処分権主義と申立事項・判決事項(246条:一部認容・質的一部認容・引換給付・限定承認・不執行合意)とは
しょぶんけんしゅぎともうしたてじこうはんけつじこう
処分権主義とは、訴訟を始めるか、何について・どの範囲で判決を求めるか、判決によらずに終わらせるかを当事者が決めるという原則です。申立事項とは原告が判決を求めた審判の対象と範囲のことで、裁判所はその範囲を超え、又はそれと異なる事項について判決をすることができません(246条)。
100万円を返せと訴えた人に、裁判所が「200万円払え」と命じたり、頼んでもいない「債権があることの確認」を言い渡したりしたら、原告も被告も困ります。何について、どこまで判決を求めるかは当事者が決めることで、相手方もその範囲を前提に防御しているからです。そこで246条は、裁判所は当事者が申し立てていない事項について判決をすることができないと定めています。他方で、申立ての範囲の中で一部だけを認めることは、原告の意思にも沿い、被告への不意打ちにもならないので許されます。
裁判所は、原告が申し立てた訴訟物と別の権利や、申立てと別の種類の判決を言い渡すことはできません
処分権主義のもとでは、審判の対象(訴訟物)と求める判決の種類・範囲を原告が決め、裁判所はそれに拘束されます(246条)。給付の訴えと確認の訴えは訴えの種類が違い、給付判決を求める申立てには請求権の存在の確認を求める申立ては含まれません(大判大正8年2月6日)。そのため、履行期が未到来で給付判決ができないことが分かっても、原告が訴えを変更しない限り、確認判決に切り替えることはできません。「訴訟物とされている請求権の履行期が到来していないことが明らかになったときは,裁判所は,当該請求権の存在を確認する判決をすることができる」という肢は誤りです。「その履行期が未到来であることが明らかになった場合には、裁判所は、原告が売買代金債権を有する旨を確認する判決をすることができる」という肢も誤りです。「原告が訴えを変更しないときであっても,裁判所は,これに代えて1000万円の貸金債権の存在を確認する判決をすることができる」という肢も誤りです。
元本と利息、引渡請求と損害賠償請求、日付の違う貸付けは別の訴訟物なので、申し立てられていない側を認容することはできません
判例は実体法上の権利ごとに訴訟物を考えるので、貸金の元本と利息、物の引渡請求権と履行不能による損害賠償請求権は、別の訴訟物です。「原告から利息の支払を求める申立てがない場合には、裁判所は、利息の支払を命ずる判決をすることはできない」という肢は正しいです。「物の引渡しができないことが明らかになった場合には、裁判所は、原告が訴えを変更しないときであっても、損害賠償を命ずる判決をすることができる」という肢は誤りです。同じ当事者間の貸金でも、貸付けの日が違えば別の請求権です。9月25日の貸付けは返済され、12月14日の貸付けが未返済と分かっても、申し立てられていない12月14日の貸金を認容することはできません。「裁判所は,原告が求めた1000万円の支払の限度で,請求を認容する判決をすることができる」という肢は誤りです。
申立ての範囲の中で一部だけを認める判決はでき、引換給付判決や相続財産の限度での支払判決もその一つです
申立ての範囲の内側であれば、量的な一部認容(1000万円の請求に600万円を認容する)だけでなく、条件を付けた質的な一部認容もできます。物の引渡請求に対して被告の留置権の抗弁が認められるときは、請求を棄却せず、被担保債権の弁済と引換えに引渡しを命じます(最判昭和33年3月13日)。「留置権の抗弁が認められるときは,裁判所は,当該留置権により担保される債権の弁済を受けることと引換えに家屋の引渡しを命ずる」という肢は正しいです。建物収去土地明渡請求に対し、被告が建物買取請求権を行使したときは、明渡請求には建物の引渡しを求める申立ても含まれるとされます(最判昭和36年2月28日)。「被告が建物買取請求権を行使した場合には,裁判所は,建物を引き渡して土地を明け渡すことを命ずる判決をすることができる」という肢は正しいです。相続債務の支払請求で限定承認が認められるときは、主文で相続財産の限度での支払を命じます(最判昭和49年4月26日)。「相続人が主張する限定承認の事実を認めることができる場合には,裁判所は,相続によって得た財産の限度で当該債務の弁済を命ずる判決をすることができる」という肢は正しいです。所有権移転登記の全部抹消を求める訴えで不動産が原告と被告の共有だと認めたときは、原告の持分に応じた更正登記を命じることが、申立ての分量的な一部の認容に当たります(最判昭和38年2月22日)。「実質的な一部抹消登記手続として,原告の共有持分に応じた更正登記手続を命じる判決をすることができる」という肢は正しいです。給付請求権について不執行の合意が認められるときは、その点も訴訟物に準じて審判の対象となり、強制執行をすることができないことを主文で明らかにします(最判平成5年11月11日)。「被告が主張する不執行の合意の事実が認められるときは、裁判所は、その請求権について強制執行をすることができないことを主文において明示しなければならない」という肢は正しいです。
- 留置権・同時履行の抗弁反対給付との引換給付判決をします
- 建物買取請求権の行使建物の引渡しによる土地の明渡しを命じます
- 限定承認相続財産の限度での支払を命じます(留保付判決)
- 全部抹消登記請求で共有と認定原告の持分に応じた更正登記を命じます
- 不執行の合意強制執行をすることができない旨を主文で明示します
- 債務不存在確認認められた債務額を超える部分の不存在を確認し、その余を棄却します(債務不存在確認訴訟の語で扱います)
原告が申し出た反対給付や立退料より原告に不利な条件でも、申出と格段の相違がない範囲なら引換給付判決ができます
原告が自ら反対給付を申し出て引換給付判決を求めた場合でも、裁判所は申出の額に縛られません。判例(最判昭和46年11月25日)は、立退料300万円の支払と引換えに建物の明渡しを求めた事案で、500万円の支払と引換えに明渡しを命じた判決を是認しました。原告は通常、立退料を増やしてでも明渡しを求める意思を持っており、増額は原告に不利な方向の一部認容にとどまるからです。同じ考え方で、残代金500万円の支払と引換えの移転登記を求めた原告に、700万円の支払との引換えを命じることもできます。「裁判所は、被告に対し、原告から700万円の支払を受けるのと引換えに、原告への所有権移転登記手続を命ずる判決をすることができる」という肢は正しいです。
人身損害の賠償請求は訴訟物が1個なので、費目ごとの請求額を超えても総額の範囲内なら認容できます
判例(最判昭和48年4月5日)は、同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上の損害と精神上の損害の賠償請求権は1個で、訴訟物も1個であるとしました。治療費・逸失利益・慰謝料は1個の請求の中の算定の要素にすぎないので、裁判所は費目ごとの請求額に縛られず、総額で申立てを超えなければ認容できます。慰謝料100万円・休業損害300万円(計400万円)の請求に、慰謝料150万円・休業損害200万円(計350万円)を命じても246条に反しないので、「裁判所は,慰謝料150万円及び休業損害200万円の支払を命ずる判決をすることができる」という肢は正しいです。合計1000万円の請求で慰謝料を請求額より多く認定しても、合計950万円なら総額の範囲内なので、「合計950万円の支払を命ずる判決をすることはできない」という肢は誤りです。
訴訟費用の負担と仮執行宣言は申立てがなくても裁判できますが、誰も求めていない和解の無効確認を主文で判決することはできません
訴訟費用の負担の裁判と仮執行宣言は訴訟物についての判断ではない付随的な裁判なので、246条の拘束を受けません。裁判所は、事件を完結する裁判において、職権で、その審級における訴訟費用の全部について負担の裁判をしなければなりません(67条1項本文)。「裁判所は、当事者が申立てをしない場合でも、判決において、訴訟費用の負担の裁判をしなければならない」という肢は正しいです。財産権上の請求に関する判決には、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で仮執行宣言を付すことができます(259条1項)。「裁判所は,原告の申立てがない場合であっても,必要があると認めるときは,仮執行宣言を付すことができる」という肢は正しいです。これに対し、訴訟上の和解で訴訟が終了した後に被告が和解の無効を主張して期日指定を申し立てた事案で、判例(最判平成27年11月30日)は、いずれの当事者も和解の無効確認を求めていないのに主文で和解の無効を確認することは、申し立てていない事項について判決をした違法に当たるとしました。「いずれの当事者も当該和解が無効であることの確認を求めていないときは、裁判所は、主文において、当該和解が無効であることを確認する判決をすることはできない」という肢は正しいです。
民事訴訟法246条
裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。
民事訴訟法67条1項
裁判所は、事件を完結する裁判において、職権で、その審級における訴訟費用の全部について、その負担の裁判をしなければならない。ただし、事情により、事件の一部又は中間の争いに関する裁判において、その費用についての負担の裁判をすることができる。
論文ではこう使う
論文では、裁判所の判決が「申立事項(246条)の範囲内か」を、①原告の合理的意思に反しないか、②被告にとって不意打ちにならないか、の2点から論じます。引換給付判決・立退料の増額・一部認容・留保付判決が問われたら、まず判例の訴訟物の捉え方(同一事故の人身損害は1個、元本と利息は別個)で申立ての範囲を確定し、そのうえで判決が質的・量的にその内側にあるかを当てはめます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。