,婚姻中に消滅時効が完成することはない」という肢は正しいです。相続財産に関しては相続人が確定した時などから6か月(160条)、天災その他避けることのできない事変で手続ができないときは障害が消滅した時から3か月(161条)、時効は完成しません。これらは限られた事由で、債務者が国外にいることは含まれていません。「Aの債務不履行を理由とする動産甲に係る売買契約の解除権の消滅時効は,その国外にいる期間その進行を停止する」という肢は誤りです。
民法147条1項
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。一 裁判上の請求 二 支払督促 三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停 四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
民法147条2項
前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
民法149条
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。一 仮差押え 二 仮処分
民法150条2項
催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
民法152条2項
前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
論文ではこう使う
論文で時効が争点になる事例では、時効期間と起算点を確認したうえで、期間内に完成猶予・更新の事由があったかを条文の順に拾います。訴えの提起や支払督促なら147条、強制執行・担保権の実行なら148条、仮差押えなら149条で完成猶予だけ、催告なら150条で6か月、承認なら152条で更新と整理し、訴訟での抗弁の提出(留置権の抗弁・被担保債権の存在の主張)がどの事由に当たるかは判例に即して当てはめます。旧法の「中断」で書かれた判例は、完成猶予と更新のどちらの効果に対応するかを示して使います。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。