証言拒絶権と宣誓拒絶とは
しょうげんきょぜつけんとせんせいきょぜつ
証言拒絶権とは、証人が一定の事由(自己や近親者が刑事訴追・有罪判決を受けるおそれや名誉を害する事項、公務員の職務上の秘密、医師・弁護士等が職務上知った黙秘すべき事実、技術又は職業の秘密)について証言を拒むことができる権利です(196条・197条)。宣誓拒絶とは、証人が自己や近親者に著しい利害関係のある事項について宣誓を拒むことです(201条4項)。
証人には証言する義務がありますが、話せば自分や家族が刑事責任を問われるかもしれない事柄まで答えさせるのは酷です。医師や弁護士が患者や依頼者から打ち明けられた秘密を法廷で話せば、誰も安心して相談できなくなります。そこで法律は、一定の場合に証人が証言を拒めるとしています。ただし拒絶を広く認めすぎると真実が明らかにならないので、どこまで拒めるかが判例で絞り込まれています。
証人は、自己や近親者が刑事訴追・有罪判決を受けるおそれのある事項や、名誉を害すべき事項について証言を拒めます
証言が、証人自身又は証人と一定の関係にある者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれがある事項に関するときは、証人は証言を拒むことができ、これらの者の名誉を害すべき事項に関するときも同じです(196条)。一定の関係とは、配偶者・4親等内の血族・3親等内の姻族の関係にあり又はあったこと(1号)、後見人と被後見人の関係にあること(2号)です。「証人は,証人自身が刑事訴追を受けるおそれがある事項について,証言を拒絶することができる」という肢は正しいです。1号の親族関係は「あったこと」まで含みますが、2号の後見関係は「あること」なので、現に後見人と被後見人の関係にある場合に限られます。後見人が解任された後は2号に当たらないので、「Aの後見人であるBがその地位を解任された後は,Aは,Bの名誉を害すべき事項につき,証言を拒むことができない」という肢は正しいです。
公務員の職務上の秘密、医師・弁護士等が職務上知った黙秘すべき事実、技術又は職業の秘密についても証言を拒めますが、黙秘の義務を免除されれば拒めません
197条1項は、①公務員又は公務員であった者が職務上の秘密について尋問を受ける場合(191条1項の場合)、②医師・歯科医師・薬剤師・医薬品販売業者・助産師・弁護士(外国法事務弁護士を含む)・弁理士・弁護人・公証人・宗教等の職にある者又はあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合、③技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合に、証言拒絶を認めます。「医師は,職務上知り得た事実で黙秘すべきものにつき,証言を拒むことができる」という肢は正しいです。②と③は秘密の主体を守るためのものなので、証人が黙秘の義務を免除されたときは拒めません(197条2項)。最決平成16年11月26日は、②の「黙秘すべきもの」とは、一般に知られていない事実のうち、弁護士等に事務を行うことを依頼した本人がこれを秘匿することについて、単に主観的利益だけでなく、客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいうとしました。この定義を述べた肢は正しいです。さらに最決令和3年3月18日は、電気通信事業法4条2項で通信に関して知り得た他人の秘密を守る義務を負う電気通信事業の従事者について、職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて証言を拒めるようにする必要は列挙された専門職と異ならないとして、197条1項2号の類推適用により証言を拒むことができるとしました。この判示を述べた肢は正しいです。
職業の秘密に当たっても当然に拒めるわけではなく、保護に値する秘密かどうかを比較衡量で決めます
最決平成18年10月3日(NHK記者証言拒絶事件)は、報道記者が取材源の特定につながる事項について証言を拒んだ事案です。最高裁は、197条1項3号の職業の秘密とは、その事項が公開されると当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうとしたうえで、職業の秘密に当たる場合でもそのことから直ちに証言拒絶が認められるのではなく、保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められ、保護に値するかは、秘密の公表によって生ずる不利益と証言の拒絶によって犠牲になる真実発見及び裁判の公正との比較衡量により決せられるとしました。「職業の秘密とは,その事項が公開されると当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になる事項をいい,これに該当すれば,当然に,証人は当該事項につき証言を拒むことができる」という肢は誤りです。取材源の秘密については、報道が公共の利益に関するもので、取材の手段・方法が刑罰法令に触れるとか、取材源が開示を承諾しているなどの事情がなく、事件が重大で証言が必要不可欠といった事情もないときは、原則として保護に値する秘密に当たり、証言を拒めるとしました。同じ比較衡量の考え方は、文書提出義務の除外事由(220条4号ハ)でもとられています。
拒絶の理由は疎明すれば足り、その当否は受訴裁判所が決定で判断し、当事者と証人は即時抗告できます
証言拒絶の理由は、疎明しなければなりません(198条)。拒絶の理由そのものを詳しく証明させると、守ろうとする秘密を明かすことになりかねないからです。「証言拒絶の理由は、証明しなければならない」という肢は誤りです。証言拒絶の当否は、公務員の職務上の秘密の場合(197条1項1号。監督官庁の承認の問題になります)を除き、受訴裁判所が当事者を審尋して、決定で裁判します(199条1項)。この裁判に対しては、当事者及び証人が即時抗告をすることができます(同条2項)。証言拒絶を認める決定に対しては尋問を求めた当事者が、拒絶を理由がないとする決定に対しては証人が不服を申し立てる利益を持つからです。「証言拒絶を認める決定に対しては,当事者は,即時抗告をすることができない」という肢は誤りです。拒絶を理由がないとする裁判が確定した後に正当な理由なく証言を拒めば、過料と罰金・拘留の制裁があります(200条)。
証人は、自己や近親者に著しい利害関係のある事項について宣誓を拒むことができます
証人は、自己又は自己と196条各号の関係にある者に著しい利害関係のある事項について尋問を受けるときは、宣誓を拒むことができます(201条4項)。著しい利害関係には、法律上の利害関係だけでなく経済的・社会的な利害関係も含まれ、証人自身が有罪判決を受けるおそれのある事項もこれに当たります。「証人は,証人自身が有罪判決を受けるおそれがある事項について尋問を受ける場合には,宣誓を拒むことができる」という肢は正しく、「証人は,自己の配偶者に著しい利害関係のある事項について尋問を受ける場合にも,宣誓をする義務を負う」という肢は誤りです。宣誓拒絶の理由の疎明と当否の裁判には証言拒絶の規定が準用され、拒絶を理由がないとする裁判の確定後の拒絶には過料と罰金・拘留が準用されます(201条5項)。
- 196条証人・近親者・後見関係にある者の刑事訴追・有罪判決のおそれ、名誉を害すべき事項。後見関係は現にあることが必要です
- 197条1項1号公務員の職務上の秘密(監督官庁の承認の問題になります)
- 197条1項2号医師・弁護士等が職務上知り得た黙秘すべき事実。客観的に保護に値する利益が必要で、電気通信事業の従事者にも類推されます
- 197条1項3号技術又は職業の秘密。保護に値する秘密かを比較衡量で決めます
- 手続理由は疎明(198条)、受訴裁判所が当事者を審尋して決定(199条1項)、当事者と証人が即時抗告(199条2項)
- 宣誓拒絶自己・近親者に著しい利害関係のある事項(201条4項)
民事訴訟法198条
証言拒絶の理由は、疎明しなければならない。
民事訴訟法199条1項
第百九十七条第一項第一号の場合を除き、証言拒絶の当否については、受訴裁判所が、当事者を審尋して、決定で、裁判をする。
民事訴訟法199条2項
前項の裁判に対しては、当事者及び証人は、即時抗告をすることができる。
論文ではこう使う
報道機関の取材源や企業のノウハウについて証言拒絶が問題になる事例では、まず197条1項3号の「職業の秘密」の定義(公開されると職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるもの)に当たるかを検討し、次に保護に値する秘密かを、秘密の公表による不利益と証言拒絶で犠牲になる真実発見・裁判の公正との比較衡量で判断します。取材源の秘密では、報道の公共性、取材方法の適法性、取材源の承諾の有無、事件の重大性と証言の必要不可欠性を当てはめの要素として挙げます。弁護士等の守秘事項では、「黙秘すべきもの」を客観的に保護に値する利益の有無で絞ることを示します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。