完成猶予・更新の効力の及ぶ者(153条・154条・物上保証人・連帯債務・保証)とは
かんせいゆうよこうしんのこうりょくのおよぶもの
完成猶予・更新の効力の及ぶ者とは、時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ人の範囲のことで、原則として事由が生じた当事者とその承継人の間でだけ効力をもちます(153条)。物上保証人への競売は債務者への通知を要し(154条)、主たる債務者に生じた事由は保証人に及びます(457条1項)が、保証人や連帯債務者の一人に生じた事由は原則として他の者に及びません(441条)。
債権者が借主を訴えたり、借主が借金を認めたりして時効が止まっても、その効果は原則としてその二人の間だけに生じます。関係のない人の時効まで勝手に止まると、その人が不意打ちを受けるからです。ただ、保証人の債務は主たる債務に従うものなので、主たる債務者について時効が止まれば保証人にも及びます。逆に、保証人や連帯債務者の一人について生じた事由は、原則として他の人には及びません。担保に土地を出した物上保証人への競売は、債務者に通知されて初めて債務者の時効に効きます。
時効の完成猶予と更新は、その事由が生じた当事者とその承継人の間でだけ効力をもちます
裁判上の請求や強制執行などによる時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有します(153条1項)。仮差押え・催告・協議の合意による完成猶予(同条2項)と、承認による更新(同条3項)も同じです。時効を止める行為は、その行為をした者と相手方の間の出来事なので、他人に有利にも不利にも働かせないのが原則だからです。相続人や債権の譲受人のような承継人は、前の当事者の地位を引き継ぐので効力が及びます。「時効の完成猶予の効力は,その事由が生じた当事者の承継人に対しては生じない」という肢は誤りです。
物上保証人に対する担保不動産競売は、開始決定が債務者に送達されれば債務者に効力を生じますが、連帯保証債務を担保する物上保証人への競売は主たる債務に影響しません
強制執行・担保権の実行や仮差押えの手続は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、時効の完成猶予又は更新の効力を生じません(154条)。物上保証人の不動産に対する競売は、債務者自身に対する手続ではないので、債務者に知らせて初めて債務者の被担保債権の時効に効くということです。判例は、物上保証人に対する競売の申立てにより競売開始決定がされ、その決定正本が債務者に送達された場合には、債務者は被担保債権の消滅時効が止まる効果を受けるとしています(最判昭和50年11月21日。旧法の「中断」で、現在は148条の完成猶予と、手続の終了による更新に当たります)。「物上保証人に対する担保不動産競売の申立てにより,執行裁判所が競売開始決定をし,これが債務者に送達された場合には,債権者の債務者に対する被担保債権について消滅時効は中断する」という肢と、C所有の不動産の抵当権に基づく競売の「決定正本が裁判所からBに送達されたときは,AのBに対する債権の消滅時効は中断する」という肢は正しいです。これに対し、連帯保証人Cの保証債務を担保するために抵当権を設定した物上保証人Dに対する競売は、被担保債権である連帯保証債務についての手続で、主たる債務についての手続ではないので、主たる債務者Bの債務の時効には影響しません(最判平成8年9月27日)。「Bの主債務の消滅時効の中断事由に該当する」という肢は誤りです。
物上保証人は、時効の完成前に債務者が承認したことによって被担保債権に生じた時効の更新の効力を否定することができません
時効の更新は承認した債務者と債権者の間で生じるのが原則ですが、判例は、他人の債務のために自分の物に担保権を設定した物上保証人が、債務者の承認により被担保債権について生じた時効の更新の効力を否定することは、担保権の付従性に抵触し、許されないとしています(最判平成7年3月10日)。物上保証人の責任は被担保債権の存在を前提にしていて、被担保債権が更新されて存続している以上、担保権だけが時効で消えることにはならないからです。「被担保債権について生じた消滅時効中断の効力を,その債権の物上保証人が否定することは許されない」という肢は正しいです。物上保証人や第三取得者は被担保債権の消滅時効を自ら援用できますが、完成前に債務者の承認で更新された後は、その時から新たに進む時効を待つしかありません。これに対し、時効の完成後に債務者が承認したことによる援用権の喪失は、承認した債務者だけに生じるので、物上保証人はなお援用できます(時効の利益の放棄の語で扱います)。
主たる債務者に生じた完成猶予と更新は保証人にも及びますが、保証人や連帯保証人に生じた事由は主たる債務者に及びません
主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生じます(457条1項)。保証債務は主たる債務を担保するもので、主たる債務が存続しているのに保証債務だけが時効で消えるのは不合理だからです。主たる債務者Bが時効完成前に一部弁済をすれば承認として主たる債務の時効が更新され、その効力は保証人にも及ぶので、「主たる債務の消滅時効が完成する前にBがその債務の一部を弁済したことは,時効中断の再抗弁となる」という肢は正しいです。これに対し、保証人について生じた事由は主たる債務者に及ばず、連帯保証人についても、更改・相殺・混同以外の事由は相対的効力しかありません(458条による441条の準用)。「保証人に対する履行の請求による時効の中断は,主たる債務者に対しても効力を生ずる」という肢、連帯保証人Cに対する訴えの提起で「Bとの関係でも,時効の完成が猶予される」という肢、「主たる債務者から委託を受けて連帯保証人となった者が,債権者に対して保証債務を承認したときは,主たる債務についての消滅時効が中断する」という肢、保証人Cによる保証債務の一部弁済が主たる債務の「時効中断の再抗弁となる」という肢は、いずれも誤りです。ただし、保証人が主たる債務者を単独で相続した後に、そのことを知りながら保証債務を弁済した場合は、主たる債務者の地位も兼ねる者の弁済なので、特段の事情のない限り主たる債務の承認として時効を更新します(最判平成25年9月13日)。この肢は正しいです。
連帯債務者の一人について生じた請求や承認は他の連帯債務者に及ばず、改正によって履行の請求と時効の完成も相対的効力になりました
連帯債務者の一人について生じた事由は、更改・相殺・混同を除き、他の連帯債務者に対してその効力を生じません(441条本文)。ただし、債権者と他の連帯債務者が別段の意思を表示したときはそれに従います(同条ただし書)。「連帯債務者の一人が債務を承認したことによる時効中断の効力は,他の連帯債務者には及ばない」という肢は正しいです。連帯債務者Aに対する支払請求訴訟の認容判決が確定しても、他の連帯債務者Bの時効は更新されないので、「甲債務の消滅時効は,Bについても判決確定の時から新たにその進行を始める」という肢は誤りです。共同不法行為者の損害賠償債務も連帯債務なので、一人に対する請求や訴えの提起は他の者に及ばず、「被害者が共同不法行為者の一人に対して損害賠償債務の履行を請求しても,他の共同不法行為者の損害賠償債務の消滅時効は中断しない」という肢は正しく、Aに対する訴えの提起で「CのBに対する損害賠償請求権の消滅時効も中断する」とする肢は誤りです。改正前は、連帯債務者の一人に対する履行の請求が他の者にも効力を生じ(旧434条)、一人について時効が完成すればその負担部分について他の者も義務を免れました(旧439条)。そのため、「その消滅時効が完成すれば,Bも債務を免れる」という肢と、夫婦の日常家事債務(761条の連帯債務)について「CのAに対する債権の裁判上の請求により,CのBに対する債権の消滅時効も中断する」という肢は、出題当時は正しいとされましたが、現在はいずれも誤りです。現在はAの時効が完成してもBの債務は残り、Bは弁済すればAに求償できます(445条)。連帯債務の影響関係全体は連帯債務の語で扱います。
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時、破産手続開始の決定があった時から6か月を経過するまで時効は完成しません
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しません(160条)。相続財産について権利を行使する相手方や行使する者がはっきりしない間は、権利行使が難しいからです。三つの時は並べて書かれているので、管理人が選任されれば、相続人が確定していなくても、そこから6か月で時効は完成し得ます。「相続財産管理人が選任された場合でも,相続人が確定するまでの間は,時効は完成しない」という肢は誤りです。「相続人が確定した時」は相続の承認・放棄によって相続人が決まる時を指し、遺産分割で誰が債務を負うかが決まる時ではありません。金銭債務は相続開始と同時に各相続人に分割して承継されるので、債権者はすぐに権利を行使できます。「遺産分割によってその金銭債務を負う者が決定するまでの間は,その債務について消滅時効は中断する」という肢は誤りです。
- 当事者・承継人(153条)事由が生じた当事者とその承継人の間でだけ効力をもちます
- 物上保証人への競売(154条)債務者に通知(開始決定の送達)されて初めて債務者に効力を生じます
- 債務者の承認と物上保証人物上保証人は更新の効力を否定できません(最判平成7年3月10日)
- 主たる債務者→保証人(457条1項)及びます
- 保証人・連帯保証人→主たる債務者及びません(連帯保証は458条・441条)
- 連帯債務者の一人→他の連帯債務者(441条)及びません(請求・承認・時効の完成も相対的効力)
民法153条1項
第百四十七条又は第百四十八条の規定による時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
民法154条
第百四十八条第一項各号又は第百四十九条各号に掲げる事由に係る手続は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、第百四十八条又は第百四十九条の規定による時効の完成猶予又は更新の効力を生じない。
民法457条1項
主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生ずる。
民法441条
第四百三十八条、第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。
民法160条
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。