要件事実と主張立証責任の分配(売買代金・貸金・所有権に基づく明渡し・消滅時効・賃貸借の解除)とは
ようけんじじつとしゅちょうりっしょうせきにんのぶんぱい
要件事実とは、権利の発生・障害・消滅・阻止という法律効果を定める実体法の要件に当たる具体的な事実のことです。主張立証責任の分配とは、どの要件事実をどちらの当事者が主張し証明しなければならないかの振り分けで、その効果を主張する側が負うのが原則です。
絵画を売った人が代金を請求するとき、「売りました」と言えば足りるのか、「引き渡しました」まで言わなければならないのかで、訴訟の勝ち負けが変わることがあります。言うべき事実を言わず、証明もできなければ、その人が負けるからです。そこで、ある法律効果を発生させるために必要な事実を要件事実として切り出し、原告と被告のどちらがそれを主張し証明するかを決めておきます。この振り分けが、請求原因・抗弁・再抗弁の骨格になります。
要件事実は法律効果の発生に必要な事実で、その効果を主張する側が主張立証責任を負います
要件事実(主要事実)とは、権利の発生・障害・消滅・阻止という法律効果を定める実体法の要件に当たる具体的な事実です。訴訟物を特定し、それを発生させる事実を原告が請求原因として主張立証し、請求原因と両立してその効果を妨げる事実を被告が抗弁として主張立証し、抗弁の効果を妨げる事実を原告が再抗弁として主張立証します。どの事実を誰が負うかは、条文の構造(本文とただし書、原則規定と例外規定)に従って分けるのが通説と実務です。証明責任の分配の一般論と、法律上の推定・暫定真実による調整は、後半の証明責任の分配の語で扱います。売買代金請求の訴訟物は、契約の日・当事者・目的物・代金額で特定された売買契約に基づく代金支払請求権と表せるので、「平成11年1月5日にAとBとの間で締結された甲絵画を代金200万円で売る旨の売買契約に基づくAのBに対する代金200万円の支払請求権と特定することができる」という肢は正しいです。
売買代金請求の請求原因は売買契約の締結だけで、目的物の引渡しは要りません
売買は、財産権の移転と代金の支払を約することで効力を生じる諾成契約なので(民法555条)、売買契約が締結されれば代金支払請求権が発生します。引渡しは契約の成立要件ではなく、引渡しがないことは買主の側が同時履行の抗弁権として主張することです。そのため、「Aが訴訟で請求原因として主張しなければならない要件事実は,『Aは,Bに対し,平成11年1月5日,甲絵画を,代金200万円で売り,これを即日,Bに引き渡した。』である」という肢は、引渡しまで要件事実に入れている点で誤りです。弁済の抗弁の要件事実は、債務者が債権者に給付をしたことと、その給付がその債務の履行としてされたことです(最判昭和30年7月15日)。そのため「Bは,Aに対し,平成11年1月10日,本件売買契約に基づく代金支払債務の履行として200万円を支払った。」を要件事実とする肢は正しいです。
消滅時効の抗弁は時効期間の経過と援用の意思表示で、債務の承認は再抗弁になります
債権の消滅時効の抗弁の要件事実は、権利を行使できる状態になったこと、時効期間が経過したこと、援用権者が時効を援用する意思表示をしたことです(民法145条)。売買契約の締結は請求原因に現れているので、権利を行使できる時期を抗弁で改めて主張する必要はなく、期間の末日の経過と援用を主張すれば足ります。そのため「平成21年1月5日は経過した。Bは,Aに対し,平成21年4月3日の第1回口頭弁論期日において,時効を援用するとの意思表示をした。」を要件事実とする肢は正しいです。この事例は平成11年の契約で、出題当時の民法の10年の消滅時効を前提にしています。現行民法では、債権者が権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年で時効消滅します(民法166条1項)。時効期間の経過後に支払の猶予を求めることは、債務の承認として時効の効果を覆す事実なので、消滅時効の抗弁に対する再抗弁になります。出題当時は「時効の中断」と呼ばれ、現在は承認によって時効が更新されます(民法152条1項)。「支払を1か月間待ってほしいと要請したとのAの主張は,時効中断事由である債務の承認に該当する事実を主張するものであり,消滅時効の抗弁に対する再抗弁となる」という肢は正しいです。
所有権に基づく明渡請求では、原告は取得原因の契約だけを主張すれば足り、占有権原は被告が主張立証します
所有権に基づく土地明渡請求の請求原因は、原告の所有と被告の占有です。原告の所有は、前主のもと所有と、前主からの取得原因事実(売買契約の締結など)で基礎づけます。登記は物権変動の対抗要件であって所有権取得の要件ではないので、「当該売買契約に基づく所有権移転登記を具備したことについて主張立証責任を負う」という肢は誤りです。被告が賃貸借などの占有権原を持つことは、所有者の明渡請求権の発生を妨げる抗弁なので、被告が主張立証責任を負います(最判昭和35年3月1日)。原告が「息子が無断で契約した」と争う場面でも、原告が無権代理の事実を立証するのではなく、被告が賃貸借契約の締結を立証することになり、「Xにおいて,息子がYと甲土地につき賃貸借契約を締結したことの主張立証責任を負うものではない」という肢は正しいです。被告が所有権喪失の抗弁として原告の第三者への売却を主張するときは、特定物の売買では契約の締結で直ちに所有権が移転するので(最判昭和33年6月20日)、売買契約の締結を主張立証すれば足り、代金の支払は要りません。「売買代金が支払われた事実については主張立証責任を負わない」という肢は正しいです。
賃料不払による解除では賃料の支払は賃借人が、無断転貸の背信性を否定する特段の事情も賃借人が主張立証します
賃料不払を理由に解除したと主張する賃貸人は、賃料の支払期限の経過、催告と相当期間の経過、解除の意思表示を主張立証すれば足ります。賃料を支払ったことは債務を消滅させる事実なので、賃借人の側が主張立証します(大判明治38年3月9日)。「Xは,法定解除権の発生要件として,所定の期限までに賃料を支払わなかった事実について主張立証責任を負う」という肢は誤りです。無断転貸による解除(民法612条2項)について、判例(最判昭和41年1月27日)は、転貸が賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは解除権を行使できないとしつつ、その特段の事情は賃借人が主張立証すべきだとしました。「賃借人の転貸借が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があることを基礎付ける事実は,賃借人が主張立証責任を負う」という肢は正しいです。建物賃貸借の期間満了を理由とする明渡請求では、借地借家法の法定更新により、期間満了の1年前から6月前までに更新拒絶の通知をしないと契約は更新されたものとみなされます。そのため賃貸人は請求原因の段階で更新拒絶の通知をしたことまで主張しなければならず、「更新の合意が成立しなかった旨の再抗弁は,主張自体失当である」という肢は正しいです。
- 売買代金請求請求原因=売買契約の締結。抗弁=弁済・同時履行・消滅時効。再抗弁=債務の承認(時効の更新)
- 所有権に基づく明渡請求請求原因=もと所有・取得原因の契約・被告の占有。抗弁=占有権原・所有権喪失・対抗要件具備
- 賃料不払解除賃貸人=催告・相当期間の経過・解除の意思表示。賃借人=賃料の支払
- 無断転貸解除賃貸人=転貸と使用収益・解除の意思表示。賃借人=背信行為と認めるに足りない特段の事情
- 建物賃貸借の期間満了賃貸人=期間満了と更新拒絶の通知まで請求原因で主張します
民法555条
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
民法152条1項
時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
論文ではこう使う
論文では、事例の請求を訴訟物で特定したうえで、請求原因・抗弁・再抗弁の順に要件事実を並べ、争いのある事実について誰が証明責任を負うかを示します。その配置が、弁論主義で主張が必要な事実はどれか、自白が成立するのはどの事実か、真偽不明のときにどちらが負けるかの判断の土台になります。所有権に基づく請求では、もと所有の権利自白、取得原因の売買、占有権原の抗弁、所有権喪失の抗弁を区別し、契約に基づく請求では諾成契約か要物契約かで請求原因が変わることを押さえて書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。