基準時後の事情変更(後遺症・将来給付・確定判決変更の訴え)とは
きじゅんじごのじじょうへんこう
基準時後の事情変更とは、確定判決の基準時より後に、前の訴訟では予見も主張もできなかった事情が生じ、判決で確定した損害額などが実態に合わなくなることです。判例は、予見できなかった後遺症の損害や、事情変更で不相当になった将来の損害金の差額を後訴で請求することを認め、定期金賠償の判決には変更を求める訴え(117条)があります。
交通事故の裁判が終わった後に、思いもよらない後遺症が出て手術が必要になることがあります。前の裁判で予想すらできなかった損害まで「既判力で封じられた」とされては、被害者に酷です。逆に、毎月の賃料相当額の支払を命じた判決が、地価が大きく上がった後も昔の額のまま加害者を守り続けるのも不公平です。基準時後の事情変更は、こうした場合に既判力の枠を保ちながら、後から生じた事情を調整する仕組みです。
前訴の口頭弁論の終結時に予見できなかった後遺症の損害は、前訴と訴訟物が異なるので、既判力に妨げられず後訴で請求できます
判例は、前訴が最終の口頭弁論期日までに支出した治療費の賠償を求めたのに対し、後訴がその後に再手術を余儀なくされたことによる治療費の賠償を求めるものであるときは、両訴は訴訟物を異にするので、前訴の確定判決の既判力は後訴に及ばないとしました(最判昭和42年7月18日)。前訴で請求できたのは当時判明していた損害だけで、それを全部として請求したと扱うのは不合理だからです。判例は、この場合の前訴を、明示の一部請求の法理で説明しています。交通事故の損害賠償で400万円の限度で認容された後に、予見できなかった後遺障害が生じたと主張して後訴を起こすことは許されるので、「前訴の確定判決の既判力に抵触し,許されない」という肢は誤りです。治療費の賠償判決の確定後に、予想できなかった後遺症による手術費を求める後訴には、前訴判決の既判力は作用しません。
将来の賃料相当損害金を認容した判決の後、地価の高騰などで認容額が不相当になれば、差額を後訴で請求できます
土地の明渡しまでの将来の賃料相当損害金の支払を命じた判決が確定した後、明渡しが長引き、土地の価格の高騰などで認容額が不相当になることがあります。判例は、前訴の将来の損害金の請求は、事情変更で認容額が不相当になった場合の差額を請求から除外する趣旨であり、判決もその趣旨でされたとみるべきなので、その差額については前訴の請求は一部請求であったことに帰し、既判力は差額の請求に及ばないとしました(最判昭和61年7月17日)。将来の事情の変化は前訴で主張立証できなかったからです。「原告は,後訴により,当該認容額と適正賃料額との差額に相当する損害金の支払を求めることができる」という肢は正しいです。将来給付の訴えの要件(135条)は前半の「将来給付の訴え」で扱います。
定期金による賠償を命じた確定判決は、算定の基礎となった事情に著しい変更が生じれば、第一審裁判所に変更を求める訴えを起こせます
口頭弁論の終結前に生じた損害について定期金による賠償を命じた確定判決があり、口頭弁論の終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起できます(117条1項本文)。変更できるのは、その訴えの提起の日以後に支払期限が来る定期金の部分に限られ(同項ただし書)、訴えは第一審裁判所の専属管轄です(同条2項)。定期金賠償は将来の予測に基づいて額を決めるので、予測が大きく外れたときに当事者のどちらからでも是正できるようにしたものです。判例は、後遺障害による逸失利益についても、損害賠償制度の目的と損害の公平な分担の理念に照らして相当と認められるときは定期金による賠償を命じることができるとしました(最判令和2年7月9日)。一時金で賠償を命じた判決には117条は適用されないので、一時金か定期金かの選択がこの後の是正の可否を左右します。
- 予見できなかった後遺症前訴と訴訟物が異なり、後訴で請求できます(最判昭和42年7月18日)
- 将来の損害金の認容額が不相当になった場合前訴は一部請求であったことに帰し、差額を後訴で請求できます(最判昭和61年7月17日)
- 定期金賠償の判決算定の基礎の事情に著しい変更があれば、提起の日以後の定期金について変更を求める訴えができます(117条)
- 一時金賠償の判決117条の変更の訴えはできません
民事訴訟法117条1項
口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。
論文ではこう使う
論文では、後訴の請求が前訴の既判力に触れるかを、まず訴訟物の同一性で検討します。後遺症の事案では、前訴で請求したのは基準時までに判明した損害であり、予見できなかった後遺症の損害は別の訴訟物(又は明示の一部請求の残部)だとして既判力の作用を否定します。将来の損害金の事案では、前訴の請求を事情変更による差額を除外した一部請求と構成する判例の論理を示し、前訴で主張立証できなかったことを根拠にします。定期金賠償なら117条の要件を当てはめます。
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