基準時前の形成権と遮断効とは
きじゅんじまえのけいせいけんとしゃだんこう
遮断効とは、確定判決の既判力により、基準時より前に存在した事由を後訴で主張して確定した判断を争えなくなる効力です。基準時前に行使できた形成権を基準時後に行使した場合、判例は、取消権・書面によらない贈与の解除権・白地手形の補充権は遮断され、相殺権と建物買取請求権は遮断されないとしています。
取消しや相殺のような形成権は、権利を持っているだけでは何も変わらず、意思表示をした時に効果が生じます。そうすると、前の訴訟の口頭弁論が終わった後で取消しの意思表示をすれば、「基準時後の事由」として判決を覆せるようにも見えます。しかしそれを許すと、形成権を温存しておけば判決を後から崩せることになります。そこで判例は、意思表示の時点ではなく、その権利が判決で確定した請求権そのものに付着した瑕疵かどうかで、遮断されるかを分けています。
基準時前に行使できた詐欺取消権は、基準時後に行使しても既判力に遮断されます
判例は、売買による所有権の取得を認めた所有権確認の判決が確定した後は、基準時前に行使できた詐欺取消権を行使して所有権の存否を争うことは許されないとしました(最判昭和55年10月23日)。取消権は訴訟物である権利の発生原因そのものに付着した瑕疵で、前の訴訟で主張すべきものだったからです。より重い瑕疵である無効の主張でさえ基準時後には遮断されるのに、より軽い瑕疵である取消しだけを後から出せるのは均衡を欠く、とも説明されます。所有権確認で敗訴した売主が自分の所有権の確認を求める後訴で取消しを主張して争うことはできないという肢は正しく、「当該売買契約の取消しを主張して買主の所有権の取得を争うことができる」という肢は誤りです。土地引渡しを命じる判決の確定後に詐欺取消しを請求異議の事由とすることもできないので、「その効果を異議の事由として主張することができる」という肢は誤りです。後訴の訴状で取消しの意思表示をして所有権の確認を求めても、「後訴裁判所がYの主張を認めてYの請求を認容する判決をすることは,前訴の確定判決の既判力に反し許されない」という肢は正しいです。判決で引渡しを命じられた売主が詐欺取消しを理由に請求異議の訴えを起こす場合、前訴の既判力は後訴に作用します。
- 詐欺による取消権遮断されます(最判昭和55年10月23日)
- 書面によらない贈与の解除権遮断されます。贈与契約の締結時から行使でき、引渡請求権の発生原因に付着した事由だからです
- 白地手形の補充権遮断されます(最判昭和57年3月30日)
- 基準時前に時効期間が経過した消滅時効援用が後でも遮断されます(大判昭和14年3月29日)
- 相殺権遮断されず、基準時後の相殺を請求異議の事由にできます(最判昭和40年4月2日)
- 建物買取請求権遮断されず、基準時後の行使を請求異議の事由にできます(最判平成7年12月15日)
- 確定後の債務不履行による解除基準時後に生じた新しい事由なので遮断されません
書面によらない贈与の解除権と白地手形の補充権も、訴訟物の権利そのものにかかわる事由なので遮断されます
書面によらない贈与は、履行の終わった部分を除き各当事者が解除できます(民法550条)。この解除権は贈与契約の時から行使でき、引渡請求権の発生原因である贈与契約の効力そのものを覆す事由なので、取消権と同じく遮断されると解されています。引渡しを命じる判決の確定後に解除の意思表示をしても、「後訴裁判所が解除の効果を異議の事由として認めてYの請求を認容する判決をすることは,前訴の確定判決の既判力に反し許されない」という肢は正しいです。白地手形に基づく手形金請求が白地の未補充を理由に棄却された後、所持人が白地を補充して再び請求することについて、判例は、基準時前に補充権を行使できたのに行使しなかった以上、特段の事情がない限り既判力により遮断されるとしました(最判昭和57年3月30日)。前訴と後訴は同じ手形上の権利を目的としているからで、「当該白地部分を補充して振出人に対し手形上の権利の存在を主張することができる」という肢は誤りです。基準時前に時効期間が経過していた債権について、判決確定後に時効を援用して争うことも許されません(大判昭和14年3月29日)。貸金の認容判決が確定した後の請求異議の訴えで、訴え提起前に完成した消滅時効を援用することはできないという肢は正しく、「その後にした時効の援用の効果を請求異議の事由として主張することができる」という肢は誤りです。
相殺権と建物買取請求権は訴訟物の権利とは別の原因に基づく権利なので遮断されず、基準時後に行使して請求異議の事由にできます
判例は、口頭弁論の終結前に相殺適状にあっても、終結後に初めて相殺の意思表示をしたときは、債務の消滅を請求異議の事由として主張できるとしました(最判昭和40年4月2日)。相殺は相殺適状になっただけでは効力を生じず、意思表示によって効力を生じる(民法506条1項)うえ、自働債権は訴訟物の権利とは別個の権利で、相殺するかどうかは債務者が自分の債権を犠牲にして決める事柄だからです。「相殺の意思表示をし,その効果を異議の事由として主張することができない」という肢は誤りで、「その後にした相殺の意思表示による債務の消滅の効果を請求異議の事由として主張することができる」という肢は正しいです。「相殺の意思表示の効果を異議の事由として認めてYの請求を認容する判決をすることは,前訴の確定判決の既判力に反し許されない」という肢と、「甲債権の消滅を主張することは,この判決の既判力に抵触し,許されない」という肢は誤りです。建物買取請求権(借地借家法13条1項)について、判例は、建物収去土地明渡請求権の発生原因に内在する瑕疵に基づく権利とは異なり、別個の制度目的と原因に基づいて発生する権利なので既判力で遮断されず、基準時後に行使して請求異議の事由にできるとしました(最判平成7年12月15日)。行使すれば建物の所有権が賃貸人に移り、建物収去義務が消滅するからです。「建物買取請求権を行使し,その効果を異議の事由として主張することができる」という肢は正しく、「請求異議の事由として主張することができない」という肢と、「建物買取請求権行使の効果を異議の事由として認めてYの請求を認容する判決をすることは,前訴の確定判決の既判力に反し許されない」という肢は誤りです。
民事執行法35条2項
確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。
民法506条1項
相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。
論文ではこう使う
論文では、まず形成権の意思表示が基準時後であっても、基準時前に形成原因が存在し行使できた以上、原則として遮断されることを示します。そのうえで、遮断の有無を、その形成権が前訴の訴訟物である請求権の発生原因に内在・付着する瑕疵に基づくものか(取消権・解除権)、それとも別個の制度目的と原因に基づく権利で、行使によって初めて請求権が消滅するものか(相殺権・建物買取請求権)で分けます。相殺権では自働債権が別個の権利であり相殺が債務者の出捐を伴うこと、建物買取請求権では借地人保護という独自の目的があることを根拠に挙げます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。