消滅時効の起算点とは
しょうめつじこうのきさんてん
消滅時効の起算点とは、消滅時効の期間を数え始める時点のことで、債権では、権利を行使することができる時(客観的起算点)と、債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)の二つがあります(166条1項)。権利を行使することができる時とは、法律上の障害がなくなった時をいいます。
消滅時効の期間を数え始める時点を起算点といいます。まだ請求できない権利について時効が進むと、権利者は何もできないまま権利を失ってしまうので、時効は「権利を行使することができる時」から進むのが原則です。改正で、それに加えて「権利を行使できると知った時」から進む短い時効も設けられ、二つの時効が並んで進みます。いつ請求できるようになったのかは、期限の定め方、債務不履行や解除の場面、分割払いの約束などで変わるので、判例が場面ごとに起算点を示しています。
権利を行使することができる時とは法律上の障害がなくなった時のことで、確定期限でも不確定期限でも、期限が到来した時から客観的起算点の時効が進みます
債権は、権利を行使することができる時から10年間行使しないときに時効によって消滅します(166条1項2号)。「権利を行使することができる時」とは、期限の未到来のような法律上の障害がなくなった時をいい、権利者が病気だったなどの事実上の障害は考えません。確定期限のある債権は期限が到来した時から進むので、「確定期限の定めのある債権の消滅時効は,その期限が到来した時から進行する」という肢は正しいです。不確定期限のある債権も、期限が到来すれば法律上の障害はなくなるので、誰が期限の到来を知ったかにかかわらず、期限到来の時から客観的起算点の時効が進みます。「不確定期限の定めのある債権の消滅時効は,債務者が期限の到来を知った時から進行する」という肢は誤りです。債務者が知った時が問題になるのは履行遅滞の時期(412条2項)で、時効の起算点とは別の話です。「不確定期限の定めのある債権の消滅時効は,債権者が期限の到来を知った時から進行する」という肢は、現在は債権者が期限の到来を知った時から5年の時効が進む(166条1項1号)ので正しいです。期限到来時から10年の時効(同項2号)も並んで進みます。出題当時は債権者が知った時を起算点とする規定がなかったので、この肢は誤りとされました。再売買の予約完結権のような形成権も、始期や停止条件がない限り、権利が成立した時から行使できるので、その時から時効が進みます(最判昭和33年11月6日)。「予約完結権の成立した時から進行する」という肢は正しいです。定期金債権の客観的起算点は、そこから生じる各債権を行使することができる時なので(168条1項2号)、この肢も正しいです。
主観的起算点は債権者が権利を行使することができることを知った時で、その時から5年の時効と、客観的起算点から10年の時効が並んで進みます
改正後の166条1項1号は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときにも債権は時効によって消滅するとしました。契約による債権は、通常は契約の時に履行期を知っているので、主観的起算点と客観的起算点が一致し、実際には5年で時効にかかります。これに対し、不当利得返還請求権や安全配慮義務違反による損害賠償請求権のように、権利の発生や相手方を権利者がすぐには知らない債権では、二つの起算点がずれます。どちらか早く満了したほうで時効が完成するので、知らないうちに客観的起算点から10年たてば時効にかかり、知った時から5年たっても時効にかかります。起算点が問題になる肢では、どちらの起算点についての記述なのかを確かめて読む必要があります。
債務不履行による損害賠償請求権も、解除による原状回復義務の履行不能による損害賠償請求権も、本来の債務の履行を請求できる時から進みます
債務の履行不能などによって生じる損害賠償請求権は、本来の債務が形を変えたもので、債務としての同一性があります。判例は、債務者の責めに帰すべき履行不能によって生ずる損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時から進行するとしています(最判平成10年4月24日)。「債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効は,本来の債務の履行を請求することができる時から進行する」という肢は正しいです。契約の解除による原状回復義務が履行不能になった場合の損害賠償請求権も、本来の債務である原状回復義務の履行を請求し得る時、つまり解除の時から進みます(最判昭和35年11月1日)。履行不能の時からとすると、債務者が履行を怠って不能にすれば時効の完成を先送りできてしまうからです。「その履行不能による損害賠償請求権の消滅時効は,原状回復義務が履行不能になった時から進行する」という肢は誤りです。解除による原状回復請求権そのものは解除によって初めて生じるので、解除の時から時効が進みます(大判大正7年4月13日)。「その債務不履行の時から10年を経過したときは,解除による原状回復請求権の消滅時効が完成する」という肢と、「Aが解除権の発生を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する」という肢は、起算点を解除より前に置いている点で誤りです(解除した者は通常解除の時に知っているので、実際には解除の時から5年です)。
期限の利益喪失約款が債権者の請求によって期限の利益を失わせる形なら、残債務全額の時効は債権者が全額の弁済を求めた時から進みます
分割払いの約束に「1回でも支払を怠ったときは、債権者の請求により直ちに残額全部を支払う」という特約(期限の利益喪失約款)がある場合について、判例は、1回の不履行があっても、各割賦金についてはそれぞれの約定弁済期の到来ごとに順次時効が進み、債権者が特に残債務全額の弁済を求める旨の意思表示をした場合に限り、その時から全額について時効が進むとしています(最判昭和42年6月23日)。この型の特約では、期限の利益を失わせて一括請求するか、分割のまま受け取り続けるかは債権者の選択に任されているからです。「債務者が割賦金の支払を怠った時から,残債務全額についての消滅時効が進行する」という肢と、「残債権全額の消滅時効は,債務者が弁済を怠った時から進行する」という肢は誤りです。不履行があれば当然に期限の利益を失う特約なら、不履行の時から全額の時効が進むと解されています。
無断転貸を理由とする解除権は転借人が使用収益を始めた時から、安全配慮義務違反による損害賠償請求権は損害が発生した時から時効が進みます
無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は形成権ですが、債権に準じて消滅時効にかかり、判例は、転借人が転貸借契約に基づいて土地の使用収益を開始した時から権利の行使が可能になるので、その時から時効が進むとしています(最判昭和62年10月8日)。転貸借契約を結んだだけでは解除の要件(612条2項の「使用又は収益をさせたとき」)を満たさないからです。「転借人が転貸借契約に基づいて当該土地の使用収益を開始した時から進行する」という肢は正しく、「原賃貸借の賃貸人が転貸借契約が締結されたことを知った時から10年を経過したときは,時効によって消滅する」という肢は誤りです。安全配慮義務違反による損害賠償請求権は、損害が発生した時に成立し、同時に権利の行使が法律上可能になるので、損害発生時から進みます。判例は、じん肺のように病状が進行する損害については、最も重い行政上の決定を受けた時に損害が発生したとして、そこから時効が進むとしています(最判平成6年2月22日)。「安全配慮義務違反による損害賠償請求権の消滅時効は,損害が発生した時から進行する」という肢は正しいです。なお、留置権を行使して物を留置していても、被担保債権そのものを行使しているわけではないので、被担保債権の消滅時効は進みます(300条)。「留置権者が留置物の占有を継続している間であっても,その被担保債権についての消滅時効は進行する」という肢は正しいです。
売買の目的物の契約不適合(旧瑕疵担保)による損害賠償請求権は、引渡しを受けた時から時効が進み、知った時から1年の期間とは別に時効にかかります
判例は、改正前の瑕疵担保による損害賠償請求権について、売買契約に基づき法律上生じる金銭支払請求権で債権に当たるから消滅時効の規定の適用があり、買主が目的物の引渡しを受けた時から進行するとしました(最判平成13年11月27日)。買主は引渡しを受けた時から権利を行使することが法律上可能で、瑕疵に気づかない限りいつまでも売主が責任を負うのは酷だからです。瑕疵を知った時から1年という期間は早期の安定のための別の制限で、両方が並んで働きます。「買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権の消滅時効は,買主が目的物の引渡しを受けた時から進行を始める」という肢、「買主が瑕疵の存在に気付かなくても,目的物が買主に引き渡された時から10年の時効消滅にかかる」という肢は正しく、知った時から1年以内に請求しても引渡しから10年を過ぎていれば時効は完成するので、「その損害賠償請求権につき消滅時効は完成しない」という肢は誤りです。現在は契約不適合責任となり、種類・品質の不適合を知った時から1年以内に売主に通知しなければ請求できない(566条)一方、損害賠償請求権自体は166条1項の時効にかかり、客観的起算点は引渡しの時と解されています。「特定物売買の目的物の品質が契約の内容に適合しないことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は、売買契約の締結時から進行する」という肢は誤りです。
- 確定期限・不確定期限期限が到来した時(不確定期限でも誰かが知った時ではありません)
- 債務不履行による損害賠償請求権本来の債務の履行を請求できる時(最判平成10年4月24日)
- 原状回復義務の履行不能による損害賠償請求権原状回復義務の履行を請求できる時=解除の時(最判昭和35年11月1日)
- 解除による原状回復請求権解除の時(大判大正7年4月13日)
- 請求喪失型の期限の利益喪失約款債権者が残債務全額の弁済を求めた時(最判昭和42年6月23日)
- 無断転貸を理由とする解除権転借人が使用収益を開始した時(最判昭和62年10月8日)
- 安全配慮義務違反による損害賠償請求権損害が発生した時(じん肺は最終の行政上の決定時、最判平成6年2月22日)
- 契約不適合(旧瑕疵担保)による損害賠償請求権目的物の引渡しを受けた時(最判平成13年11月27日)
- 再売買の予約完結権予約完結権が成立した時(最判昭和33年11月6日)
民法166条1項
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
民法300条
留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。
最判平成13年11月27日
瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり、この消滅時効は、買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である
論文ではこう使う
論文で消滅時効が問題になる事例では、まず問題になっている権利の種類を確定し、166条1項の主観的起算点と客観的起算点をそれぞれ特定します。客観的起算点は法律上の障害がなくなった時なので、期限の有無、解除の時、損害の発生時、使用収益の開始時など、判例が示した場面ごとの起算点を当てはめます。分割払いの事例では期限の利益喪失約款の型(当然喪失か請求喪失か)を確認し、請求喪失型なら債権者の意思表示の時から全額の時効が進むことを書きます。そのうえで完成猶予・更新の事由と援用の有無を続けて検討します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。