既判力の意義と作用(訴訟判決の既判力を含む)とは
きはんりょくのいぎとさよう
既判力とは、確定判決の訴訟物についての判断が、後の訴訟で当事者と裁判所を拘束し、それと矛盾する主張や判断を許さない効力です(114条1項)。後訴の訴訟物が前訴と同一の場合のほか、前訴の訴訟物と矛盾する関係にある場合や、前訴の訴訟物が後訴の先決関係にある場合にも働きます。
裁判で負けた人が、同じ相手に同じ請求で何度でも訴え直せるなら、裁判はいつまでも終わりません。勝った側も、毎回同じ証拠を出して争い直さなければなりません。そこで、確定判決が訴訟物について示した判断には、後の訴訟でも当事者と裁判所を縛る効力が与えられています。これが既判力です。前の訴訟で主張し反論する機会が与えられていたのだから、その結果には従ってもらう、という考え方が支えになっています。
既判力は、確定判決の訴訟物の判断を後訴で争わせない効力で、前訴で争う機会が保障されていたことがその根拠になります
確定判決は、主文に包含するもの、つまり訴訟物についての判断に限り既判力を持ちます(114条1項)。後訴では、前訴の基準時の判断に反する主張や証拠の申出は排斥され(消極的作用)、裁判所は前訴の判断を前提にして、基準時後の事由だけを審理して判断します(積極的作用)。既判力が当事者を縛ってよい理由は、紛争解決の制度として不可欠であることに加え、前訴で攻撃防御の機会が与えられていたことの自己責任に求められます。既判力は紛争の蒸し返しを防ぐ公益的な効力なので、その存否は職権調査事項で、当事者が主張しなくても裁判所が判断の基礎にできます。前訴で貸付けの事実が認められずに請求棄却が確定していたことが判明すれば、「X及びYが乙裁判所の確定判決の存在を主張していないときは,乙裁判所の確定判決の既判力の存在を判決の基礎とすることはできない」という肢は誤りです。
既判力は、後訴の訴訟物が前訴と同一の場合のほか、前訴の訴訟物と矛盾する場合や、前訴の訴訟物が後訴の先決関係になる場合に働きます
既判力が後訴に作用するのは、訴訟物が同一の場合に限られません。前訴の訴訟物と後訴の訴訟物が矛盾関係にある場合と、前訴の訴訟物が後訴の訴訟物の先決関係にある場合にも作用します。相殺の抗弁を認めて売買代金請求を棄却した判決の確定後に、原告が同じ売買契約に基づく代金を請求する後訴は、訴訟物が同一なので既判力が作用します。取得時効を認めて原告の所有権を確認した判決の確定後に、被告が自分の所有権の確認を求める後訴は、一物一権主義から両立しない矛盾関係なので既判力が作用します。Xの所有権を確認した判決の確定後に、Xから土地を借りたZが代位してYに引渡しを求める訴訟では、Xの所有権が後訴の請求の先決関係にあるので、Yは前訴の基準時におけるXの所有権と矛盾する主張ができません。「Yは前訴判決基準時におけるXの所有権の存在と矛盾しない攻撃防御方法のみ提出できる」という肢は正しいです。これに対し、所有権に基づく引渡請求の判決の後に所有権確認を求める場合のように、前訴の理由中で判断されたにすぎない権利が後訴の訴訟物になるときは、既判力は作用しません(「既判力の客観的範囲」で扱います)。
- 同一関係前訴と同じ訴訟物の後訴です。例: 相殺の抗弁で棄却された売買代金請求の再訴
- 矛盾関係前訴の判断と両立しない権利を求める後訴です。例: Xの所有権確認の認容判決の後に、YがYの所有権の確認を求める訴え
- 先決関係前訴の訴訟物が後訴の請求の前提になる場合です。例: Xの所有権確認の認容判決の後の、所有権に基づく引渡請求
- 作用しない場合前訴の理由中の判断だけが後訴で問題になる場合です。例: 所有権に基づく引渡請求の判決の後の所有権確認の訴え
敗訴した原告の同一の再訴は既判力により請求棄却となり、勝訴した原告の再訴が退けられるのは訴えの利益がないからです
所有権確認の請求を棄却された原告が同じ請求で再び訴えた場合、後訴の裁判所は前訴の基準時に原告が所有権を持たなかったという判断を前提に、基準時後の取得事由がなければ請求を棄却します。訴えそのものが不適法になるわけではないので、「前訴判決の既判力に触れるので却下される」という肢は誤りです。これに対し、勝訴した原告が同じ請求で再び訴えても、前訴の判断と矛盾する主張をするわけではないので既判力は問題になりません。その再訴が退けられるとすれば、既に勝訴判決があるので重ねて判決を求める利益がないという訴えの利益の問題です。「前訴判決の既判力に抵触するとの理由で却下されることはない」という肢は正しいです。給付判決を得た原告でも、時効の完成猶予のために他に方法がないときは、再び給付の訴えを提起する利益が認められます(大判昭和6年11月24日)。
訴え却下の訴訟判決にも既判力は生じますが、却下の理由となった訴訟要件の欠缺についてだけで、請求権の存否には生じません
訴訟判決も確定すれば既判力を持ちますが、その対象は、却下の理由とされた訴訟要件を欠くという判断に限られます。同じ訴訟要件の欠缺を補わないまま再び訴えれば却下されますが、本案である請求権の存否については何も判断していないからです。原告には一度は本案の審理を受ける機会を保障すべきだという理由もあります。貸金請求の訴えが却下された後に、その貸金債権を別の訴訟で相殺の抗弁に使うことは、貸金債権の存否に既判力が生じていないので妨げられません。「Bが前訴と同一の貸金債権をもって相殺する旨の抗弁を主張することは,前訴判決の既判力により妨げられない」という肢は正しいです。
民事訴訟法114条1項
確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
論文ではこう使う
論文では、まず既判力の意義(確定判決の判断の後訴での通用力)と根拠(紛争解決の制度的要請と、前訴での手続保障に基づく自己責任)を示します。次に、前訴と後訴の訴訟物が同一・矛盾・先決のどれに当たるかを確かめて既判力が後訴に作用するかを判断し、作用するなら客観的範囲(114条1項)・時的限界(基準時)・主観的範囲(115条)で遮断される主張を特定します。既判力が作用しない場面では、争点効や信義則による遮断を検討する流れで書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。