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用語集 / 民法 / 占有の承継と相続

占有の承継と相続(185条の新権原・187条・相続と占有)とは

せんゆうのしょうけいとそうぞく

民法 占有権・所有権

占有の承継とは、売買や相続によって前の占有者の占有を引き継ぐことです。承継人は前の占有者の占有を併せて主張するか自己の占有のみを主張するかを選べ(187条1項)、他主占有を自主占有に変えるには所有の意思の表示か新たな権原による占有の開始が必要です(185条)。

借りて住んでいた父が亡くなり、息子が家を引き継いだとします。息子は父の占有を引き継ぐのか、それとも自分で住み始めた時から新しく占有するのかで、取得時効の結論が変わります。民法は、占有を引き継いだ者に、前の占有者の占有を併せて主張するか、自分の占有だけを主張するかを選ばせています。相続人が知らないうちに占有は承継されますが、借りていたという性質まで変えるには、相続人自身の新しい支配と所有の意思が必要になります。

板書の相続関係図。黒板の左に「父(借家人)」、右に「息子(相続人)」が矢印「相続」でつながり、その下に家屋の絵と「賃借して占有」の札。息子の側から二本の矢印が出て、一本は「父の占有と併せて主張(瑕疵も承継)」、もう一本は「自分の占有だけを主

被相続人の占有は、相続人が事実的支配を始めていなくても、相続の開始によって当然に相続人に移ります

判例は、被相続人が死亡して相続が開始するときは、特別の事情のない限り、従前その占有に属したものは当然に相続人の占有に移るとしています(最判昭和44年10月30日)。相続人が相続の開始を知らなくても、現実に物を支配していなくても、占有は承継されます。占有は事実的支配に対して認められるもので、本権の有無とは関係がないので、被相続人が権原なく占有していた場合も同じです。「被相続人が有していた占有権は,相続人が相続財産について事実的支配をしないと,相続されない」という肢と、「被相続人のその土地に対する占有は、相続人によって承継されない」という肢は誤りです。相続人の取得時効のための占有が、被相続人の死亡で途切れてしまうのは不合理だからです。

占有の承継人は、前の占有者の占有を併せて主張するか自己の占有のみを主張するかを選べ、併せて主張すれば瑕疵も承継します

占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができます(187条1項)。前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵も承継します(187条2項)。判例は、187条1項は売買のような特定承継だけでなく相続のような包括承継にも適用され、相続人は必ずしも被相続人の占有についての善意悪意の地位をそのまま承継するものではないとしています(最判昭和37年5月18日)。「相続人は,被相続人の占有についての善意・悪意の地位を当然に承継する」という肢は誤りで、「占有者の包括承継人は,取得時効に関して,自己の占有のみを主張することもできる」という肢と、「その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は被相続人の占有に自己の占有を併せて主張することができる」という肢は正しいです。二つ以上の占有を併せて主張する場合、10年の取得時効の善意無過失は、主張する最初の占有者の占有開始時に判定します(最判昭和53年3月6日)。「占有者の善意無過失は,最初の占有者の占有開始時に判定される」という肢は正しいです。

時間の流れの帯の図解。帯の上に左から「最初の占有者(善意無過失で開始)」「中間の占有者(過失あり)」「現在の占有者」の三人が並び、占有のバトンを手渡している。帯の下に「10年の取得時効」の物差し。先生が説明役(札「先生」)で最初の占有者の開

権利能力なき社団が法人格を取得した後の法人の占有にも187条1項が適用されます

判例は、187条1項は、権利能力なき社団等が占有する不動産を、法人格を取得した後にその法人が引き継いで占有している場合にも適用されるので、その不動産の時効取得について法人格取得の日を起算点として選ぶことができるとしています(最判平成元年12月22日)。187条1項が適用される以上、法人は自己の占有のみを主張して法人格取得の日を起算点とすることも、社団としての占有を併せて主張することもできます。「当該不動産の時効取得について,その法人格取得の日を起算点として主張することはできない」という肢は誤りで、「権利能力なき社団として占有した期間を併せて主張することができる」という肢は正しいです。

他主占有が自主占有に変わるのは、所有の意思の表示があるか、新たな権原により所有の意思をもって占有を始めたときに限られます

権原の性質上所有の意思がないとされる占有は、占有者が自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、性質が変わりません(185条)。「占有者が新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めたときは,その占有の性質は,所有の意思をもってする占有に変更される」という肢は正しいです。賃借人が賃貸人から目的物を買い受ければ、売買という新たな権原によって所有の意思をもった占有を始めたことになり、占有権は意思表示だけで譲り受けられます(182条2項)。「Aから甲を買い受けてAの占有権を譲り受ける旨の合意をしたときは,Bの占有は,自主占有となる」という肢は正しいです。反対に、被相続人が自主占有をしていた場合、相続人は相続によってその自主占有を承継するので、相続人が被相続人の所有の意思を知った時から自主占有になるのではありません。「被相続人が所有の意思をもって占有していたことをその相続人が知った時に,その相続人の占有は,所有の意思のある占有となる」という肢は誤りです。

他主占有者の相続人も、新たに事実上支配して所有の意思があれば自主占有を始めますが、その所有の意思は相続人が自ら証明します

判例は、相続人が被相続人の死亡により相続財産の占有を承継しただけでなく、新たに相続財産を事実上支配することによって占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合には、被相続人の占有が所有の意思のないものであっても、相続人は185条の新たな権原により所有の意思をもって占有を始めたものといえるとしています(最判昭和46年11月30日)。「相続人は新権原により所有の意思をもって占有を始めたものといえる」という肢は正しいです。さらに判例は、この場合に所有の意思があるといえるためには、取得時効の成立を争う相手方ではなく、占有者である相続人が、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を自ら証明すべきであるとしています(最判平成8年11月12日)。相続人の新たな事実的支配によって従来の占有の性質が変わったので、その変更の事実は取得時効を主張する側が立証すべきであり、相続という取得原因からは所有の意思の有無を決められないからです。「その占有が所有の意思に基づくものでないことについて,取得時効の成立を争う者が主張立証しなければならない」という肢は誤りです。186条1項の推定はこの場面では働きません。

法廷の場面。原告席に女性(札「他主占有者の相続人」)が「固定資産税の領収書」「登記済証」「賃料の取立て記録」の書類を机に並べている。被告席に男性(札「時効を争う相続人」)。裁判官席に先生が裁判官役(札「裁判所」)。先生の吹き出し「相続の後に
  • 相続による占有の承継事実的支配がなくても当然に承継(最判昭和44年10月30日)
  • 相続人の選択自己の占有のみか併せて主張か選べる(187条1項・最判昭和37年5月18日)
  • 併せて主張した場合瑕疵も承継し、善意無過失は最初の占有者の開始時で判定(187条2項・最判昭和53年3月6日)
  • 社団から法人へ187条1項を適用し、法人格取得日を起算点にもできる(最判平成元年12月22日)
  • 他主占有者の相続人新たな事実的支配と所有の意思があれば185条の新たな権原に当たり、所有の意思は相続人が証明(最判昭和46年11月30日・最判平成8年11月12日)

民法185条

権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。

民法187条1項

占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。

民法187条2項

前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。

論文ではこう使う

論文では、他主占有者(賃借人・使用借主)の相続人による取得時効の主張で使います。まず相続によって被相続人の占有が承継されることを示し、被相続人の占有を併せれば他主占有の瑕疵を承継するので(187条2項)、相続人固有の占有を主張することになると書きます。そのうえで、相続が185条の新たな権原に当たるかを論じ、新たな事実的支配と所有の意思があれば当たるとする判例の規範を示し、固定資産税の納付・登記済証の所持・賃料の取立てなどの事情を当てはめます。所有の意思は相続人が証明し、186条1項の推定に頼れないことも書きます。

試験ではこう問われる

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