詐害行為取消権の行使と効果(424条の5〜426条)とは
さがいこういとりけしけんのこうしとこうか
詐害行為取消権の行使とは、債権者が受益者又は転得者を被告とする訴えによって、債務者がした行為の取消しとその行為で移転した財産の返還(返還が困難なら価額の償還)を請求することで、転得者に対しては取得の時の悪意が必要です(424条の5〜424条の9)。取消しの効果とは、認容判決が債務者とその全ての債権者に効力を及ぼし(425条)、受益者・転得者の反対給付の返還などで調整されることをいいます(425条の2〜425条の4)。
債務者が家を親戚に贈与してしまったとき、債権者が誰を相手にどんな手続で取り返すのか、家がさらに転売されていたらその人からも取り返せるのか、取り返した家は誰のものになるのかが問題になります。改正前は、取消しの効果は債権者と相手方の間だけに生じるという判例の考え方で処理していましたが、改正で、判決の効力が債務者とすべての債権者に及ぶことを前提に、相手方・転得者・返還の方法・後始末が細かく条文になりました。
詐害行為取消権は訴えによって行使し抗弁ではできず、被告は受益者又は転得者で、債務者は被告にならず、債務者には訴訟告知をします
424条1項は、債権者は債務者の行為の取消しを「裁判所に請求することができる」と定めています。判例は、詐害行為取消権は訴えによって行使すべきもので、抗弁として主張することは許されないとしています(最判昭和39年6月12日)。取消しの効力を判決主文で確定させる必要があるからです。「訴えによる必要はなく,抗弁によって行使することもできる」という肢と、「訴訟において,抗弁としても行使することができる」という肢は誤りです。424条の7第1項は、受益者に対する取消請求の訴えは受益者を、転得者に対する訴えはその転得者を被告とすると定めており、債務者は被告になりません。その代わり、債権者は訴えを提起したら遅滞なく債務者に訴訟告知をしなければなりません(同条2項)。受益者又は転得者を相手方とすれば足り債務者を相手方とする必要はないとする肢と、債務者を被告にすることはできないとする肢は正しく、債務者と受益者の両方を被告としなければならないとする肢と、債務者を被告としなければならないとする肢は誤りです。また、取消しと財産の返還は併せて請求できますが、取消しだけを請求することもできるので、抹消登記手続を請求することなく贈与契約の取消しを請求できるとする肢は正しいです。取消しの訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年、行為の時から10年を経過すると提起できなくなります(426条)。
転得者に取消しを請求するには、受益者が悪意であることに加え、その転得者とその前のすべての転得者が、それぞれ取得の時に債権者を害することを知っていたことが必要です
424条の5は、債権者が受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合に限り、転得者に対しても請求できるとし、受益者から転得した者はその転得の当時の悪意を、他の転得者から転得した者は自分とその前のすべての転得者のそれぞれの悪意を要件としています。途中に善意の者が一人でもいれば、その後の者から取り戻すことはできません。改正前の判例は、取消しの効果を当事者ごとに相対的に考え、受益者が善意でも悪意の転得者に対しては取り消せるとしていたので、「受益者が債権者を害すべき事実を知らない場合には,転得者がこれを知っていたとしても,債権者は,転得者に対し詐害行為取消権を行使することはできない」という肢は、出題当時は誤りでしたが、現在は424条の5により正しいです。転得者に対する請求が認められるにはG・H・Iの全員がそれぞれ悪意でなければならないとする肢は正しいです。転得者を被告とする場合も、取り消すのは債務者がした行為で、受益者と転得者の間の行為ではないので、受益者と転得者の間の売買の取消しを請求できるとする肢は誤りです。財産が転得者に移っていても、受益者に対して債務者の行為の取消しを請求でき、受益者は財産を返還できないので価額の償還を請求することになります(424条の6第1項後段)。この場合に受益者に対して取消しを請求できるとする肢と、受益者を被告とするときは価格賠償を請求しなければならないとする肢は正しく、転得者に財産の返還を請求できるときは受益者に価額償還を請求できないとする肢は誤りです。
取消しとともに財産の返還を請求でき、金銭・動産は自己への支払・引渡しを求められますが、不動産は債務者名義に戻すにとどまり、直接自己への移転登記は求められません
424条の6は、債権者は取消しとともに受益者・転得者に移転した財産の返還を請求でき、返還が困難なときは価額の償還を請求できると定めています。返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは、債権者は自己に対して支払・引渡しをするよう求めることができます(424条の9)。これに対し、不動産は債務者のもとに戻して全債権者の共同担保にするのが制度の目的なので、判例は、取消債権者が受益者に直接自己への所有権移転登記を求めることはできないとしています(最判昭和53年10月5日。特定物債権者が取り消した事案です)。受益者に「直接自己に対する所有権移転登記を求めることができる」とする肢、抹消登記のほかに「CからAへの所有権移転登記手続を請求することもできる」とする肢、不動産の引渡請求権者が第三者に「直接自己への所有権移転登記を求めることができる」とする肢は、いずれも誤りです。
目的が可分なら自己の債権の額の限度で取り消し、不可分なら債権額を超えても全部を取り消せますが、抵当権付き建物の代物弁済は残額の限度での価額賠償にとどまり、受益者は按分の抗弁を出せません
424条の8第1項は、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ取消しを請求できると定めています。これに対し判例は、目的物が不可分のものであるときは、その価額が債権額を超える場合でも行為の全部を取り消せるとしています(最判昭和30年10月11日)。不動産の贈与や不可分な目的物の贈与について、債権額が価額に満たなくても全部を取り消せるとする肢は正しいです。ただし、抵当権が設定された建物を抵当権者に代物弁済した場合、抵当権の被担保債権額の部分はもともと一般債権者の引当てではないので、判例は、建物の価額から被担保債権額を控除した残額の部分に限って取り消すことができ、建物が不可分ならその限度で価格の賠償を請求するほかないとしています(最大判昭和36年7月19日)。その旨の肢は正しいです。また、弁済を受けた受益者が債権者の一人であっても、取消債権者に対して自己の債権額に応じた按分額の支払を拒むことはできないとするのが判例です(最判昭和46年11月19日)。按分額の支払を拒むことができるとする肢は誤りです。
取消しを認める判決は債務者とその全ての債権者に効力を及ぼし、受益者や転得者は債務者に反対給付の返還などを求め、弁済が取り消された受益者の債権は給付を返還した時に復活します
425条は、詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有すると定めています。取り戻した財産は全債権者の共同担保になるからで、その旨の肢は正しいです(改正前は取消しの効果は相対的と解されていました)。ただし、判決の効力が被告でない受益者に及ぶわけではないので、転得者を被告とする判決の効力が受益者に及ぶとする肢は誤りです。財産の処分が取り消されたとき、受益者は債務者に対し反対給付の返還(困難なら価額の償還)を請求できます(425条の2)。転得者に対して取り消されたときは、転得者は、受益者に対して取り消されたとすれば受益者が債務者に持つはずの反対給付の返還請求権を、自分が前者に払った反対給付の価額を限度として、債務者に行使できます(425条の4)。代金200万円で受益者が買い、転得者が220万円で買った土地について、転得者は債務者に200万円の限度で支払を求めることができるとする肢は正しく、転得者が受益者に代金の返還を請求できるとする肢は誤りです。弁済などの債務の消滅に関する行為が取り消された場合、受益者が受けた給付を返還し又はその価額を償還したときに、受益者の債務者に対する債権が原状に復します(425条の3)。「判決が確定した時に,原状に復する」とする肢は誤りです。金銭の返還を命じられた受益者の支払債務は、判決確定時ではなく履行の請求を受けた時から遅滞します(最判平成30年12月14日)。
民法424条の5
債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる。
民法424条の6第1項
債権者は、受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。
民法425条
詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。
民法426条
詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から二年を経過したときは、提起することができない。行為の時から十年を経過したときも、同様とする。
論文ではこう使う
論文で詐害行為取消権の行使と効果を論じるときは、①誰を被告とするか(受益者か転得者か。債務者は被告にならず訴訟告知、424条の7)、②転得者を被告とするなら受益者と全ての転得者の悪意(424条の5)、③何を請求するか(取消しと財産の返還、困難なら価額償還、424条の6。可分なら債権額の限度、424条の8)、④誰に引き渡させるか(金銭・動産は自己へ、不動産は債務者名義へ、424条の9)、⑤判決の効力と後始末(425条〜425条の4)を順に検討します。金銭を受け取った取消債権者は債務者への返還債務と自己の債権を相殺して事実上優先的に回収できることにも触れます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。