訴訟上の和解の効力と瑕疵(錯誤・期日指定の申立て・解除と訴訟の終了・執行力の範囲)とは
そしょうじょうのわかいのこうりょくとかし
訴訟上の和解の効力とは、和解が電子調書に記録されたときに生じる、確定判決と同一の効力(訴訟の終了・執行力など)のことです(267条1項)。和解は私法上の契約でもあるので、錯誤などの瑕疵があれば効力を争うことができ、成立後に契約が解除されても訴訟は復活しません。
和解で「代金の代わりに特選品のジャムを渡す」と決めたのに、届いたのが粗悪品だったとします。訴訟上の和解は調書に記録されると確定判決と同じ効力を持ちますが、中身は当事者どうしの契約です。そのため契約としての瑕疵があれば、和解の効力そのものを争えます。他方で、和解した後に相手が約束を守らず契約を解除した場合は、話が違います。終わった訴訟がよみがえるのではなく、新しく訴えを起こして解決することになります。
和解が電子調書に記録されると確定判決と同一の効力を持ち、訴訟は終了し、給付条項には執行力が生じます
裁判所書記官が和解について電子調書を作成しファイルに記録すると、その記録は確定判決と同一の効力を有します(267条1項)。訴訟はこれで終了し、給付を約束した条項は債務名義となって執行力を持ちます(民事執行法22条7号)。和解で権利が確定すれば、確定判決と同じく時効は更新されるので、「原告の被告に対する貸金返還請求権が確定した場合には,消滅時効が更新される」という肢は正しいです(民法147条2項)。執行力は、債務名義が成立した後に当事者から目的物の占有を承継した者にも及ぶので(民事執行法23条1項3号)、「その記載の効力は,和解をした当事者のみならず,和解成立後に当事者から当該建物の占有を承継した者にも及ぶ」という肢は正しいです。建物収去土地明渡しの和解の後に建物を借り受けて敷地を占有する者についても、「Zが和解調書の存在を知っていたか否かにかかわらず,当該調書の執行力が及ぶ」という肢は正しいです(最判昭和26年4月13日)。和解調書に既判力が生じるか、生じるとしてどの範囲かは見解が分かれ、後半の既判力の語で扱います。
和解の意思表示の重要な部分に錯誤があれば、再審事由がなくても和解の効力を争えます
訴訟上の和解は、訴訟を終わらせる訴訟行為であると同時に、私法上の和解契約でもあると解されています(両性説)。そのため、私法上の契約として無効・取消しの原因があれば、和解の効力が否定され、訴訟終了の効果も生じません。判例(最判昭和33年6月14日)は、代金の支払に代えて特選品の苺ジャムを引き渡すという和解で、ジャムが粗悪品だった事案について、和解の前提とされた事項に錯誤があったとして和解を無効としました。民法696条が争いの対象そのものについての錯誤を主張できなくしているのとは区別されます。したがって、「判例によれば,和解を締結する過程で意思表示の瑕疵があったとしても,当事者は,再審の事由がない限り,和解の無効や取消しを主張することができない」という肢と、「その和解の内容である私法上の契約に係る意思表示の重要な部分に錯誤があったとして当該和解の効力を争うことはできない」という肢は誤りです。出題当時の民法では錯誤は無効事由でしたが、現行民法では取消し事由です(民法95条1項)。取り消せば同じく和解の効力を争うことができるので、結論は変わりません。
和解の無効を主張する方法は、期日指定の申立てに限られず、和解無効確認の訴えなどの別訴によることもできます
和解の無効を主張する当事者は、和解で終わったはずの旧訴訟がまだ終わっていないとして期日指定を申し立て、旧訴訟の続行を求めることができます。判例は、このほか、和解無効確認の訴えを起こす方法や、和解調書に基づく強制執行に対して請求異議の訴えを起こす方法も認めています。どれか一つに限られるわけではないので、「和解が無効であることの確認を求める別訴を提起しなければならない」という肢、「和解無効確認の訴えによらなければならない」という肢、「新たな期日の指定の申立てをしなければならず,和解が無効であることの確認の訴えを提起することができない」という肢は、いずれも誤りです。期日指定の申立てを受けた裁判所は、和解が有効なら訴訟が和解で終了した旨を宣言する判決をします。このとき当事者が和解無効の確認を求めていないのに主文で和解の無効を確認すれば、申し立てていない事項について判決したことになり(246条)許されません(最判平成27年11月30日)。「裁判所は、主文において、当該和解が無効であることを確認する判決をすることはできない」という肢は正しいです。
和解の内容である契約が債務不履行で解除されても、和解で終了した訴訟は復活せず、新たに訴えを起こすことになります
判例(最判昭和43年2月15日)は、訴訟上の和解の後に、その内容である私法上の契約が債務不履行で解除されても、消滅するのは契約に基づく私法上の権利関係だけで、和解によっていったん終了した訴訟が復活するものではないとしました。和解の成立時点で錯誤のような瑕疵があったのではなく、成立後に契約の履行がされなかっただけなので、訴訟終了の効果は揺らがないという考え方です。「和解による訴訟終了の効果には影響を及ぼさない」という肢と、「一旦終了した訴訟は復活しない」という肢は正しいです。解除した当事者は、旧訴訟の期日指定ではなく、改めて訴えを起こして権利の実現を図ります。和解で終了しているので再訴禁止(262条2項)の問題もなく、「同一の請求の訴えを改めて提起することはできない」という肢は誤りです。
- 和解の成立時の瑕疵(錯誤など)和解は無効(現行民法では取消し)で、訴訟終了の効果も生じません(最判昭和33年6月14日)
- 争う方法期日指定の申立て・和解無効確認の訴え・請求異議の訴えのいずれでもよいとされています
- 成立後の債務不履行による解除訴訟は復活せず、新たに訴えを起こします(最判昭和43年2月15日)
- 執行力の範囲和解成立後の占有の承継人にも及びます
民事訴訟法267条1項
裁判所書記官が、和解又は請求の放棄若しくは認諾について電子調書を作成し、これをファイルに記録したときは、その記録は、確定判決と同一の効力を有する。
論文ではこう使う
論文では、訴訟上の和解の法的性質と、瑕疵がある場合・解除された場合の処理が問われます。法的性質について、私法行為説・訴訟行為説・両性説(併存説)を対比し、私法上の和解契約と訴訟終了の合意の両面を持つとする立場から、私法上の無効・取消し原因があれば訴訟終了効も生じないと論じます。争い方については、旧訴訟の資料を利用できる期日指定の申立てと、紛争の実情に応じた別訴(和解無効確認・請求異議)を選択できるとし、解除の場合は判例(最判昭和43年2月15日)に従い、成立時の瑕疵と成立後の事情を区別して新訴によるべきだと結論づけます。和解調書の既判力(制限的既判力説)との関係にも触れると答案が締まります。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。