訴えの取下げの効果と再訴の禁止(262条)とは
うったえのとりさげのこうかとさいそのきんし
訴えの取下げの効果とは、取り下げられた部分の訴訟が初めから係属しなかったものとみなされることです(262条1項)。本案の終局判決の後に訴えを取り下げた者は同一の訴えを提起できず(再訴の禁止、同条2項)、判例は再訴を正当とする新たな利益又は必要性があれば同一の訴えに当たらないとしています。
訴えを取り下げると、その訴訟は初めからなかったことになります。判決が出る前なら、原告は後でもう一度訴えることもできます。しかし、第一審で判決まで出してもらった後に取り下げ、気が変わったからと同じ訴えを起こすのでは、裁判所と相手方の労力が無駄になり、訴訟制度をもてあそぶことにもなります。そこで、本案の終局判決の後に訴えを取り下げた者は同じ訴えを起こせません。ただし、再訴を正当とする新たな事情があれば別です。
取り下げられた部分は初めから係属しなかったものとみなされ、それまでの判決も効力を失います
訴訟は、訴えの取下げがあった部分については、初めから係属していなかったものとみなされます(262条1項)。一部の取下げなら、その部分についてだけ係属が遡って消え、「訴訟は,訴えの一部の取下げがあった場合には,その部分についてのみ初めから係属していなかったものとみなされる」という肢は正しいです。係属が消えるので、取下げ前にされた判決も効力を失います。第一審判決に仮執行宣言が付された後、控訴審で訴えが取り下げられた事例で、「その仮執行宣言付判決は,その効力を失う」という肢は正しいです。取下げが効力を生じた後は判断すべき訴訟がないので、裁判所は訴えが不適法だと考えても却下判決をすることはできず、「訴えの取下げが効力を生じた後においては,その訴えが不適法であると認める場合であっても,訴えを却下する判決をすることができない」という肢は正しいです。取下げまでに生じた訴訟費用は、訴訟が裁判及び和解によらないで完結したので、申立てにより第一審裁判所が決定で負担を命じます(73条1項)。「第一審裁判所は,当事者の申立てにより,訴えの取下げまでに生じた訴訟費用の負担を命じなければならない」という肢は正しいです。
係属が遡って消えても、反訴との関係での訴訟行為や、権利行使の意思が続く限りでの時効の効果は失われません
取下げの遡及効は、取り下げられた訴えについての訴訟係属を消すものです。そのため、反訴の提起後に本訴が取り下げられても、本訴で行われた主張や証拠調べの結果は、なお係属している反訴の判決の基礎にできます。「反訴の提起後に本訴が取り下げられた場合には,本訴の訴訟資料を反訴の判決の基礎とすることはできない」という肢は誤りです。また、同じ債権について二重に係属していた訴訟の弁論が併合され、前訴を維持する必要がなくなったとして前訴を取り下げ後訴を追行する場合、権利行使の意思は続いているので、前訴の提起による時効の効果は失われないとする判例があります(最判昭和50年11月28日)。出題当時は「時効の中断」と呼ばれ、現行民法では裁判上の請求による時効の完成猶予(民法147条1項)の問題になりますが、後訴の係属によって権利行使が続いている点は同じです。「前訴の提起によって生じた甲債権の消滅時効の中断の効果は消滅しない」という肢は正しいです。
本案の終局判決の後に訴えを取り下げた者は同一の訴えを起こせませんが、再訴を正当とする新たな利益や必要性があれば同一の訴えに当たりません
本案について終局判決があった後に訴えを取り下げた者は、同一の訴えを提起することができません(262条2項)。判例(最判昭和52年7月19日)は、この規定の趣旨を、終局判決を得た後に取り下げて裁判を徒労に帰せしめたことへの制裁と、同一紛争を蒸し返して訴訟制度をもてあそぶ事態の防止にあるとしました。そのうえで「同一の訴え」とは、当事者と訴訟物が同じであるだけでなく、訴えの利益や必要性の点でも事情を同じくする訴えをいい、再訴の提起を正当とする新たな利益又は必要性があるときは再訴禁止は適用されないとしました。そのため、「再訴の提起を正当なものとする新たな利益又は必要性が存するときは,取り下げた訴えと訴訟物を同一とする再訴を提起することができる」という肢、「新たな訴えの利益又は必要性が存するときは、前訴と当事者及び訴訟物を同一とする訴えを提起することができる」という肢、「取下げ後にその訴えの提起を必要とする新たな事情が生じた場合は,再訴が許されることがある」という肢は正しいです。再訴禁止は、裁判を無駄にしたことへの制裁なので、相手方が同意しても解除されません。「相手方の同意があれば,同一の訴えを提起することができる」という肢は誤りです。
差戻し後の第一審判決の前の取下げ、訴え却下判決の後の取下げ、被告からの訴えには、再訴禁止は及びません
再訴禁止は「本案について終局判決があった後」の取下げにだけ働きます。第一審の本案判決が控訴審で取り消されて差し戻されると、取下げによって無駄になる本案の終局判決はなくなっているので、差戻し後の第一審で改めて終局判決がされる前の取下げには再訴禁止の効果が生じません(最判昭和38年10月1日)。「改めて終局判決がされるまでに訴えの取下げがされたときは,再訴禁止の効果を生じない」という肢は正しいです。反対に、「原告が差戻し後の第一審において訴えを取り下げたときは,原告は,同一の訴えを提起することができない」という肢は誤りです。訴えを却下する判決は訴訟判決で本案判決ではないので、その後の取下げにも再訴禁止はなく、「訴えを却下する判決がされた後に訴えを取り下げた原告は,同一の訴えを提起することができない」という肢は誤りです。再訴が禁止されるのは「取り下げた者」なので、債務不存在確認の請求棄却判決の後に原告が取り下げても、被告がその債務の履行を求めて訴えることは妨げられません。訴訟物も異なります。「被告は,当該金銭債務の履行を求める訴えを提起することができる」という肢は正しいです。
- 再訴禁止が働く本案の終局判決の後に、その判決を受けた原告が取り下げ、当事者・訴訟物・訴えの利益の事情が同じ訴えを起こす場合
- 働かない再訴を正当とする新たな利益又は必要性がある場合(最判昭和52年7月19日)
- 働かない差戻し後の第一審で改めて終局判決がされる前の取下げ(最判昭和38年10月1日)
- 働かない訴え却下判決(訴訟判決)の後の取下げ
- 働かない取り下げていない被告が起こす訴え
民事訴訟法262条1項
訴訟は、訴えの取下げがあった部分については、初めから係属していなかったものとみなす。
民事訴訟法262条2項
本案について終局判決があった後に訴えを取り下げた者は、同一の訴えを提起することができない。
最判昭和52年7月19日
同条項にいう『同一の訴』とは、単に当事者及び訴訟物を同じくするだけではなく、訴の利益又は必要性の点についても事情を一にする訴を意味し、たとえ新訴が旧訴とその訴訟物を同じくする場合であっても、再訴の提起を正当ならしめる新たな利益又は必要性が存するときは、同条項の規定はその適用がない
論文ではこう使う
論文では、262条2項の再訴禁止が及ぶかが問われます。まず規定の趣旨を、判例(最判昭和52年7月19日)に従い、終局判決を徒労にしたことへの制裁と再訴の濫用防止の両面から示します。そのうえで、趣旨が妥当しない場面を切り出すため、「同一の訴え」を当事者・訴訟物の同一に加えて訴えの利益・必要性の点で事情を一にする訴えと限定し、事案の中から、前訴の取下げに無理からぬ事情があったか、相手方が後に主張を変えたかなど、再訴を正当とする新たな事情を拾って当てはめます。裁判を受ける権利への配慮を一言添えると、限定解釈の理由が明確になります。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。