鑑定と鑑定嘱託とは
かんていとかんていしょくたく
鑑定とは、特別の学識経験を有する第三者に、その専門的な知識や、それを具体的な事実に当てはめた判断を報告させる証拠調べです。鑑定嘱託とは、官公署や相当の設備を有する法人に鑑定を依頼することです。
医療過誤の訴訟で、手術の方法が当時の医学の水準に合っていたかを、法律家である裁判官だけで判断するのは困難です。そこで、専門家の知識を借りて判断の材料にするのが鑑定です。鑑定人は事件を見聞きした人ではなく、知識や経験則を報告する人なので、代わりの専門家を探すことができます。そのため鑑定人は裁判所が選び、証人のように勾引してまで出頭させることはしません。病院や研究所のような法人に頼むときは鑑定嘱託を使います。
鑑定人は裁判所が指定し、当事者は鑑定を求める事項を示して申し出れば足ります
鑑定は、特別の学識経験を持つ第三者に、その知識や、それを具体的な事実に当てはめた判断を報告させる証拠調べです。鑑定人は、受訴裁判所、受命裁判官又は受託裁判官が指定します(213条)。当事者は鑑定を求める事項を記載した書面を出して申し出ればよく(民事訴訟規則129条1項)、特定の鑑定人を指定する必要はありません。指定しても裁判所はこれに拘束されません。「鑑定の申出は,当事者において鑑定人を指定してしなければならない」という肢は誤りです。相当賃料額の算定のように、一定の資料に経験則を当てはめた判断を求める事項も、鑑定の対象になります。「鑑定を求める事項をその土地の相当賃料額の算定として、鑑定の申出をすることができる」という肢は正しいです。鑑定人は自ら報告をする証拠方法なので、自然人に限られます。「鑑定人の資格は自然人に限られ,官公署や法人を鑑定人とすることはできない」という肢は正しいです。同じ鑑定事項について複数の鑑定人を指定することを禁じる規定はないので、「裁判所は、同一の鑑定事項について、同時に複数の鑑定人を指定して、意見を述べさせることができる」という肢も正しいです。いったん受訴裁判所の心証形成の資料に供された鑑定は、その申出を撤回できないとした判例があります(最判昭和58年5月26日)。証拠の申出の撤回の一般論は、証拠の申出の語で扱います。
鑑定に必要な学識経験を有する者は鑑定義務と宣誓義務を負いますが、勾引はされず、誠実な鑑定を妨げる事情があれば忌避されます
鑑定に必要な学識経験を有する者は、鑑定をする義務を負います(212条1項)。ただし、証言拒絶権や宣誓拒絶権を持つ者と同じ地位にある者や、16歳未満の者・宣誓の趣旨を理解できない者は、鑑定人になれません(同条2項)。「鑑定に必要な学識経験を有する者は,鑑定人となることができないものを除き,鑑定をする義務を負う」という肢と、指定された者は鑑定をしなければならないとする肢は正しいです。鑑定人には証人の宣誓の規定(201条1項)が準用されるので(216条)、宣誓義務があります。「鑑定人は,宣誓をしなければならない」という肢は正しく、「宣誓をする義務を負わない」とする肢は誤りです。不出頭には過料と罰金の規定(192条・193条)が準用されますが、勾引の規定(194条)は準用されていません(216条)。鑑定人には代わりがいるうえ、無理に連れて来ても誠実な鑑定は期待できないからです。「裁判所は,鑑定人が正当な理由なく期日に出頭しないときは,鑑定人の勾引を命ずることができる」という肢は誤りです。また、鑑定人について誠実に鑑定をすることを妨げるべき事情があるときは、当事者は、鑑定人が陳述をする前にこれを忌避することができます(214条1項)。「鑑定人について誠実に鑑定をすることを妨げるべき事情があるときは,当事者は,その鑑定人を忌避することができる」という肢は正しいです。忌避を理由があるとする決定には不服を申し立てられず、理由がないとする決定には即時抗告ができます(同条3項・4項)。
鑑定人の意見は裁判長が定める書面又は口頭で述べさせ、口頭の意見の後の質問は裁判長、申出をした当事者、他の当事者の順でします
裁判長は、鑑定人に、書面又は口頭で意見を述べさせることができ(215条1項)、どちらにするかは裁判長の裁量です。「鑑定人に書面又は口頭のいずれによって鑑定意見を述べさせるかは,裁判長がその裁量により定める」という肢は正しいです。裁判所は、意見の内容を明瞭にし、又はその根拠を確認するため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、鑑定人に更に意見を述べさせることができます(同条3項)。書面で述べさせた後でも同じなので、「裁判所は、鑑定人が書面で意見を述べた後は、その鑑定人に更に意見を述べさせることはできない」という肢は誤りです。口頭で意見を述べさせたときは、その後に鑑定人に質問ができ(215条の2第1項)、質問は、裁判長、その鑑定の申出をした当事者、他の当事者の順序でします(同条2項)。証人尋問とは順序が逆で、交互尋問にすると鑑定人が意見を十分に述べにくいので、まず裁判長が全体を聴く形にしたものです。「鑑定人に口頭で鑑定意見を述べさせた後に,鑑定人に対し質問をする場合には,裁判長,鑑定の申出をした当事者,他の当事者の順序で行うのが原則である」という肢は正しく、申出をした当事者から始めて裁判長を最後にする肢は誤りです。裁判長は、当事者の意見を聴いて順序を変更できます(同条3項)。さらに、裁判所は、相当と認めるときは、映像と音声の送受信による方法で鑑定人に口頭の意見を述べさせることができます(215条の3)。「裁判所は、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によっては、鑑定人に口頭で意見を述べさせることはできない」という肢は誤りです。出題当時の条文は「鑑定人が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるとき」と定めていたので、遠隔地居住の場合に限るとする「テレビ会議によって鑑定人に口頭で意見を述べさせることができるのは,鑑定人が遠隔の地に居住している場合に限られる」という肢は誤りでした。令和4年改正で遠隔地の文言が削られ、現在は相当と認めるときにできるので、この肢は今も誤りです。弁論準備手続の期日などでは、鑑定のために必要な事項について当事者と鑑定人とで協議ができ(民事訴訟規則129条の2)、「裁判所は、弁論準備手続の期日において、鑑定のために必要な事項について、当事者及び鑑定人と協議をすることができる」という肢は正しいです。
法人や官公署には鑑定嘱託を使い、特別の学識経験で知った事実の陳述は鑑定証人として証人尋問の規定によります
裁判所は、必要があると認めるときは、官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は相当の設備を有する法人に鑑定を嘱託することができます(218条1項前段)。法人そのものは鑑定人になれないので、組織の設備や知見を使うための制度です。宣誓に関する規定は除いて鑑定の規定が準用され(同項後段)、裁判所は必要があれば、嘱託先が指定した者に鑑定の結果を説明させることができます(同条2項)。「裁判所は、工業製品の化学的性質を明らかにする必要があると認めるときは、相当の設備を有する法人に対して鑑定を嘱託することができる」という肢は正しいです。これに対し、特別の学識経験により知り得た事実に関する尋問は、証人尋問に関する規定によります(217条)。過去に経験した事実を報告する点で証人と変わらないからで、これを鑑定証人と呼びます。「患者の治療を行った医師にその患者の症状について陳述させるときのように,特別の学識経験により知り得た事実を陳述させる場合には,鑑定人質問ではなく,証人尋問に関する規定による」という肢は正しいです。また、当事者が自分で専門家を選んで意見を求めた報告書(私鑑定)は、法定の鑑定ではありませんが、書証として提出することができます。「当事者は、学識経験ある第三者を任意に選択して、専門家としての判断を依頼し、その報告書を書証として裁判所に提出することができる」という肢は正しいです。専門委員による説明との違いは、前半の専門委員の語で扱います。
- 鑑定(212条〜217条)自然人の鑑定人を裁判所が指定します。宣誓義務があり、勾引はできません
- 鑑定嘱託(218条)官公署や相当の設備を有する法人に嘱託します。宣誓の規定は準用されません
- 鑑定証人(217条)特別の学識経験で知った過去の事実を述べる人で、証人尋問の規定によります
- 私鑑定当事者が自分で依頼した専門家の報告書で、書証として提出します
民事訴訟法212条1項
鑑定に必要な学識経験を有する者は、鑑定をする義務を負う。
民事訴訟法213条
鑑定人は、受訴裁判所、受命裁判官又は受託裁判官が指定する。
民事訴訟法214条1項
鑑定人について誠実に鑑定をすることを妨げるべき事情があるときは、当事者は、その鑑定人が鑑定事項について陳述をする前に、これを忌避することができる。
民事訴訟法215条の2第2項
前項の質問は、裁判長、その鑑定の申出をした当事者、他の当事者の順序でする。
民事訴訟法217条
特別の学識経験により知り得た事実に関する尋問については、証人尋問に関する規定による。
民事訴訟法218条1項
裁判所は、必要があると認めるときは、官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は相当の設備を有する法人に鑑定を嘱託することができる。この場合においては、宣誓に関する規定を除き、この節の規定を準用する。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。