移送の種類と要件(16条〜20条・274条)とは
いそうのしゅるいとようけん
移送とは、ある裁判所に係属している訴訟を、裁判によって他の裁判所に移すことです。管轄違いによる移送(16条1項)、遅滞を避ける等のための移送(17条)、簡易裁判所の裁量移送(18条)、申立てと同意による必要的移送(19条1項)、簡易裁判所の不動産訴訟の必要的移送(19条2項)、簡易裁判所の反訴による移送(274条)があります。
大阪の人が東京の人を訴えたとき、証人が皆東京にいるなら東京で審理したほうが早く進みますし、簡易裁判所に起こした事件が思いのほか複雑なら地方裁判所でじっくり審理したほうがよいこともあります。移送は、訴えを却下して一からやり直させるのではなく、訴訟をそのまま適切な裁判所に移す仕組みです。どの移送が申立てを要し、どれが職権でもでき、どれが義務になるかが、条文ごとに書き分けられています。
管轄違いの訴えは却下せずに管轄裁判所に移送し、地方裁判所は簡易裁判所の管轄に属する訴訟を自ら審理することもできます
裁判所は、訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、管轄裁判所に移送します(16条1項)。訴えを却下すると原告は起こし直さなければならず、時効の完成猶予などの効果も失われるからです。法定の専属管轄に属する訴えが他の裁判所に起こされた場合も同じで、「第一審裁判所は,法律の定めにより他の裁判所が専属的な土地管轄を有する訴えが提起された場合には,判決でその訴えを不適法なものとして却下しなければならない」という肢は誤りです。簡易裁判所で請求を拡張して地方裁判所の事物管轄に属するようになった場合も、16条1項で地方裁判所に移送します。他方、地方裁判所は、訴訟がその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する場合でも、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、自ら審理及び裁判をすることができます(16条2項本文)。これを自庁処理といい、簡易裁判所の専属管轄の場合は除かれますが、合意による専属管轄はここでも除外されません(同項ただし書)。「東京地方裁判所は,相当と認めるときは,申立てにより又は職権で,訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる」という肢は、合意がない場合も簡易裁判所を専属とする合意がある場合も正しいです。最決平成20年7月18日は、16条2項は原則的な第一審裁判所である地方裁判所で審理を受ける当事者の利益を重視したもので、自庁処理の判断は地方裁判所の合理的な裁量に委ねられ、遅滞の回避や衡平だけでなく、広く事案の内容に照らして地方裁判所での審理が相当かという観点からされるべきであり、簡易裁判所の管轄が専属的合意によって生じた場合も異ならないとしました。
管轄のある裁判所も、訴訟の著しい遅滞を避け又は当事者間の衡平を図るため、申立てにより又は職権で他の管轄裁判所に移送でき、簡易裁判所は相当と認めれば地方裁判所に移送できます
第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合でも、当事者や尋問を受けるべき証人の住所、検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができます(17条)。「訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るための移送は,被告の申立てによることなく,裁判所が職権ですることはできない」という肢は誤りです。原告の住所地に義務履行地の管轄が認められて被告の応訴の負担が重くなる場合などに、この移送で調整します。薬害の被害者がそれぞれの住所地の裁判所に訴えを起こした事案で、裁判所は必要があれば申立てにより又は職権で他の管轄裁判所に移送できるという肢は正しいです。移送先は「他の管轄裁判所」なので、管轄のない裁判所には移送できません。また簡易裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合でも、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送することができます(18条)。事件が複雑で慎重な審理が必要な場合などです。「Xがこの訴えを東京簡易裁判所に提起した場合には,東京簡易裁判所は,相当と認めるときは,申立てにより又は職権で,訴訟を東京地方裁判所に移送することができる」という肢は正しく、「簡易裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合には、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送することはできない」という肢は誤りです。
当事者の申立てと相手方の同意があれば移送しなければならず、移送先の管轄は問いませんが、著しい遅滞を招くときや本案の弁論後の申立ては除かれます
第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合でも、当事者の申立て及び相手方の同意があるときは、訴訟の全部又は一部を申立てに係る地方裁判所又は簡易裁判所に移送しなければなりません(19条1項本文)。当事者双方がその裁判所での審理を望んでいる以上、それに従うのが相当だからです。双方の意思が一致していれば合意管轄を作れるのと同じ理屈なので、移送先に管轄があることは要件になっていません。「当事者の移送の申立て及びこれに対する相手方の同意がある場合においても,訴訟が当該移送の申立てに係る地方裁判所の管轄に属しないときは,訴訟を移送することができない」という肢は誤りです。ただし、移送により著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき、又は簡易裁判所からその所在地の地方裁判所への移送以外の申立てで、被告が本案について弁論をし若しくは弁論準備手続で申述をした後にされたものであるときは、移送しなくてよいとされています(同項ただし書)。「大阪簡易裁判所は,移送により著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときは,訴訟を東京簡易裁判所に移送しないことができる」という肢は正しいです。また簡易裁判所は、その管轄に属する不動産に関する訴訟について被告の申立てがあるときは、その申立ての前に被告が本案について弁論をした場合を除き、訴訟の全部又は一部を所在地の地方裁判所に移送しなければなりません(19条2項)。140万円以下の不動産訴訟は地方裁判所にも管轄があるので、被告にも地方裁判所での審理を選ぶ機会を与えたものです。「簡易裁判所は,その管轄に属する不動産に関する訴訟につき被告の申立てがあるときは,その申立ての前に被告が本案について弁論をしていない限り,当該訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送しなければならない」という肢も、訴額100万円の不動産明渡請求訴訟について同じ結論をとる肢も正しいです。
簡易裁判所で被告が地方裁判所の管轄に属する反訴を起こしたときは、相手方の申立てがあれば本訴と反訴を地方裁判所に移送しなければなりません
被告が反訴で地方裁判所の管轄に属する請求をした場合において、相手方(本訴の原告)の申立てがあるときは、簡易裁判所は、決定で、本訴及び反訴を地方裁判所に移送しなければなりません(274条1項)。反訴の請求額が大きくなったのに簡易裁判所の簡略な手続で審理されることを、本訴の原告が望まない場合に配慮したものです。移送の要件は相手方の申立てで、職権でするものではありません。「簡易裁判所は,被告が反訴で地方裁判所の管轄に属する請求をした場合において,相手方の申立てがあるときは,決定で,本訴及び反訴を地方裁判所に移送しなければならない」という肢は正しく、「簡易裁判所は,職権により,決定で,本訴及び反訴を地方裁判所に移送しなければならない」という肢や、50万円の本訴に200万円の反訴が起こされた場合に「簡易裁判所は、職権で、本訴及び反訴を地方裁判所に移送しなければならない」という肢は誤りです。この移送の決定には不服を申し立てることができません(274条2項)。
法定の専属管轄に属する訴訟では17条から19条までの移送はできませんが、合意による専属管轄では移送できます
17条・18条・19条の移送は、訴訟がその係属する裁判所の専属管轄に属する場合には適用されません(20条1項)。法律が公益から特定の裁判所に審理させると決めた以上、裁量や当事者の合意で動かすことは許されないからです。「第一審裁判所は,訴訟が法令の定めによりその専属管轄に属する場合においても,当事者の申立て及び相手方の同意があるときは,訴訟の全部又は一部を申立てに係る地方裁判所又は簡易裁判所に移送しなければならない」という肢は誤りです。もっとも、20条1項の専属管轄からは当事者が11条の合意で定めたものが除かれているので、専属的合意をした裁判所からも17条などの移送ができます。
- 管轄違いによる移送(16条1項)管轄がないとき。申立て又は職権。移送しなければなりません
- 地裁の自庁処理(16条2項)簡裁の管轄事件を地裁が相当と認めるとき。申立て又は職権。簡裁の法定専属管轄を除きます
- 遅滞を避ける等のための移送(17条)著しい遅滞を避け又は当事者間の衡平を図る必要。申立て又は職権。他の管轄裁判所へ。法定専属管轄を除きます
- 簡裁の裁量移送(18条)相当と認めるとき。申立て又は職権。所在地の地裁へ
- 必要的移送(19条1項)当事者の申立て+相手方の同意。移送先の管轄は不要。著しい遅滞・本案弁論後の申立ては除きます
- 簡裁の不動産訴訟(19条2項)被告の申立て。申立て前に本案の弁論をしていないこと。所在地の地裁へ移送しなければなりません
- 反訴による移送(274条)簡裁で地裁の管轄に属する反訴。相手方の申立て。本訴と反訴を地裁へ移送しなければなりません。決定に不服申立て不可
民事訴訟法17条
第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。
民事訴訟法19条1項
第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者の申立て及び相手方の同意があるときは、訴訟の全部又は一部を申立てに係る地方裁判所又は簡易裁判所に移送しなければならない。ただし、移送により著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき、又はその申立てが、簡易裁判所からその所在地を管轄する地方裁判所への移送の申立て以外のものであって、被告が本案について弁論をし、若しくは弁論準備手続において申述をした後にされたものであるときは、この限りでない。
民事訴訟法274条1項
被告が反訴で地方裁判所の管轄に属する請求をした場合において、相手方の申立てがあるときは、簡易裁判所は、決定で、本訴及び反訴を地方裁判所に移送しなければならない。この場合においては、第二十二条の規定を準用する。
論文ではこう使う
論文で移送が問われるのは、原告の住所地に義務履行地の管轄がある事件や、約款の専属的合意管轄条項に基づく事件で、被告が自分の住所地の裁判所への移送を求める場面です。17条の移送を論じるときは、まず受訴裁判所に管轄があることを確認し、次に「当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情」を、当事者双方の出頭の負担、証拠の所在、当事者の経済力の差などの具体的事実に当てはめ、訴訟の著しい遅滞を避け又は当事者間の衡平を図るため必要かを判断します。専属的合意がある場合は20条1項括弧書きにより17条が排除されないことを示し、簡裁を専属とする合意に反して地裁に起こされた場合は、16条2項の自庁処理について最決平成20年7月18日の判断枠組みを使います。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。