裁判所の構成と権限分担(裁判長・受訴裁判所・受命裁判官・受託裁判官・裁判所書記官)とは
さいばんしょのこうせいとけんげんぶんたん
裁判所の構成と権限分担とは、事件を審理する受訴裁判所、合議体を代表して訴訟を指揮する裁判長、合議体の構成員から指定されて一部の職務を行う受命裁判官、他の裁判所に嘱託されて職務を行う受託裁判官、記録・送達などの事務を固有の権限で行う裁判所書記官のそれぞれについて、民事訴訟法が条文の主語を書き分けて、誰が何をするかを定めていることです。
地方裁判所の大きな事件は3人の裁判官の合議体で審理しますが、3人がそろわなくてもできる仕事は1人に任せ、遠くの証人は現地の裁判所に頼み、記録や送達の事務は書記官が受け持ちます。誰が何をできるかを条文がはっきり書き分けているのは、当事者の手続保障にかかわる判断ほど受訴裁判所自身に残しておく必要があるからです。短答では、ある行為の主体を別の人に入れ替えた肢が繰り返し出ます。
受訴裁判所の合議体では裁判長が訴訟を指揮し、受命裁判官は構成員から、受託裁判官は嘱託を受けた他の裁判所の裁判官がなります
受訴裁判所とは、その事件の審理と判決をする裁判所で、単独の裁判官か3人の合議体で構成されます。合議体では裁判長が口頭弁論を指揮し(148条)、期日の指定や訴状審査など条文が「裁判長」を主語にする行為をします。受命裁判官とは、合議体の構成員の中から命じられて、審尋(88条)、和解の試み(89条1項)、弁論準備手続(171条1項)、裁判所外の証拠調べ(185条1項)などの職務を行う裁判官です。合議体の構成員でない裁判官を受命裁判官にすることはできないので、「裁判長は,合議体の構成員以外の裁判官を受命裁判官として指定することができる」という肢は誤りです。受託裁判官とは、受訴裁判所から嘱託を受けた他の地方裁判所又は簡易裁判所の裁判官で、裁判所外の証拠調べや和解の試みを行います(185条1項・89条1項)。受命裁判官や受託裁判官が職務を行う場合には、裁判所と裁判長の職務をその裁判官が行いますが、手続への異議のように受訴裁判所の判断を残すものは受訴裁判所がします(171条2項・206条)。
- 受訴裁判所事件を審理し判決をします。準備的口頭弁論・口頭弁論は受訴裁判所が自ら行います
- 裁判長口頭弁論の指揮(148条)、期日の指定(93条1項)、訴状審査と補正命令・訴状却下(137条)を行います
- 受命裁判官合議体の構成員から指定されます。審尋、和解の試み、弁論準備手続、書面による準備手続(176条の2)、裁判所外の証拠調べ、一定の場合の証人尋問ができます
- 受託裁判官他の地方裁判所・簡易裁判所の裁判官で、嘱託を受けて裁判所外の証拠調べや和解の試みをします。弁論準備手続はできません
- 裁判所書記官記録の作成・保管(裁判所法60条2項)、送達事務(98条2項)、記録の閲覧等の請求の受付、訴訟費用額の確定(71条1項)、支払督促の発付(382条)、手数料の納付を命じる処分(137条の2第1項)を固有の権限で行います
訴状審査と補正命令は裁判長の権限で、裁判所書記官が自ら訴状を審査して補正を命じることはできません
訴状に必要的記載事項の不備があるときに相当の期間を定めて補正を命じ、補正されなければ命令で訴状を却下するのは裁判長です(137条1項・2項)。「訴状審査の結果として訴状に不備があることが判明した場合の補正命令は,裁判所書記官がする」という肢も、「裁判所書記官は,自ら訴状を審査し,不備があれば補正を命ずることができる」という肢も誤りです。裁判長は書記官に命じて補正を促させることができますが(民事訴訟規則56条)、それは137条の補正命令とは別のものです。なお、令和4年改正で、手数料を納めない場合に納付を命じるのは裁判所書記官の処分になりました(137条の2第1項)。記載事項の不備は今も裁判長、手数料の不納は書記官と、補正の主体が分かれています。他方、書記官には固有の権限があります。支払督促は債権者の申立てにより書記官が発し(382条)、訴訟費用の負担の額は第一審裁判所の書記官が定め(71条1項)、記録の閲覧は書記官に対して請求します(91条1項・91条の2)。「裁判所書記官には,支払督促を発する権限がある」「訴訟記録の閲覧の請求は,裁判所書記官に対して行う」「当事者が負担すべき訴訟費用の額は,第一審裁判所の裁判所書記官が定める」という肢はいずれも正しいです。書記官の処分に不服があるときは、その書記官の所属する裁判所が決定で異議の裁判をします(121条)。これに対し、当事者照会は当事者が相手方に直接書面で照会する手続で(163条)、書記官は関与しません。「書面で照会をする手続は,裁判所書記官を通じて行う」という肢は誤りです。
弁論準備手続と和解の試みは受命裁判官に行わせられますが、受託裁判官に弁論準備手続はさせられず、準備的口頭弁論は受訴裁判所が自ら行います
裁判所は受命裁判官に弁論準備手続を行わせることができます(171条1項)が、受託裁判官に行わせる規定はありません。「裁判所は,受命裁判官又は受託裁判官に弁論準備手続を行わせることができる」という肢は誤りです。準備的口頭弁論は口頭弁論そのものなので、受訴裁判所が自ら行い、受命裁判官に行わせることはできません。「準備的口頭弁論は,受命裁判官に命じて行わせることができない」という肢も、「準備的口頭弁論を受命裁判官に行わせることはできないが,弁論準備手続は受命裁判官に行わせることができる」という肢も正しいです。弁論準備手続を行う受命裁判官は、文書の証拠調べができ(171条2項・170条2項)、調査の嘱託・鑑定の嘱託・書証の申出・文書の送付の嘱託についての裁判もできます(171条3項)。「弁論準備手続を行う受命裁判官は,文書の証拠調べをすることができない」という肢も、「弁論準備手続を行う受命裁判官は、調査の嘱託についての裁判をすることができない」という肢も誤りで、「調査の嘱託,鑑定の嘱託,文書を提出してする書証の申出及び文書の送付の嘱託についての裁判をすることができる」という肢は正しいです。和解の試みは、受命裁判官にも受託裁判官にもさせられます(89条1項)。「裁判所は,受命裁判官をして和解を試みさせることができる」という肢は正しく、「和解の試みを受命裁判官にさせることができるが,受託裁判官にさせることはできない」という肢は誤りです。書面による準備手続は、出題当時は地方裁判所では裁判長が行うものでしたが、現在は受命裁判官に行わせることができます(176条の2)。「地方裁判所においては,弁論準備手続及び書面による準備手続のいずれであっても,受命裁判官が手続を主宰することができる」という肢は、出題当時は誤りとされましたが、現在は正しいです。
裁判所外の証拠調べは受命・受託裁判官にさせられますが、裁判所外の証人尋問は195条の場合に限られ、裁判所内の尋問は大規模訴訟の場合だけです
裁判所は、相当と認めるときは裁判所外で証拠調べをすることができ、合議体の構成員に命じ、又は他の地方裁判所・簡易裁判所に嘱託して証拠調べをさせることができます(185条1項)。検証も証拠調べなので、「裁判所は,相当と認めるときは,受命裁判官に命じて,裁判所外において検証をさせることができる」という肢も、受託裁判官に裁判所外で検証を実施させることができるという肢も正しいです。ただし証人尋問は直接主義の要請が強いので、受命・受託裁判官に裁判所外で尋問させられるのは、証人に出頭義務がないか正当な理由で出頭できないとき、出頭に不相当な費用・時間を要するとき、現場での尋問が必要なとき、当事者に異議がないときに限られます(195条)。「裁判所は,当事者に異議がないときは,受命裁判官に裁判所外で証人の尋問をさせることができる」という肢は正しく、「証人が正当な理由なく出頭しない場合,裁判所は,受命裁判官又は受託裁判官に裁判所外でその証人の尋問をさせることができる」という肢は誤りです。正当な理由なく出頭しない証人には、過料や勾引で出頭を確保します。受命・受託裁判官が証人尋問をするときは裁判所と裁判長の職務をその裁判官が行いますが、尋問の順序の変更についての異議の裁判は受訴裁判所がします(206条)。「尋問の順序の変更についての異議の裁判は,受訴裁判所が行う」という肢は正しいです。裁判所内での証人尋問を受命裁判官に任せられるのは、当事者が著しく多数で尋問すべき証人等も著しく多数である大規模訴訟で、当事者に異議がないときだけです(268条)。
民事訴訟法89条1項
裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる。
民事訴訟法171条1項
裁判所は、受命裁判官に弁論準備手続を行わせることができる。
民事訴訟法185条1項
裁判所は、相当と認めるときは、裁判所外において証拠調べをすることができる。この場合においては、合議体の構成員に命じ、又は地方裁判所若しくは簡易裁判所に嘱託して証拠調べをさせることができる。
民事訴訟法206条
受命裁判官又は受託裁判官が証人尋問をする場合には、裁判所及び裁判長の職務は、その裁判官が行う。ただし、第二百二条第三項の規定による異議についての裁判は、受訴裁判所がする。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。