推定(法律上の推定・事実上の推定・暫定真実・意思推定)とは
すいてい
推定とは、ある事実(前提事実)から別の事実や権利を推し量って認めることで、法規が定める法律上の推定(法律上の事実推定・法律上の権利推定)と、裁判官が経験則によって行う事実上の推定に分かれます。前提事実だけで他の要件を推定する暫定真実や、意思表示の内容を推定する意思推定(解釈規定)も推定の一種として扱われます。
ある土地を20年前にも今も占有していたことを証明できれば、その間もずっと占有していたと考えるのが自然です。こうした自然な推し量りを法律が条文にしたのが法律上の推定で、使えば証明すべき事実を前後二時点の占有に置き換えられます。条文になっていなくても、裁判官は経験則から事実を推し量ります。どちらの推定かで、相手方が推定を崩すために何をしなければならないかが変わります。
法律上の推定は相手方に推定事実の不存在の証明を求めますが、事実上の推定は相手方の反証で崩れます
法律上の推定とは、経験則を法規にしたもので、前提事実が証明されると、法規の適用として推定事実が認められます。相手方がこれを崩すには、推定事実が存在しないことを証明(本証)しなければならず、その限りで証明責任が相手方に移ります。推定された事実が権利である場合を法律上の権利推定といい、境界線上の境界標などの共有の推定(民法229条)や、占有者が占有物について行使する権利の適法の推定(民法188条)が例です。これに対し事実上の推定は、自由心証の中で裁判官が間接事実から主要事実を経験則で推認するもので、相手方は推認を揺るがせて真偽不明に持ち込めば足ります(反証)。また、「みなす」と定める規定は反対の証明を許さない擬制であり、推定とは違います。
- 法律上の事実推定前提事実の証明で推定事実が認められ、相手方は推定事実の不存在を証明しなければなりません(民法186条2項)
- 法律上の権利推定前提事実から権利が推定されます(民法229条・188条)
- 暫定真実前提事実なしに、ある要件事実から同じ効果の他の要件が推定されます(民法186条1項)
- 意思推定(解釈規定)意思表示の内容を推定します(民法136条1項・420条3項)
- 事実上の推定裁判官の経験則による推認で、相手方は反証で崩せます(登記の推定力、印影からの押印意思の推認)
- 擬制(みなす)反対の証明を許しません(借地借家法26条1項の法定更新)
法律上の事実推定を使う者は前提事実を証明すればよく、民法619条1項の黙示の更新も推定を主張する賃借人が前提事実を証明します
民法186条2項は、前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有はその間継続したものと推定すると定めています。20年の取得時効を主張する者は、20年間の継続占有を直接証明してもよいし、前後両時点の占有を証明して推定を使ってもよく、相手方は両時点の占有を反証で争うか、占有が途中で途切れたことを本証するかを選びます。民法619条1項は、賃貸借の期間満了後に賃借人が使用を継続し、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前と同一の条件で更新したものと推定すると定めています。これは法律上の推定であり、推定の利益を受ける賃借人が前提事実(使用の継続と、賃貸人がそれを知りながら異議を述べなかったこと)を抗弁として主張立証すると考えられています。「原告は,自ら異議を述べたことにつき立証責任を負う」という肢は誤りです。これに対し、借地借家法26条1項の法定更新は、期間満了前の一定期間に更新拒絶の通知をしないと更新したものと「みなす」規定です。建物の賃貸借の終了を主張する賃貸人は、更新拒絶の通知をしたことを請求原因の段階で主張しなければならず、更新の合意が成立しなかったことを再抗弁にしても意味がありません。「原告は,請求原因として更新拒絶通知をしたことを主張する必要があり,更新の合意が成立しなかった旨の再抗弁は,主張自体失当である」という肢は正しいです。
暫定真実は、ある要件事実から同じ法律効果の他の要件を推定するもので、占有者の善意は民法186条1項で推定されます
民法186条1項は、占有者は所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定すると定めています。取得時効(民法162条)の要件のうち、所有の意思・平穏・公然・善意は占有という事実から推定されるので、時効取得を主張する者は占有を証明すれば足り、相手方がこれらの要件が欠けること(所有の意思がないこと・悪意など)を証明しなければなりません。このように、別の前提事実を置かずに、要件事実の一つから他の要件を推定するものを暫定真実といいます。10年の取得時効で善意が争点になった事例で、「被告は,原告の悪意につき立証責任を負う」という肢は正しいです。ただし、10年の取得時効の要件である無過失は民法186条1項で推定されないので、時効取得を主張する側が証明します。意思推定は、期限は債務者の利益のために定めたものと推定する(民法136条1項)、違約金は賠償額の予定と推定する(民法420条3項)のように、意思表示の内容を推定する解釈規定です。
登記の推定力や、印影から押印の意思を推認することは事実上の推定にとどまり、相手方は反証で覆せます
登記名義人は所有者であると推認されますが、判例は登記にその記載事項についての事実上の推定力を認めるにとどめています。法律上の推定とする規定はなく、法律上の推定とすると登記名義を争う側に権利の不存在という証明の困難な事実の証明を強いることになるからです。偽造の売買契約書で原告から被告に移転登記がされた事例では、所有権の移転の証明責任は登記名義人である被告にあるので、「原告は,被告への所有権の移転がなかったことにつき立証責任を負う」という肢は誤りです。私文書の成立について、最判昭和39年5月12日は、文書中の印影が本人の印章によって顕出された事実が確定されれば、反証がない限りその印影は本人の意思に基づいて押されたものと推定し、その結果228条4項によって文書全体が真正に成立したものと推定されるとしました(二段の推定)。一段目は経験則による事実上の推定なので、印章が盗まれた事実を立証するなどの反証で覆せます。「被告は,印章が盗まれた事実を立証して反証に成功すれば,この推定を覆すことができる」という肢は正しく、「その印影は,法律上,作成名義人の意思に基づいて顕出されたものと推定される」という肢は誤りです。二段目の228条4項は文書の成立の真正(形式的証拠力)についての推定であり、文書の内容が真実かという実質的証拠力は推定されません。「形式的証拠力が事実上推定され,相手方の反証によりこの推定が覆されなければ実質的証拠力が法律上推定される」という肢は誤りです。詳しくは私文書の成立と二段の推定の語で扱います。
一応の推定や間接反証は、経験則の強い推認を使って証明の困難を和らげる考え方です
経験則上、ある間接事実から主要事実が強く推認される場合を一応の推定(表見証明)と呼ぶことがあります。その推認を崩したい相手方が、最初の間接事実と両立する別の間接事実を証明して推認を妨げることを間接反証といい、この別の間接事実については本証が必要とされます。最判昭和39年7月28日は、麻酔注射の後に化膿菌に感染した事案で、器具・施術者の手指・注射部位のいずれの消毒が不完全であったかを特定しなくても、いずれも過失とするに足りるとして、過失の概括的な認定を是認しました。こうした手法は、医療過誤や公害のように原告が過失や因果関係の細部を証明しにくい訴訟で、証明責任を動かさずに立証の負担を調整するものです。
民法186条2項
前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。
民法186条1項
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
民法619条1項
賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百十七条の規定により解約の申入れをすることができる。
論文ではこう使う
過失や因果関係の立証が難しい事例では、証明責任は動かないことを前提に、一応の推定と間接反証の枠組みで論じます。原告が過失を強く推認させる間接事実を証明すれば一応の推定が働き、被告はこれと両立する別の間接事実を本証して推認を妨げなければならない、と整理します。推定規定が問題になるときは、法律上の推定か事実上の推定かを確定し、法律上の推定なら相手方に推定事実の不存在の本証が必要、事実上の推定なら反証で足りると書き分けます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。