争点効と信義則による遮断とは
そうてんこうとしんぎそくによるしゃだん
争点効とは、前訴で当事者が主要な争点として争い、裁判所が審理して判断した理由中の判断に、同じ争点が問題になる後訴で拘束力を認めようとする学説上の効力です。判例は争点効を否定し、理由中の判断の蒸し返しは、事案ごとに信義則によって遮断しています。
所有権に基づく明渡請求の裁判で、所有権の有無を徹底的に争って負けた被告が、次の登記の裁判で同じ所有権の争いを最初から繰り返すことができます。理由中の判断には既判力がないからです。これを放置すると、同じ争点を何度も審理することになり不公平に見えます。そこで学説は争点効という拘束力を提唱しましたが、判例は条文の根拠がないとして採らず、不当な蒸し返しは信義則で個別に止める道を選んでいます。
争点効は理由中の主要な争点の判断に拘束力を認める学説上の効力で、判例は争点効を否定しています
既判力は主文に包含する訴訟物の判断にだけ生じ(114条1項)、理由中の判断には生じません。そこで学説の一部は、前訴で当事者が主要な争点として争い、裁判所が審理して判断した事項については、その争点を主要な先決問題とする後訴で、その判断に反する主張立証を許さない効力を認めるべきだとしました。これが争点効で、当事者間の公平や禁反言を根拠にします。しかし判例は、売買契約に基づく建物の明渡請求で売主の詐欺取消しの主張を退けて認容した確定判決があっても、その判決は建物の所有権の存否について既判力もこれに類似する効力(いわゆる争点効)も持たないとしました(最判昭和44年6月24日)。そのため売主は、所有権に基づく抹消登記請求の後訴で、改めて詐欺取消しを主張できます。争点効を認める条文はなく、どの争点にどの範囲で拘束力が生じるかが不明確で、当事者の予測を害するからです。
所有権確認の棄却判決の理由中で被告を所有者と判断しても、一物一権主義を持ち出して被告の所有権に拘束力を認めることはできません
所有権確認の請求を棄却した判決が、Yが所有者だという理由に基づいていても、既判力が生じるのはXが所有権を有しないことだけです。Yの所有権の判断は理由中の判断なので、Yが自分の所有権の確認を求める後訴で、Xは基準時におけるYの所有権を争うことができます。「XがYの所有権を争うことは,いわゆる一物一権主義により既判力によって妨げられる」という肢は誤りです。一物一権主義は、Xの所有権を認めた判決の後にYが自分の所有権を主張する場合の矛盾関係を説明するものであって、Xの所有権を否定した判決からYの所有権の存在を導くものではありません。理由中の判断に拘束力を認めないという点で、この肢の誤りは、判例が争点効を否定していることと同じ根から出ています。
判例は、訴訟物が異なっても実質的に前訴の蒸し返しとなる後訴を、信義則によって遮断することがあります
判例は争点効を否定する一方で、信義則(2条)による後訴の遮断を認めています。買収処分の無効を前提に土地を取り戻そうとした前訴で敗訴が確定した後、同じ買収処分の無効を前提に別の構成で登記を求めた事案で、判例は、前訴と後訴は訴訟物を異にするとはいえ、後訴は実質的には前訴の蒸し返しであり、前訴で後訴の請求をすることに支障がなく、買収処分から約20年が経過して相手方の地位を不当に長く不安定にすることを考慮すると、後訴の提起は信義則に照らして許されないとしました(最判昭和51年9月30日)。明示的一部請求で敗訴した原告の残部請求を特段の事情がない限り許さないとした判例(最判平成10年6月12日)も、既判力ではなく信義則による遮断です。債務不履行が認められないとして一部請求が棄却された後の残部請求は、「特段の事情がない限り,信義則に反して許されない」という肢が正しいのはこのためです。信義則による遮断は、争点効と違って要件が類型化されておらず、前訴の経過・後訴の目的・相手方の期待・時間の経過を総合して判断されます。
- 争点効学説が提唱する理由中の判断の拘束力です。判例は否定しています(最判昭和44年6月24日)
- 信義則による遮断(蒸し返し)訴訟物が異なっても実質的な前訴の蒸し返しで、前訴で請求できたのにしなかったなどの事情があれば遮断されます(最判昭和51年9月30日)
- 明示的一部請求の敗訴後の残部請求特段の事情がない限り信義則に反して許されません(最判平成10年6月12日)
- 参加的効力補助参加人には理由中の判断にも及ぶ効力があり、争点効とは別の制度です(46条)
民事訴訟法114条1項
確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
民事訴訟法2条
裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。
論文ではこう使う
論文では、後訴で問題になる判断が前訴の理由中の判断で既判力が及ばないことを確認したうえで、争点効を認めるかを論じます。判例は争点効を否定している(最判昭和44年6月24日)ので、判例の立場からは、前訴の経過、後訴の請求を前訴で提起することに支障がなかったか、後訴が実質的な蒸し返しか、相手方の合理的期待と時間の経過を総合して、信義則による遮断を検討します(最判昭和51年9月30日・最判平成10年6月12日)。
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