損害額の認定(248条)とは
そんがいがくのにんてい
損害額の認定とは、損害が生じたことは認められるものの、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときに、裁判所が口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果に基づいて相当な損害額を認定することをいいます(248条)。
火事で家財道具が全部焼けたとき、損害が出たことは明らかでも、一つ一つの品物の値段を証拠で示すのはほとんど不可能です。額を証明できないからといって請求を全部退けると、確かに損害を受けた人が何も得られなくなり、かえって不公平になります。そこで民事訴訟法は、損害が生じたことが認められるのに額の立証が極めて困難な場合には、裁判所が相当な額を認定できるとしました。
損害の発生が認められ、その額の立証が極めて困難なときは、裁判所は相当な損害額を認定できます
損害賠償請求では、損害の発生とその額は請求原因として原告が証明しなければなりません。しかし、慰謝料や、事故で亡くなった幼児の将来の逸失利益、多数の品物が焼失した場合の損害のように、損害の性質上その額を厳密に証明することが極めて困難なものがあります。248条は、①損害が生じたことが認められること、②損害の性質上その額を立証することが極めて困難であることの二つを要件として、裁判所は口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果に基づき相当な損害額を認定することができると定めました。「損害が生じたことが認められる場合において,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは,裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することができる」という肢は正しいです。損害が生じたこと自体は、通常どおり証明が必要です。
- 要件1損害が生じたことが認められること(損害の発生そのものは証明を要します)
- 要件2損害の性質上、その額を立証することが極めて困難であること
- 効果口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定します
要件がそろっているのに、額の立証が不十分だとして請求を棄却することは許されません
248条は「認定することができる」と定めていますが、判例はこれを、要件がそろえば相当な損害額を認定しなければならないという意味に読んでいます。最判平成18年1月24日は、特許庁の職員の過失で特許権を目的とする質権を取得できなかった事案で、仮に損害額の立証が極めて困難であったとしても248条により相当な損害額が認定されなければならないとしました。最判平成20年6月10日は、採石権を侵害した期間と侵害に当たらない期間の採石量を区別できないことを理由に請求を棄却した原審を、損害の発生が認められる以上は248条により相当な損害額を認定すべきであるとして破棄しました。「損害額の立証が不十分であるとして請求を棄却することもできる」という肢は誤りです。
248条が証明度を下げた規定か、裁判所に裁量を与えた規定かについては見解が分かれます
248条の性格については、損害額について求められる証明度を下げた規定とみる見解と、損害額という法的評価について裁判所に裁量的な判断を許した規定とみる見解があり、両方の性格を併せ持つとする見解もあります。どの見解でも、損害の発生そのものについては証明度は下がらず、248条が働くのは額の認定に限られる点は共通しています。また、248条によって認定する額も、口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果に基づく合理的なものでなければならず、自由心証主義の枠の中での認定です。
判例は、額を全く認めないことは衡平に反するという248条の趣旨から、類推適用も認めています
最判平成30年10月11日は、有価証券届出書の虚偽記載を理由とする金融商品取引法上の損害賠償で、虚偽記載以外の事情による値下がり分を賠償額から減額できる規定はあるものの、その額の立証が極めて困難な場合の定めがなかった事案です。最高裁は、虚偽記載以外の事情によって損害が生じたと認められるのに、その額の立証が極めて困難だからといって減額すべき額を全く認めないことは当事者間の衡平の観点から相当でないとし、248条も同じ趣旨に基づくものであるとして、同条の類推適用により減額すべき相当な額を認定できるとしました。248条は原告の損害額だけでなく、衡平に反する結果を避けるために広く使われる規定と理解されています。
民事訴訟法248条
損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。
論文ではこう使う
損害額の立証が困難な事例では、まず損害の発生が証明されていることを確認し、次に損害の性質上その額の立証が極めて困難かを検討します。要件を満たすときは、248条により相当な損害額を認定すべきであり、額の立証不十分を理由に請求を棄却することは許されないこと(最判平成20年6月10日)を示します。248条の性格(証明度軽減か裁量か)に触れるときは、どの立場でも損害の発生自体の証明は必要であることを押さえて論じます。
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