限定承認と既判力に準ずる効力とは
げんていしょうにんときはんりょくにじゅんずるこうりょく
既判力に準ずる効力とは、相続債務の給付訴訟で限定承認が認められ、相続財産の限度で支払を命じる留保付判決が確定したときに、限定承認の存在と効力の判断に判例が認めた拘束力です(最判昭和49年4月26日)。債権者は、基準時前の法定単純承認の事実を主張して、責任の限定のない判決を求める後訴を起こせなくなります。
亡くなった親の借金を請求された相続人は、限定承認をしていれば、相続した財産の範囲でだけ払えば足ります。この場合の判決は「相続財産の限度で支払え」という留保付きのものになります。ところが、責任の限定は訴訟物そのものではないので、理由中の判断にすぎないと考えると、債権者は後で「実は単純承認になっていた」と言って全額の判決を取り直せることになります。判例は、それでは限定承認をめぐる争いが何度でも蒸し返されるとして、既判力に準ずる効力でこれを止めました。
限定承認が認められたときは、判決の主文で相続財産の限度で支払を命じ、責任の限定を債務名義上明らかにします
相続人は、相続によって得た財産の限度でだけ被相続人の債務を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができます(民法922条)。相続債務の給付訴訟で債務の存在とともに限定承認の事実も認められたときは、裁判所は、強制執行の対象を相続財産に限るため、判決の主文で「相続財産の限度で支払え」と命じなければなりません(最判昭和49年4月26日)。原告が無条件の支払を求めていても、その一部を認める判決なので、申し立てていない事項の判決(246条)には当たりません。留保付判決の訴訟物はあくまで給付請求権であり、責任が相続財産に限られるという判断は、本来の意味の既判力の対象である訴訟物の判断そのものではありません。申立事項と判決事項の関係は「処分権主義と申立事項・判決事項」で扱います。
留保付判決の確定後に、基準時前の法定単純承認の事実を主張して無留保の判決を求める後訴は、既判力に準ずる効力により許されません
判例は、留保付判決が確定した後に、債権者が前訴の口頭弁論の終結時以前に存在した限定承認と相容れない事実、たとえば民法921条の法定単純承認の事実を主張して、責任の限定のない給付判決を求めることは許されないとしました(最判昭和49年4月26日)。限定承認の存在と効力についての前訴の判断は、主文に責任の限定として示されるので、既判力に準ずる効力を持つからです。前訴で限定承認を争う機会があったのに、後で別の事実を持ち出して全額の責任を追及できるとすれば、前訴の解決が無意味になります。「貸主は,口頭弁論の終結の前に法定単純承認の事実があったとして,限定承認の効力を争い,無留保の判決を得るため,改めて貸金返還請求訴訟を提起することは,許されない」という肢は正しいです。相続財産の一部の隠匿を主張して改めて責任の限定のない判決を求める場合も同じで、「Xの後訴請求には前訴判決の効力は及ばない」という肢は誤りです。
遮断の根拠は既判力そのものではなく既判力に準ずる効力なので、「既判力に抵触する」と言い切る肢は誤りとされます
判例が後訴を許さない理由として述べたのは、既判力そのものではなく既判力に準ずる効力です。訴訟物は給付請求権で、責任の限定の判断は訴訟物の判断と同じではないからです。そのため、500万円の請求で限定承認の抗弁が容れられ相続財産の限度で支払を命じる判決が確定した後、後訴裁判所が基準時前の法定単純承認の事由に基づいて無留保の支払を命じることは許されないものの、その理由を「前訴の確定判決の既判力に抵触し、許されない」とする肢は、根拠を既判力としている点で誤りとされています。後訴が許されないという結論は同じでも、責任の限定の判断は訴訟物の判断ではないので、判例はあえて既判力と区別した言葉を使っています。
民法922条
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
論文ではこう使う
論文では、まず留保付判決の訴訟物が給付請求権であり、責任の限定は本来の既判力の対象でないことを示します。そのうえで、限定承認の存否が当事者間で主要な争点として争われ、判決主文に責任の限定として表示されること、後訴を許せば前訴の解決が無に帰することから、判例のいう既判力に準ずる効力を認め、基準時前の法定単純承認事由による蒸し返しを遮断します。争点効を否定する判例との整合性(主文に表示される点で理由中の判断一般と異なる)にも触れます。
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