共同不法行為(719条)と求償・影響関係とは
きょうどうふほうこうい
共同不法行為とは、数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えることで、各自が連帯して損害の全額を賠償する責任を負い、加害者が誰か分からないときや教唆・幇助をした者も同じ責任を負います(719条)。
交通事故でけがをした人が、運ばれた病院で医師のミスにより亡くなった場合、運転者と医師のどちらにどれだけ請求できるかが問題になります。民法は、数人が共同して損害を加えたときは、各自が連帯して全額を賠償するとしました。被害者は誰に対しても全額を請求でき、加害者どうしの負担の割り振りは、払った加害者が他の加害者に求償して調整します。損害の分担で生じる危険を、被害者ではなく加害者の側に負わせる仕組みです。
数人が共同の不法行為で損害を加えたときは各自が連帯して全額を賠償し、交通事故と医療過誤が競合した場合も寄与の割合で責任は限定されません
719条1項前段は、数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負うと定めています。共同とは、行為者の間に意思の連絡まではなくても、各行為が客観的に関連し共同して損害を生じさせていれば足りると解されています。同項後段は、共同行為者のうち誰が損害を加えたか分からないときも同じとし、同条2項は、教唆者と幇助者を共同行為者とみなします。判例は、交通事故で重傷を負った被害者が搬送先の医師の過失で死亡した事案で、運転行為と医療行為はいずれも死亡という不可分の一個の結果を招いたので共同不法行為に当たり、各行為者は被害者の損害の全額について連帯して責任を負い、被害者との関係では寄与の割合で責任を限定できないとしています(最判平成13年3月13日)。寄与の割合を確定できるときはAは損害の全額を賠償する責任を負わないという肢、交通事故の加害者と医師は連帯して賠償する責任を負うことはないという肢、暴行の加害者と診療上の過失のある医師は連帯して責任を負わないという肢は、いずれも誤りです。過失割合がAが2割、Bが8割の事故で負傷した歩行者Cは、100万円の全額をAにもBにも請求でき、その肢は正しいです。
共同不法行為者の債務は連帯債務で、一人に対する請求の効力は他に及ばず、免除も他の加害者を免除する意思があるときに限り及びます
共同不法行為者の連帯の関係は、改正前は不真正連帯債務と呼ばれ、一人について生じた事由は原則として他に影響しないとされてきました。現行法では連帯債務の規定が適用されますが、441条本文により、更改・相殺・混同を除き一人について生じた事由は他の連帯債務者に効力を生じないので、結論は同じです。被害者が一人に対して損害賠償を請求する訴訟を提起しても、他の加害者の債務の消滅時効には影響しません。CがAに訴訟を提起すればBに対する損害賠償請求権の消滅時効も中断するとする肢は誤りで、一人への請求は他の共同不法行為者の債務の消滅時効を中断しないという肢は正しいです(中断は現在の完成猶予・更新にあたります)。免除について判例は、被害者が共同不法行為者の一人と和解して残りの債務を免除しても、他の共同不法行為者の債務が当然に消滅するわけではないとしつつ(最判平成6年11月24日)、その免除が他の共同不法行為者の債務も免除する意思でされたときは、他の者に対しても効力が及ぶとしています(最判平成10年9月10日)。CがBとの和解でAの債務も免除した場合に、CはAに100万円を請求できるとする肢は誤りです。他方、CがAの債務の全額を免除しても、Bの債務を免除する意思がなければBに全額を請求できるという肢は正しく、他の者を免除する意思がなくても他の共同不法行為者の利益のために効力を生じるとする肢は誤りです。
加害者どうしは過失割合で決まる負担部分に従って求償し、負担部分を超えて払うことが要るかは改正後に見解が分かれています
賠償した共同不法行為者は、他の共同不法行為者に対し、過失の割合で定まる負担部分に応じて求償できます。改正前の判例は、自己の負担部分を超えて賠償したときに限り、その超えた部分について他の者に求償できるとしていました(最判昭和41年11月18日、最判平成3年10月25日)。この立場では、損害300万円・過失割合A4割B6割の事故で、Bが100万円を払っても自己の負担部分180万円を超えないので求償できず、Bは「Aに対し,40万円を求償することができる」という肢は出題当時の正解では誤りでした。現行442条1項は、連帯債務者は免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず負担部分に応じた額を求償できると定めたので、これが共同不法行為者にも当てはまるかは見解が分かれており、当てはまるとすれば40万円の求償ができることになります。過失割合A2割B8割の事故でAが50万円を払いBに40万円を求償できるとする肢も、出題当時の正解は誤りですが、同じ問題を含みます。被用者の共同不法行為では、自己の負担部分を超えて賠償した共同不法行為者は、相手方の被用者の負担部分について、その使用者にも求償できるとされています(最判昭和63年7月1日)。Aが300万円全額を払った場合に、Bの使用者Eに180万円を求償できるという肢は、Aが自己の負担部分120万円を超えて払っているので、どちらの見解でも正しいです。
共同不法行為の要点
- 類型: 狭義の共同不法行為(719条1項前段)、加害者不明(同項後段)、教唆・幇助(同条2項)
- 責任: 各自が全額を連帯して負う。寄与の割合で被害者に対する責任を限定できない(最判平成13年3月13日)
- 影響関係: 請求・免除は原則として他に及ばない(441条)。免除は他の者を免除する意思があれば及ぶ(最判平成10年9月10日)
- 求償: 過失割合による負担部分に応じる。負担部分を超えることを要するかは改正後に見解が分かれる(改正前は要するとした。最判昭和41年11月18日・最判平成3年10月25日)
- 使用者が関わる場合: 負担部分を超えて賠償した者は相手方の使用者に被用者の負担部分を求償できる(最判昭和63年7月1日)
- 被害者の過失: 絶対的過失割合が認定できるときは被害者の過失で減額した額を加害者らが連帯して負う(過失相殺の語)
民法719条1項
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
民法719条2項
行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。
民法441条
第四百三十八条、第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。
論文ではこう使う
論文で共同不法行為を論じるときは、まず各行為者に709条の要件が成り立つかを確認し、そのうえで行為の客観的関連共同性から719条1項前段を、加害者が特定できない事案では同項後段を当てはめます。効果として全額の連帯責任を示し、寄与度による減責を被害者に主張できないこと(最判平成13年3月13日)を書きます。和解・免除があれば他の者を免除する意思の有無(最判平成10年9月10日)を、求償では負担部分の算定と、負担部分を超えることを要するかについての改正後の議論を示します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。