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用語集 / 民事訴訟法 / 権利抗弁

権利抗弁(留置権・同時履行・建物買取請求・限定承認)とは

けんりこうべん

民事訴訟法 審理の原則と手続

権利抗弁とは、留置権や同時履行の抗弁権のように、その発生原因となる事実が弁論に出ているだけでは足りず、権利者が権利を行使する意思を表明して初めて裁判所が判決の基礎にできる抗弁のことです。通常の抗弁である事実抗弁は、その事実がどちらの当事者から出ていても判決の基礎になります。

時計の修理屋さんは、修理代を払ってもらうまで時計を返さないでおくことができます(留置権)。でも、修理屋さんが「代金をもらうまで返しません」と言わずに時計を返してもよいと考えているなら、裁判所が代わりに留置権を持ち出す理由はありません。権利を使うかどうかは権利者が決めることだからです。そこで、留置権や同時履行の抗弁権のように、権利者が行使して初めて意味を持つ抗弁は、その発生原因となる事実が弁論に出ていても、権利者が行使の意思を表明しなければ判決の基礎にできないとされています。

時計の修理店のカウンターを法廷に見立てた場面。左に修理屋の男性(札「被告(修理屋)」)が時計を手に持ち、右に客の男性(札「原告(所有者)」)が「時計を返してください」と言っている。後方に裁判官席があり、先生が裁判官役(札「裁判所」)として座

留置権や同時履行の抗弁権は、発生原因事実が弁論に出ていても、権利者が行使の意思を表明しない限り判決の基礎にできません

弁済や免除のような通常の抗弁(事実抗弁)は、その事実がどちらの当事者から出ていても、裁判所は判決の基礎にしなければなりません(主張共通の原則)。これに対し判例(最判昭和27年11月27日)は、留置権のような権利抗弁では、抗弁権取得の事実関係が訴訟上主張されても、権利者が権利を行使する意思を表明しない限り、裁判所はこれをしん酌できないとしました。同じ判決は、権利の取得をうかがわせる事実が現れていても、裁判所が権利行使の意思を確かめたり行使を促したりする責務はないとして、釈明義務違反の主張も退けています。したがって、「被告が留置権の発生の原因となる事実を主張した場合には,被告が留置権を行使する意思を表明していないときであっても,裁判所は,被告が留置権を有することを判決の基礎とすることができる」という肢は誤りです。

同時履行の抗弁は「代金の支払まで引渡しを拒絶する」という権利行使の主張そのものが抗弁になります

売買契約に基づく目的物の引渡請求の請求原因は売買契約の締結であり、代金の支払はこれに含まれません。売買は双務契約なので、特約がない限り、引渡債務と代金支払債務は同時履行の関係に立ち(民法533条)、被告は代金の支払を受けるまで引渡しを拒むことができます。この抗弁は請求原因と両立し、請求権の行使を阻止するもので、要件事実は権利者が同時履行の抗弁権を行使することです。「原告が被告に対して代金の支払をするまで当該動産の引渡しを拒絶する。」との主張は、まさにその行使にあたるので、「『原告が被告に対して代金の支払をするまで当該動産の引渡しを拒絶する。』との主張は,抗弁である」という肢は正しいです。権利行使そのものが要件なので、相手方が「同時履行の抗弁権は認められない」と述べても、それは法律上の意見にすぎず、事実の否認にはなりません。

板書の図解。黒板を左右に分け、左に見出し「事実抗弁(弁済・免除)」として「事実がどちらの当事者から出ていても判決の基礎にする」、右に見出し「権利抗弁(留置権・同時履行・建物買取請求・限定承認)」として「権利者が行使の意思を表明して初めて基礎

建物買取請求権などの形成権を訴訟の中で行使する場合や限定承認も、権利者自身が主張しなければ判決の基礎になりません

借地人の建物買取請求権(借地借家法13条)や取消権のような形成権は、一方的な意思表示で法律関係を変えます。訴訟外で行使した結果を抗弁として主張する場合は、行使の事実が主張されれば足りる事実抗弁ですが、訴訟の中で初めて行使する場合は、権利者自身が行使の主張をしなければならない点で権利抗弁に近い扱いになります。相続人の限定承認も、相続人が主張して初めて相続財産の限度での支払を命じる判決につながります。いずれも、権利者が行使するかどうかを決めるという点で、留置権・同時履行の抗弁権と同じ考え方に立っています。

権利抗弁が認められると、請求は棄却されず、引換給付判決などの一部認容判決になります

権利抗弁は請求権そのものを消滅させるのではなく、その行使を一定の限度で阻止するものです。そのため、物の引渡請求に対する留置権の抗弁が認められるときは、請求を棄却せずに、被担保債権の弁済と引換えに物の引渡しを命じます(最判昭和33年3月13日)。「家屋明渡請求訴訟において,留置権の抗弁が認められるときは,裁判所は,当該留置権により担保される債権の弁済を受けることと引換えに家屋の引渡しを命ずる」という肢は正しいです。同時履行の抗弁なら反対給付との引換給付判決、建物買取請求権の行使なら建物の引渡しによる土地明渡し、限定承認なら相続財産の限度での支払判決になり、いずれも申立ての範囲内の一部認容として246条に反しません(処分権主義と申立事項・判決事項の語で扱います)。

  • 留置権(民法295条)行使の意思表明が必要です。認められれば被担保債権の弁済との引換給付判決になります
  • 同時履行の抗弁権(民法533条)「代金の支払まで引渡しを拒絶する」という行使の主張が抗弁です。認められれば引換給付判決になります
  • 建物買取請求権(借地借家法13条)訴訟の中で行使すれば、建物引渡しによる土地明渡しの判決になります
  • 限定承認相続人が主張すれば、相続財産の限度での支払判決になります

論文ではこう使う

論文では、裁判所が当事者の主張しない抗弁で判断した事例で、事実抗弁と権利抗弁を区別して書きます。事実抗弁なら主張共通の原則によりどちらの当事者から出た事実でも判決の基礎にできるが、権利抗弁は権利者の行使の意思表明が要件なので、発生原因事実が出ていても権利者が行使しない限り基礎にできない(最判昭和27年11月27日)、と結論を分けます。行使を促すべきかは釈明権の限界の問題として、判例が釈明義務を否定したことに触れます。

試験ではこう問われる

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