占有の訴え(占有回収・占有保持・占有保全の要件と期間)とは
せんゆうのうったえ
占有の訴えとは、占有者が本権の有無にかかわらず、占有を奪われたときは物の返還を、妨害されたときは妨害の停止を、妨害されるおそれがあるときは予防を求める権利です。占有回収の訴え・占有保持の訴え・占有保全の訴えの三つがあり、損害賠償や担保もあわせて請求できます(197条〜201条)。
盗まれた自転車を見つけた持ち主が、力ずくで取り返すことを許すと、世の中は奪い合いになってしまいます。民法は、物を事実として支配している占有者に、本当の権利者かどうかを問わず、奪われたら返せ、妨げられたらやめろと求める手段を与え、自力で取り返すことをやめさせています。これが占有の訴えで、奪われたとき・妨害されたとき・妨害されるおそれがあるときの三つの場面ごとに、要件と提起できる期間が決められています。
占有の訴えは、自主占有か他主占有か、直接占有か間接占有か、本権があるかを問わず、およそ占有者が起こせます
占有者は占有の訴えを提起することができ、他人のために占有をする者も同様です(197条)。占有の訴えは本権の有無にかかわらず占有を保護して自力救済を禁止するためのものなので、所有の意思の有無も本権の有無も問いません。「奪われる前のその占有が所有の意思をもってする場合であっても所有の意思をもってする場合でなくても,占有回収の訴えによりその物の返還を請求することができる」という肢は正しいです。賃借人は賃貸人から独立して侵奪者に占有回収の訴えを起こせます。「Bは,Aから独立して,Cに対して占有回収の訴えを提起することができる」という肢は正しいです。賃借人を通じて占有している賃貸人(間接占有者)も、占有改定で引渡しを受けた買主も起こせます。「Aは、Cに対して、占有回収の訴えによって甲の返還を求めることができる」という肢(賃貸人A)と、「Cに対して占有回収の訴えを起こすことができる」という肢(占有改定を受けたA)は正しいです。留置権者や、物を詐取した者のように本権のない占有者も、窃取した者に対して占有回収の訴えを起こせます(善意か悪意かを問わない判例として大判大正13年5月22日)。「Bは、Cに対して、占有回収の訴えによって甲の返還を求めることができない」という肢は、詐取者Bの場合も留置権者Bの場合も誤りです。
海外出張中や助手に預けている間も占有は続いていますが、占有補助者や法人の代表者個人は占有の訴えを起こせません
占有は社会通念上の事実的支配で判断するので、構内の研究室に置いた本を1週間の出張で離れていても、占有は失われていません。そのため、留守中に盗まれた場合も占有を奪われたことになります。「Bは,Cに対し,占有回収の訴えにより甲の返還を求めることができる」という肢は正しいです。助手に複写を指示して本を預けた場合も、助手は占有補助者か占有代理人にとどまり、本人の占有は続いているので、助手のもとから盗まれれば本人が占有回収の訴えを起こせます。「Bは,Hに対し,占有回収の訴えにより甲の返還を求めることはできない」という肢は誤りです。反対に、法人の代表者が法人の業務として所持する物の占有は法人自身の占有で、代表者は占有代理人でもないので、占有回収の訴えを起こせるのは法人です(最判昭和32年2月22日)。「その他人に対し占有回収の訴えを提起して返還を請求することができる者は,その一般財団法人であり,理事個人ではない」という肢は正しいです。
占有回収の訴えは意思に反して所持を奪われたときに限られ、詐取・遺失・賃貸借終了後の不返還では起こせません
占有回収の訴えは、占有者がその占有を奪われたときに、物の返還と損害の賠償を請求するものです(200条1項)。占有を奪われたとは、占有者の意思に反して所持を奪われたことをいいます。だまされて渡した場合は、意思が欺罔によって生じたものであっても自分の意思で渡しているので、占有を奪われたことに当たりません(大判大正11年11月27日)。「Aは,Bに対し,占有回収の訴えにより自転車の返還を請求することができる」という肢(詐取)は誤りです。置き忘れた物を他人が拾った場合も同じで、「Bは,Fに対し,占有回収の訴えにより甲の返還を求めることができる」という肢と、「甲を拾得して占有するBに対し、占有回収の訴えにより、甲の返還を請求することができる」という肢は誤りです。賃貸した物を賃貸借の終了後に返さない賃借人も、任意に引き渡した物を持ち続けているだけなので、「Aは,Bに対し,占有回収の訴えによりコピー機の返還を請求することができる」という肢は誤りです。これらの場合は、所有権に基づく返還請求や契約上の返還請求によります。
侵奪者の特定承継人には、承継人が侵奪の事実を知っていたときに限り請求でき、その認識は侵奪があったことの認識でなければなりません
占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対しては提起できず、承継人が侵奪の事実を知っていたときに限って提起できます(200条2項)。占有を信頼して物を譲り受けた者を守るためです。判例は、侵奪の事実を知っていたといえるには、承継人が少なくとも何らかの形で占有の侵奪があったことを認識していることが必要で、前主の占有取得が何らかの犯罪行為や不法行為によるもので前主が正当な権利者でないことを知っていただけでは足りないとしています(最判昭和56年3月19日)。蔵書印のある本を、売主が横領したものと考えて買った者は、侵奪を認識していたとはいえません。「Bは,Eに対し,占有回収の訴えにより甲の返還を求めることはできない」という肢は正しいです。所有者の表示のシールが貼られたままのパソコンでも、盗難の事情を知らない者が譲り受けたのであれば請求できず、「Aは,Cに対し,占有回収の訴えにより同パソコンの返還を請求することはできない」という肢と、「その事実につき善意であるCに甲を売却し引き渡した場合、Aは、Cに対して、占有回収の訴えによって甲の返還を求めることができない」という肢は正しいです。
占有回収の訴えは奪われた時から1年以内、占有保持の訴えは妨害の存する間か消滅後1年以内で、工事による妨害は着手から1年を過ぎるか完成すれば起こせません
占有回収の訴えは、占有を奪われた時から1年以内に提起しなければなりません(201条3項)。「占有回収の訴えは,占有を奪われた時から1年以内に提起しなければならない」という肢は正しいです。占有保持の訴えは、妨害の停止と損害の賠償を求めるもので(198条)、妨害の存する間又はその消滅した後1年以内に提起します(201条1項本文)。「占有保持の訴えは,妨害の存する間のみ提起することができる」という肢は誤りです。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合は、工事に着手した時から1年を経過し、又は工事が完成したときは提起できません(201条1項ただし書)。工事を途中で止めさせる意味がなくなり、完成した工作物を壊させるのは社会経済上の損失が大きいからです。「Aは,この時点において,Bに対し,占有保持の訴えによりその塀の撤去を請求することはできない」という肢は正しいです。占有保全の訴えは、妨害の予防か損害賠償の担保を求めるもので(199条)、妨害の危険の存する間は提起できますが、工事による場合は同じただし書が準用されます(201条2項)。「工事開始時から1年が経過したときであっても,工事が完成する前であれば,Aに対して占有保全の訴えを提起することができる」という肢は誤りです。占有の訴えで損害賠償を求めるには、不法行為と同じく相手方の故意又は過失が必要です(大判昭和9年10月19日)。「占有回収の訴えにおける損害賠償請求が認められるためには,相手方に故意又は過失のあることが必要である」という肢は正しいです。
- 占有回収の訴え(200条)占有を奪われたとき/物の返還と損害賠償/奪われた時から1年以内(201条3項)/善意の特定承継人には請求できない
- 占有保持の訴え(198条)占有を妨害されたとき/妨害の停止と損害賠償/妨害の存する間か消滅後1年以内、工事は着手から1年経過か完成で不可(201条1項)
- 占有保全の訴え(199条)妨害されるおそれがあるとき/妨害の予防か損害賠償の担保/危険の存する間、工事は201条1項ただし書を準用(201条2項)
占有を奪われても、占有回収の訴えで勝訴して現実に占有を回復すれば、占有は継続していたものとみなされ、取得時効も中断しません
占有権は所持を失えば消滅しますが、占有者が占有回収の訴えを提起したときは消滅しません(203条)。判例は、占有回収の訴えを提起して勝訴し、現実にその物の占有を回復したときは、現実に占有しなかった間も占有を失わず、占有が継続していたものとみなされるとしています(最判昭和44年12月2日)。そのため、他人に占有を奪われると取得時効は中断しますが(164条)、占有回収の訴えで占有を回復すれば中断しなかったことになります。「占有回収の訴えにより現実にその物の占有を回復したときは、中断しない」という肢は正しく、「その後,占有回収の訴えによってその占有を回復しても,取得時効は中断する」という肢は誤りです。留置権者が占有回収の訴えで占有を回復した場合に留置権が消滅しないことは、留置権の効力と消滅の語で扱います。
民法197条
占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。
民法200条1項
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
民法200条2項
占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。
民法201条1項
占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後一年以内に提起しなければならない。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から一年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。
民法201条3項
占有回収の訴えは、占有を奪われた時から一年以内に提起しなければならない。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。