詐害行為取消権の要件と類型別の特則(424条〜424条の4)とは
さがいこういとりけしけんのようけんとるいけいべつのとくそく
詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害することを知ってした財産権を目的とする行為の取消しを、債権者が裁判所に請求できる権利のことで、被保全債権は詐害行為の前の原因に基づいて生じたもので強制執行により実現できるものでなければならず、受益者が行為の時に債権者を害することを知らなかったときは取り消せません(424条)。相当の対価を得た処分・偏頗行為・過大な代物弁済には要件の特則があります(424条の2〜424条の4)。
借金で首が回らなくなった人が、債権者に取られる前にと、自宅を妻や親戚にただで譲ってしまうことがあります。これでは債権者は回収できなくなります。そこで民法は、債務者が債権者を害すると知りながらした財産の処分を、債権者が裁判で取り消せるようにしました。これが詐害行為取消権です。他人どうしの契約を後から覆す強い制度なので、どの債権者が、どんな行為を、どんな場合に取り消せるかを細かく決め、弁済や代物弁済のような行為には特別の要件を置いています。
被保全債権は詐害行為の前の原因に基づいて生じたもので、強制執行により実現できるものでなければならず、特定物の引渡しを求める債権者も取消権を行使できます
424条3項は、債権者は、その債権が詐害行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、詐害行為取消請求をすることができると定めています。行為の後に債権者になった者は、その財産を当てにしていなかったからです(債権者代位権では被保全債権の成立の前後を問いません)。判例は、不動産の譲渡が債権の成立前にされていれば、所有権移転登記が債権の成立後にされても、譲渡行為も登記も詐害行為にならないとしています(最判昭和55年1月24日)。その旨の肢は正しく、登記が債権発生後なら売買契約が取消しの対象になり得るとする肢は誤りです。同じく判例は、債権の譲渡行為とその通知は別の行為で、通知は対抗力を生じさせるだけなので、確定日付のある債権譲渡の通知は詐害行為取消権の対象にならないとしています(最判平成10年6月12日)。その旨の肢は正しく、譲渡が債権の成立前で通知が成立後の場合に通知を取り消せるとする肢は誤りです。判例は、特定物の引渡請求権も、債務者が目的物を処分して無資力になれば究極において損害賠償債権となるので、特定物債権者もその処分行為を取り消せるとしています(最大判昭和36年7月19日)。不動産の買主が売主の贈与を詐害行為取消権の対象にできないとする肢は誤りです。また、債権者は、その債権が強制執行により実現できないものであるときは、詐害行為取消請求ができません(424条4項)。強制執行をしない旨の合意がある債権では取り消せないとする肢は正しいです。
債務者の無資力は行為の時だけでなく口頭弁論終結の時にも必要で、債権者は行為時の無資力を主張立証し、その後の資力回復は受益者が主張立証します
「債権者を害する」とは、その行為によって債務者が無資力になり、債権者が十分な弁済を受けられなくなることをいいます。判例は、贈与の時に他に資産がなくても、後に資力が債務を弁済するのに十分になれば詐害行為にならないとしています(大判大正15年11月13日)。責任財産が回復していれば取り消す必要がないからです。「法律行為の時に債権者を害する状態であれば,その後の事情によって債権者を害さないこととなっているとしても,詐害行為取消権を行使することができる」という肢は誤りです。もっとも、債権者は請求原因として行為当時の無資力を主張立証すれば足り、口頭弁論終結時までに資力が回復したことは受益者が主張立証すると解されています(大判大正5年5月1日)。その旨の肢は正しいです。
債務者は債権者を害することを知っていれば足り、害することを意図している必要はなく、受益者の悪意は受益者が自らの善意を主張立証して争います
424条1項本文は「債務者が債権者を害することを知ってした行為」としているので、債務者の主観は、債権者を害することの認識で足り、害することを意図している必要はありません(偏頗行為などの特則を除きます)。「債務者が債権者を害することを意図して法律行為をする必要がある」とする肢は誤りで、害することを知ってした行為であれば足り意図を要しないとする肢は正しいです。また、同項ただし書は、受益者がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは取り消せないと定めています。ただし書の形なので、受益者の善意は受益者が主張立証します(最判昭和37年3月6日)。債権者が、行為が債権者を害すること及び債務者と受益者の両方がそれを知っていたことを主張立証しなければならないとする肢は誤りです。債権者が主張立証するのは、詐害性と債務者の認識です。
財産権を目的としない行為は取り消せず、相続放棄は対象になりませんが、遺産分割協議は対象になり、離婚の財産分与や慰謝料の合意は不相当に過大な部分に限って取り消せます
424条2項は、財産権を目的としない行為には取消しの規定を適用しないと定めています。判例は、相続の放棄のような身分行為は詐害行為取消権の対象にならないとしています(最判昭和49年9月20日)。相続放棄は財産の増加を消極的に妨げるにすぎず、相続するかどうかを他人の意思で強制すべきでもないからです。相続放棄を取り消せるとする肢は、背信性が著しい場合に限るとするものも含めて、いずれも誤りです。これに対し判例は、遺産分割協議は相続財産の帰属を確定させる財産権を目的とする法律行為なので、詐害行為取消権の対象となり得るとしています(最判平成11年6月11日)。遺産分割協議は対象にならないとする肢は誤りで、対象となり得るとする肢は正しいです。離婚に伴う財産分与について、判例は、768条3項の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りる特段の事情がない限り詐害行為にならないとし(最判昭和58年12月19日)、特段の事情があるときは不相当に過大な部分について、その限度で取り消せるとしました(最判平成12年3月9日)。同じ判決は、離婚に伴う慰謝料の合意も、負担すべき損害賠償債務の額を超える部分は取消しの対象となり得るとしています。不相当に過大な部分を取り消せるとする肢と、慰謝料の合意の過大な部分を取り消せるとする肢は正しく、財産分与は詐害行為取消権の対象となることはないとする肢は誤りです。なお、判例は、虚偽表示による贈与も詐害行為取消しの対象となり、転得者が虚偽表示については善意でも詐害行為であることを知っていれば取消しを認めました(大判昭和6年9月16日)。虚偽表示を知らない転得者との関係では取り消せないとする肢は誤りです。
相当の対価を得てした処分、既存債務の弁済や担保の供与、過大な代物弁済には、一般の要件と異なる特則があります
債務者が相当の対価を得て財産を処分した場合は、①不動産の金銭への換価など財産の種類の変更により隠匿等の処分をするおそれを現に生じさせ、②債務者が対価について隠匿等の処分をする意思を持ち、③受益者がその意思を知っていたときに限って取り消せます(424条の2)。既存の債務についての担保の供与や債務の消滅に関する行為(弁済など)は、①債務者が支払不能の時に行われ、②債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたときに限って取り消せます(424条の3第1項)。本来すべき弁済は責任財産を減らさないからです。支払不能の債務者の弁済について、受益者に害する意図があっても債務者との通謀がなければ取り消せないとする肢は正しいです。弁済などで消滅した債務の額より受益者の受けた給付の価額が過大なときは、424条の一般の要件を満たせば、消滅した債務の額に相当する部分以外の部分を取り消せます(424条の4)。500万円の債務に2000万円の土地で代物弁済した場合、受益者が悪意なら500万円に相当する部分以外の部分を取り消せるとする肢は正しいです。
- 一般の詐害行為(贈与など)債務者が債権者を害することを知って、受益者が悪意(424条1項)
- 相当の対価を得てした処分隠匿等の処分のおそれ・債務者の隠匿等の意思・受益者の悪意(424条の2)
- 既存債務の弁済・担保の供与支払不能の時+債務者と受益者の通謀による害意(424条の3第1項)
- 義務でない担保の供与・期限前の弁済支払不能前30日以内+通謀による害意(424条の3第2項)
- 過大な代物弁済424条の要件で、消滅した債務の額を超える部分を取消し(424条の4)
- 対象外財産権を目的としない行為(相続放棄など、424条2項)、債権成立前の行為と後の登記・通知
民法424条1項
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
民法424条2項
前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
民法424条3項
債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
論文ではこう使う
論文で詐害行為取消権を論じるときは、①被保全債権が詐害行為の前の原因に基づいて生じ、強制執行で実現できるものであること(424条3項・4項)、②財産権を目的とする行為であること(同条2項)、③詐害性(行為時と口頭弁論終結時の無資力)、④債務者の詐害意思(害することの認識)、⑤受益者の悪意(受益者が善意の抗弁を出す)を順に検討します。行為が相当価格処分・弁済や担保の供与・過大な代物弁済に当たるときは、424条の2〜424条の4 の加重要件に置き換えて当てはめます。財産分与・遺産分割・相続放棄の事案では、判例の基準(不相当に過大で仮託された財産処分か、財産権を目的とするか)を事実に即して示します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。