普通裁判籍と特別裁判籍(4条・5条・7条)とは
ふつうさいばんせきととくべつさいばんせき
普通裁判籍とは、事件の種類を問わず被告に対する訴えをその地の裁判所に起こせる土地管轄の根拠で、人は住所、法人は主たる事務所又は営業所によって定まります(4条)。特別裁判籍とは、義務履行地・不法行為地・不動産所在地のように、事件の種類に応じて普通裁判籍に加えて認められる土地管轄の根拠で(5条)、一の訴えで数個の請求をするときの併合請求の裁判籍(7条)もその一つです。
訴えられる側は、自分の都合と関係なく裁判に巻き込まれるので、原則として被告の住む土地の裁判所で裁判をします。これが普通裁判籍です。ただ、それだけでは原告に酷な場合や、証拠のある場所で審理したほうがよい場合があるので、お金を払うべき場所、事故が起きた場所、土地のある場所などにも訴えを起こせるようにしています。これが特別裁判籍で、原告は管轄のある裁判所の中から選べます。
訴えは被告の普通裁判籍の地の裁判所に起こすのが原則で、人は住所、法人は主たる事務所・営業所で定まり、原告の住所には普通裁判籍はありません
訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属します(4条1項)。一方的に訴えられる被告の応訴の負担に配慮したものです。人の普通裁判籍は住所により、日本国内に住所がないか知れないときは居所、居所もないか知れないときは最後の住所によって定まります(同条2項)。法人その他の社団・財団の普通裁判籍は、主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所によって定まります(同条4項)。「株式会社がその事業を停止し,その事務所又は営業所が存在しなくなったときは,当該株式会社の普通裁判籍は,代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる」という肢は正しいです。原告の住所を基準にする普通裁判籍の規定はないので、原告の住所地に訴えを起こせるのは、次に見る義務履行地の裁判籍などによる場合だけです。
財産権上の訴えは義務履行地にも起こせ、持参債務なら債権者である原告の住所が義務履行地になりますが、代位債権者の住所は義務履行地になりません
財産権上の訴えは、義務履行地を管轄する裁判所にも提起できます(5条1号)。弁済の場所について別段の意思表示がなければ、特定物の引渡しは債権発生の時にその物があった場所、その他の弁済は債権者の現在の住所でします(民法484条1項)。そのため、貸金・売買代金・不法行為に基づく損害賠償のような金銭の支払を求める訴えは、債権者である原告の住所地の裁判所にも起こせます。「不法行為に基づき損害賠償を求める訴えについては、原告の住所地を管轄する裁判所に提起することができる」という肢は正しく、薬害の被害者が自分の住所地の地方裁判所にそれぞれ訴えを起こせるとする肢も正しいです。もっとも、これでは被告の普通裁判籍を原則とした趣旨が薄れるので、当事者間の衡平を害するときは17条で他の管轄裁判所に移送できます。支払場所について特約があればそこが義務履行地になります。賃料などの金員を原告の設計事務所に持参する約定がある事案では、賃料と損害金の請求の義務履行地は設計事務所の所在地であり、原告の自宅は義務履行地にも普通裁判籍にも当たりません。代位訴訟については、裁判例(東京高決昭和56年11月5日)が、代位債権者は債務者の権利を自分の名で行使するだけで被代位債権の債権者になるわけではないとして、代位債権者の住所地は義務履行地に当たらないとしました。「YのZに対する同額の請負代金債権を代位行使し,Zに対し,同額の支払を求める訴えを名古屋地方裁判所に提起することができる」という肢は、名古屋が代位債権者Xの住所地にすぎないので誤りです。
不法行為地には加害行為地と結果発生地の両方が含まれ、不動産所在地の裁判籍は不動産に関する権利を目的とする訴えに限られ、専属でもありません
不法行為に関する訴えは、不法行為があった地を管轄する裁判所に提起できます(5条9号)。不法行為があった地とは不法行為の要件事実が発生した地をいい、加害行為をした地だけでなく損害が発生した地も含まれます(東京地判昭和40年5月27日)。京都市で製造販売された有毒な食物を食べて大阪市で発病した事案で、「Yを被告とする不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを大阪地方裁判所に提起することができる」という肢は正しいです。不動産に関する訴えは、不動産の所在地を管轄する裁判所に提起できます(5条12号)。ここでいう不動産に関する訴えは、所有権の確認や登記・明渡しのように不動産に関する権利を目的とする訴えで、不動産の売買代金や賃料の請求は含まれません。千葉市の建物の売買代金を請求する訴えについて「千葉地方裁判所に提起することができる」という肢は誤りです。また5条の特別裁判籍は普通裁判籍に加えて認められるもので、専属ではありません。抵当権設定登記の抹消登記手続を求める訴えは不動産所在地にも被告の住所地にも起こせるので、「静岡地方裁判所に提起しなければならない」という肢は誤りです。事務所又は営業所を有する者に対する、その事務所又は営業所の業務に関する訴えは、その所在地にも起こせます(5条5号)。
- 普通裁判籍(4条)被告の住所・居所・最後の住所、法人は主たる事務所・営業所(なければ代表者等の住所)
- 義務履行地(5条1号)財産権上の訴え。金銭債務は特約がなければ債権者の現在の住所。代位債権者の住所は当たりません
- 事務所・営業所(5条5号)その事務所・営業所の業務に関する訴え
- 不法行為地(5条9号)加害行為地と損害発生地の両方
- 不動産所在地(5条12号)不動産に関する権利を目的とする訴え。売買代金・賃料の請求は含みません。専属ではありません
- 併合請求の裁判籍(7条)一の請求に管轄があれば他の請求も併せて起こせます。共同訴訟は38条前段の場合に限ります
一の訴えで数個の請求をするときは一つの請求に管轄があれば足りますが、被告が複数のときは38条前段の関係がある場合に限られます
一の訴えで数個の請求をする場合には、そのうち一つの請求について4条から6条の2までの規定により管轄権を有する裁判所に、その訴えを起こすことができます(7条本文)。同じ被告に対する請求であれば、一つの請求で応訴を強いられる以上、他の請求も同じ裁判所で審理しても被告の不利益は大きくないからです。建物収去土地明渡請求を土地の所在地の裁判所に起こすときに貸金返還請求を併せることもできるので、「原告は,被告に対する貸金返還請求を併合することができない」という肢は誤りです。賃貸借の終了による建物明渡し・賃料・損害金を併せて請求する事案でも、建物の所在地、被告の住所地、持参すべき設計事務所の所在地のどれか一つに管轄があれば、全部を併せてその裁判所に起こせます。原告の自宅はどの請求の管轄原因にもならないので、「Xは,本件訴えを,甲建物の所在地を管轄する裁判所に提起することはできるが,Xの自宅の所在地を管轄する裁判所に提起することはできない」という肢が正しく、原告の自宅に起こせるとする肢や、設計事務所・被告の自宅・甲建物の所在地のどれかに起こせないとする肢は誤りです。他方、被告が複数の場合は、訴訟の目的である権利義務が共通であるか、同一の事実上・法律上の原因に基づくとき(38条前段)に限られます(7条ただし書)。権利義務が同種で同種の原因に基づくだけの場合(38条後段)は含まれず、関係のない被告を他人の住所地に引き込むことになるからです。東京の建物の賃借人と大阪の建物の賃借人に対する明渡請求は、同じ所有者の建物という共通点しかないので、「Y及びZを被告として,東京地方裁判所に訴えを提起することができる」という肢は誤りです。併合請求の裁判籍を作るためだけに訴訟追行の意思のない被告を加えることは、管轄選択権の濫用として許されないとした裁判例もあります。
民事訴訟法4条1項
訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
民事訴訟法4条4項
法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
民事訴訟法7条
一の訴えで数個の請求をする場合には、第四条から前条まで(第六条第三項を除く。)の規定により一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができる。ただし、数人からの又は数人に対する訴えについては、第三十八条前段に定める場合に限る。
民法484条1項
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。