訴えの取下げの瑕疵と効力を争う方法(刑事上罰すべき行為・期日指定の申立て・訴訟終了宣言判決)とは
うったえのとりさげのかしとこうりょくをあらそうほうほう
訴えの取下げの瑕疵とは、訴えの取下げが詐欺・脅迫・錯誤などの意思の瑕疵によってされた場合の問題のことです。判例は、明らかに刑事上罰すべき他人の行為による取下げを無効とし、取下げの効力を争う当事者は期日指定を申し立て、裁判所は取下げが有効なら訴訟終了宣言判決をします。
被告に「訴えを取り下げなければ刑事告訴する」と脅され、やむなく取下書に署名した原告がいたとします。訴えの取下げは訴訟行為なので、民法の詐欺や強迫の規定でそのまま取り消すことはできません。しかし脅されてした取下げをそのまま有効とするのは不当です。そこで判例は、刑事上罰すべき他人の行為による取下げを無効としました。取下げの効力を争う原告は、期日の指定を申し立てて、終わったはずの訴訟を続けるよう求めます。
詐欺や脅迫など明らかに刑事上罰すべき他人の行為による訴えの取下げは、338条1項5号の法意に照らして無効です
判例(最判昭和46年6月25日)は、訴えの取下げは訴訟行為であるから、一般に行為者の意思の瑕疵が直ちにその効力を左右するものではないとしつつ、詐欺脅迫等明らかに刑事上罰すべき他人の行為によって取下げがされるに至ったときは、338条1項5号の法意に照らしてその取下げは無効と解すべきだとしました。事案は、認知請求の控訴審係属中に、被告が原告の法定代理人である母に告訴をちらつかせて取下書に署名させたというものです。確定判決ですら再審で覆せる事由があるのなら、その手前の取下げの効力も否定してよいという考え方です。「原告が、被告の脅迫により訴えを取り下げたとしても、当該訴えの取下げは有効である」という肢と、「詐欺脅迫等明らかに刑事上罰すべき被告の行為により訴えの取下げがされるに至った場合であっても,当該訴えの取下げは有効である」という肢は、いずれも誤りです。
取下げの無効を主張するには、再審の場合と違って有罪判決の確定などは要りません
再審の訴えでは、刑事上罰すべき他人の行為を理由とするとき、有罪判決の確定などが必要です(338条2項)。しかし同じ判例は、取下げの無効の主張は確定判決に対する不服申立てではないので同項の適用はなく、刑事上罰すべき行為について有罪判決の確定やこれに準ずる要件、告訴の提起などは必要ないとしました。自白の撤回でも同じ扱いがされています。錯誤による取下げについては、判例の基準では無効にならないことになりますが、取下げは再訴禁止によって実体権の放棄に近い結果を生むことがあり、無効を認めても訴訟が再開するだけで手続の安定を害さないとして、私法の規定を類推して無効を認めるべきだとする見解も有力です。訴訟行為に私法規定が適用されるかという一般論は、訴訟行為の性質の語で扱います。
取下げの効力を争う当事者は期日指定を申し立て、裁判所は取下げが有効なら訴訟終了宣言判決をし、無効なら審理を続けます
取下げの効力に争いがあるとき、取下げが無効だと考える当事者は、訴訟がまだ終わっていないとして口頭弁論期日の指定を申し立てます。裁判所は期日を開いて取下げの有効性を審理し、有効と判断すれば、訴訟は取下げによって終了した旨を宣言する判決(訴訟終了宣言判決)をします。これは訴訟要件の欠缺を理由とする訴え却下判決とは別の判決です。訴え却下の判決をすべき場合に当たるかを問う問題で、「原告による訴えの取下げの効力が争われ,裁判所が有効な訴えの取下げがあったと判断した場合」は、訴え却下ではなく訴訟終了宣言判決をする場合なので、訴え却下の判決をすべき場合には当たりません。この問題の[○]は「訴え却下の判決をすべき場合に当たる」ことを表すので、この肢には[×]が付いています。取下げが無効と判断すれば、裁判所は訴訟手続を続け、中間判決又は終局判決の理由の中で取下げが無効であることを示します。訴訟上の和解の無効を主張する場合も期日指定の申立てができ、この点は訴訟上の和解の効力と瑕疵の語で扱います。訴訟終了宣言判決に被告だけが控訴した場合の不利益変更禁止の問題は、後半の不利益変更禁止の原則の語で扱います。
- 取下げの効力を争う方法期日指定の申立て
- 有効と判断したとき訴訟終了宣言判決(訴え却下判決ではありません)
- 無効と判断したとき訴訟手続を続け、中間判決又は終局判決の理由で無効を示します
- 刑事上罰すべき他人の行為による取下げ無効です。有罪判決の確定などは要りません(最判昭和46年6月25日)
民事訴訟法338条1項5号
刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと。
最判昭和46年6月25日
訴の取下は訴訟行為であるから、一般に行為者の意思の瑕疵がただちにその効力を左右するものではないが、詐欺脅迫等明らかに刑事上罰すべき他人の行為により訴の取下がなされるにいたったときは、民訴法420条1項5号の法意に照らし、その取下は無効と解すべきであ(る)
論文ではこう使う
論文では、訴えの取下げに瑕疵があった事例で、その効力と争い方を論じます。まず訴訟行為には手続安定の要請から民法の意思表示の規定が当然には適用されないことを示し、判例(最判昭和46年6月25日)に従って、刑事上罰すべき他人の行為による取下げは338条1項5号の法意から無効であり、同条2項の要件は不要であるとします。錯誤の事例では、取下げは訴訟を終了させる行為で効力を否定しても手続が再開するだけであること、終局判決後なら再訴禁止で実体権を失うに等しいことを挙げ、私法規定の類推を認めるかを論じます。争い方として期日指定の申立てと、有効の場合の訴訟終了宣言判決まで書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。