否認と抗弁の区別(単純否認・積極否認・抗弁・再抗弁)とは
ひにんとこうべんのくべつ
否認とは、相手方の主張した事実の存在を認めないことで、理由を付けずにする単純否認と、相手方の主張と両立しない事実を挙げてする積極否認(理由付き否認)があります。抗弁とは、請求原因事実と両立し、請求原因から生じる法律効果の発生を障害し、消滅させ、又は阻止する事実の主張で、これに対する同じ構造の主張を再抗弁といいます。
「絵画の代金を払え」と訴えられた被告が「その絵はあなたからではなくAさんから買った」と言うのと、「あなたから買ったが、もう払った」と言うのとでは、同じ反論でも意味が違います。前者は原告の言う売買そのものを否定し、後者は売買を認めたうえで代金債務が消えたと言っています。誰が何を証明しなければならないか、裁判所が当事者の主張なしに認定できるかが、この違いで決まります。だから被告の言い分は否認か抗弁かに振り分けられます。
否認は請求原因事実と両立しない主張で、抗弁は請求原因事実と両立しながらその法律効果を妨げる主張です
相手方の主張した事実に対する応答には、認める(自白)、認めない(否認)、知らない(不知)、何も言わない(沈黙)の4つがあります。不知は否認したものと推定され(159条2項)、沈黙は自白したものとみなされます(159条1項)。否認には、理由を述べずに認めない単純否認と、相手方の主張と両立しない事実を挙げて認めない積極否認(理由付き否認)があり、準備書面で否認するときはその理由を記載しなければなりません(民事訴訟規則79条3項)。これに対し抗弁は、請求原因事実が存在することを前提にしても成り立つ事実で、請求原因から生じる法律効果の発生を障害し、消滅させ、又はその行使を阻止するものです。抗弁事実は被告が主張立証責任を負い、抗弁に対して同じ構造で効果を妨げる原告の主張を再抗弁といいます。区別の決め手は両立するかどうかで、請求原因事実と両立しない事実は、どれほど具体的に述べても否認の理由にすぎません。
- 単純否認理由を述べずに相手方の主張事実を認めないことです
- 積極否認(理由付き否認)相手方の主張と両立しない事実を挙げて認めないことです。挙げた事実は間接事実にとどまります
- 抗弁請求原因事実と両立し、その法律効果を障害・消滅・阻止する事実で、被告が主張立証責任を負います
- 再抗弁抗弁事実と両立し、抗弁の法律効果を妨げる事実で、原告が主張立証責任を負います
売買代金請求に対し、売主はXでないという主張は否認で、同時履行や弁済の主張は抗弁です
XがYに絵画の売買代金を請求する訴訟の請求原因は、XY間の売買契約の締結です。Yの陳述のうち、「その絵画は,Aから買ったものであり,代金もAに支払っています」、「その絵画は,XからBが買い,Bから私が買ったものです」、「その絵画は,Xから贈与されたものです」は、いずれもXY間の売買と両立しないので積極否認であり、抗弁にはなりません。Aへの代金の支払も、AY間の債務の弁済であってXの代金債権を消すものではありません。これに対し、「その絵画は,Xから買ったものですが,まだ,引渡しを受けていません」は売買を認めたうえで同時履行の抗弁権(民法533条)を基礎づけるもので、「その絵画は,Xから買ったものですが,既にXには代金全額を支払いました」は弁済による債権の消滅を主張するものなので、どちらも抗弁になります。この問題の[○]は「抗弁となり得る」ことを表すので、[○]はこの2つの陳述に付いています。同時履行の抗弁権は権利抗弁なので、事実が出ているだけでなく、Yが履行を拒絶する意思を表明する必要があります。
所有権に基づく明渡請求に対し、Xの買受けを否定するのは否認で、所有権喪失・対抗要件具備・Xとの賃貸借は抗弁です
XがAから買った土地の明渡しをYに求める訴訟では、請求原因はAのもと所有、AX間の売買、Yの占有です。「Xが甲土地をAから買い受けたことはなく,甲土地は,現在もAが所有している」はAX間の売買を否定する否認です。「Xは,甲土地をAから買い受けた後,Bに売り渡した」は、Xの買受けを前提にXが所有権を失ったとする所有権喪失の抗弁です。「Yも,甲土地をAから買い受けた上で自らに対する所有権移転登記を経由した」は、二重譲渡で先に登記を備えたYが確定的に所有者となりXが所有権を失うとする対抗要件具備による所有権喪失の抗弁です。「Yの占有は,Xが甲土地を買い受けた後,同土地をXから賃借していることに基づく」は、Xとの契約による占有権原の抗弁です。これに対し、「Yの占有は,Xが甲土地を買い受ける前から,同土地をAから無償で借り受けていることに基づく」は、使用借権には対抗力がなく新所有者Xに主張できないので、事実が認められてもXの請求を妨げず、抗弁になりません(主張自体失当)。この問題の[○]は「抗弁を含まない」ことを表すので、[○]は否認の陳述と使用貸借の陳述に付いています。
時効取得の請求原因に対する悪意の主張は抗弁で、返還約束を否定する贈与の主張や保証契約書の偽造の主張は否認です
10年の取得時効(民法162条2項)の要件のうち、占有開始時の善意は民法186条1項で推定されるので、時効取得を主張する原告は善意を主張立証する必要がなく、相手方が悪意を主張立証します。そのため「原告は,占有開始の時に当該土地の所有権を有しないことを知っていた。」との主張は抗弁であり、これを抗弁とする肢は正しいです。売買に基づく動産の引渡請求に対し、代金の支払まで引渡しを拒絶するとの主張は同時履行の抗弁権の行使で、抗弁とする肢は正しいです。所有権に基づく明渡請求に対し「原告は,他の第三者に対して当該土地を売り,所有権を失った。」との主張は所有権喪失の抗弁で、抗弁とする肢は正しいです。これに対し、貸金返還請求に対し「金銭の交付が贈与契約に基づくものであったから,金銭の返還請求権は発生しない。」との主張は、返還の合意と両立しない積極否認なので、「抗弁である」とする肢は誤りです。保証債務の履行請求に対し「主債務者が保証契約書を偽造した。」との主張も、保証の合意と書面の存在という請求原因と両立しない否認なので、「抗弁である」とする肢は誤りです。
積極否認で挙げた事実は間接事実なので主張がなくても認定できますが、所有権喪失の抗弁は当事者が主張しなければ判決の基礎にできません
否認か抗弁かは、弁論主義の適用にも直結します。積極否認の理由として挙げた事実は間接事実なので、当事者の主張がなくても、証拠調べの結果から認定してかまいません。Xが、AからBが買いBの死亡で相続したと主張し、Yが単純に否認した事案で、裁判所が買主はBではなくYだと認定して請求を棄却することは、Bの買受けという請求原因事実が認められないというだけなので許されます。「Aから甲土地を買い受けたのはBではなくYであることを理由としてXの請求を棄却することはできない」という肢は誤りです。これに対し、所有権喪失の原因事実は抗弁の主要事実なので、当事者が主張しない限り判決の基礎にできません。判例(最判昭和55年2月7日)は、買主は被相続人ではなく別の者だというYの主張は積極否認にとどまり、所有権喪失事由の主張を含まないから、主張のない死因贈与を認定して請求を棄却したのは違法だとしました。同じく、Yが「AはYに売却した」と主張しているだけなのに、証拠からAがBに売却したと認めても、「Bへの売買がされているのでXは同建物を所有していないとの理由で,Xの請求を棄却することはできない」という肢は正しいです。他方、Yが「XはDに売却し、YはDから買った」と主張し、XからDへの売却だけが認められた場合は、Xの所有権喪失という抗弁が成り立つので請求を棄却でき、「DからYへの売却については認められないと判断した場合には,Xの請求を棄却することはできない」という肢は誤りです。
民事訴訟法159条2項
相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は、その事実を争ったものと推定する。
民法533条
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
論文ではこう使う
論文では、事例の当事者の主張を請求原因・抗弁・再抗弁に振り分けることが、弁論主義・自白・証明責任を論じる前提になります。被告の主張が請求原因事実と両立するかを最初に確かめ、両立しなければ否認(その理由は間接事実)、両立して効果を妨げるなら抗弁(主要事実)と位置づけます。そのうえで、抗弁事実が当事者から主張されているか(弁論主義の第1テーゼ)、相手方が認めているか(自白)、証明できなかったときにどちらが不利益を負うか(証明責任)を順に検討します。所有権に基づく請求では、所有権喪失の抗弁と積極否認の区別が最判昭和55年2月7日の事案でそのまま問われます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。