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用語集 / 民事訴訟法 / 一部請求と残部請求

一部請求と残部請求(既判力)とは

いちぶせいきゅうとざんぶせいきゅう

民事訴訟法 既判力と判決効

残部請求とは、一個の金銭債権の一部を請求した訴訟の判決が確定した後に、その残りを請求する訴えです。判例は、一部であることを明示した一部請求の確定判決の既判力は残部に及ばないとしつつ、明示的一部請求で敗訴(一部敗訴を含みます)した原告の残部請求は、特段の事情がない限り信義則に反して許されないとしています。

1000万円の債権のうち、まず400万円だけを訴えて結論を見る人がいます。勝てば残りを請求したくなり、負けても「残りの600万円は判断されていない」と言いたくなります。どこまで残部の請求を許すかは、原告が審判の範囲を決める自由と、何度も応訴させられる被告の負担の釣り合いの問題です。判例は、既判力の範囲は明示した一部に限りつつ、負けた後の残部請求は信義則で止める、という二段構えをとっています。

法廷の場面。原告席の男性(札「原告」)が訴状「残部600万円を支払え」を出し、その横に前の判決書(札「400万円の一部請求 棄却 確定」)。法壇の先生(札「裁判所」)の後ろの黒板に帯グラフ「1000万円」が描かれ、左の400万円部分に「既判

一部であることを明示した一部請求の確定判決の既判力は、勝訴でも敗訴でも残部の請求には及びません

判例は、一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合、訴訟物となるのはその一部の存否だけで全部の存否ではないから、一部請求の確定判決の既判力は残部の請求に及ばないとしました(最判昭和37年8月10日)。既判力は主文に包含する訴訟物の判断に生じる(114条1項)ところ、処分権主義(246条)のもとで原告が審判の対象を一部に限った以上、主文の判断もその一部にとどまるからです。総額1000万円のうち400万円を明示して請求し、全部認容の判決が確定しても、「この確定判決の既判力は,残部の請求に及ばない」という肢は正しいです。総額1000万円のうち200万円を明示して請求し、弁済を理由に棄却された後に、残額800万円の請求を認容しても既判力には抵触しないので、「前訴の確定判決の既判力に抵触しない」という肢も正しいです。したがって、「明示的一部請求訴訟においては債権全部についての審判が必要とされるので,一部請求部分が棄却された場合には,残額請求は既判力に反し許されない」という肢は、既判力を理由にしている点で誤りです。訴訟物の範囲・明示の要否・時効・外側説は「一部請求」で扱います。

明示的一部請求で全部又は一部棄却された原告の残部請求は、特段の事情がない限り信義則に反して許されません

既判力が残部に及ばなくても、敗訴した原告が残部を請求し直せるわけではありません。判例は、金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則(2条)に反して許されないとしました(最判平成10年6月12日)。一部請求でも、裁判所は請求された部分が存在するかを判断するために債権全体の発生と消滅を審理しており、全部又は一部棄却の判決は、請求額を超える残部が存在しないという判断を意味します。それなのに残部請求を許せば、実質は前訴で認められなかった請求と主張の蒸し返しで、紛争が解決したという被告の合理的期待に反し、被告に二重の応訴の負担を強いるからです。債務不履行が認められないとして400万円の一部請求が棄却された後、残部600万円を求めることは信義則に反するので、「特段の事情がない限り,信義則に反して許されない」という肢は正しいです。1000万円のうち100万円を請求し、940万円が弁済済みとして60万円の限度で認容された場合も、一部敗訴なので同じです。前訴で残部は存在しないと判断されたことになるので、「前訴で請求しなかった900万円の支払を求める訴えを提起することができる」という肢は誤りです。

板書の図解。黒板に3段の表。1段目「明示あり・勝訴 → 残部請求できる」、2段目「明示あり・敗訴 → 信義則で遮断」、3段目「明示なし → 既判力で遮断」。各段の右に○・×・×の大きな印。黒板の前の先生(札「先生」)が2段目を指している。席

一部であることを明示しなかった場合は請求額が債権の全部とされ、全部勝訴の後でも残部は既判力で請求できません

一部であることを明示しなかったときは、請求した額が債権の全部として訴訟物になります。判例は、明示のない請求で全部勝訴の判決を得た後に、それが一部請求にすぎなかったと主張して残部を請求することは、前訴の既判力に触れて許されないとしました(最判昭和32年6月7日)。明示がなければ、被告は紛争がすべて終わったと期待し、残部の債務不存在確認の反訴などで備える機会もないからです。整理すると、明示的一部請求で勝訴した後の残部請求は既判力にも信義則にも妨げられず、明示的一部請求で敗訴した後は既判力ではなく信義則で原則として遮断され、明示のない一部請求の後は既判力で遮断されます。予見できなかった後遺症の損害のように、前訴で請求できなかった損害は別の扱いになり、「基準時後の事情変更」で扱います。

  • 明示あり・全部認容既判力は残部に及ばず(最判昭和37年8月10日)、残部請求はできます
  • 明示あり・全部棄却又は一部棄却既判力は残部に及びませんが、特段の事情がない限り信義則に反して許されません(最判平成10年6月12日)
  • 明示なし請求額が債権の全部とされ、全部勝訴の後でも残部請求は既判力に触れます(最判昭和32年6月7日)
  • 予見できなかった後遺症の損害前訴と訴訟物が異なり、後訴で請求できます(最判昭和42年7月18日)

民事訴訟法114条1項

確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。

民事訴訟法2条

裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。

論文ではこう使う

論文では、まず明示の有無で一部請求の訴訟物を確定し、明示があれば既判力は残部に及ばないことを最判昭和37年8月10日によって示します。次に、前訴で請求の全部又は一部が棄却されていれば、前訴で債権全体が審理され残部が存在しないと判断されたこと、被告の合理的期待と二重応訴の負担を指摘して、信義則(2条)による遮断を論じます(最判平成10年6月12日)。最後に、前訴で請求できなかった事情(後遺症・残部の存在を知り得なかったこと)がないかを「特段の事情」として検討します。

試験ではこう問われる

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