訴訟能力と制限行為能力者(31条・32条・人訴13条)とは
そしょうのうりょくとせいげんこういのうりょくしゃ
訴訟能力とは、自ら単独で有効に訴訟行為をし、又は受けるために必要な能力のことです。民法の行為能力を基本にしつつ、未成年者と成年被後見人は法定代理人によらなければ訴訟行為ができず(31条)、被保佐人と一定の被補助人は同意を得て訴訟行為をするなど、制限行為能力者ごとに民事訴訟法と民法が扱いを定めています。
17歳の高校生が友人に貸したお金を返してもらおうと思っても、自分一人では訴えを起こせません。訴訟は手続が複雑で、一つの陳述が勝敗を決めることもあるので、契約よりも高い判断力が要るからです。そこで民事訴訟法は、自ら有効に訴訟行為をする能力を訴訟能力と呼び、民法の行為能力を基本にしつつ、未成年者と成年被後見人は法定代理人が代理しなければ訴訟行為ができないなど、民法より厳しい扱いを定めています。一方で、離婚のような身分の訴訟では本人の意思を重んじる特則があります。
未成年者と成年被後見人は、法定代理人が代理しなければ訴訟行為ができず、法定代理人の同意を得て自らすることもできません
31条本文は、未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができないと定めています。民法では、未成年者は法定代理人の同意を得て自ら契約をすることができます(民法5条1項)が、訴訟では同意を得ても自らはできず、法定代理人が代理する方法しかありません。成年被後見人は民法上、日用品の購入その他日常生活に関する行為は単独でできます(民法9条ただし書)が、訴訟ではこの例外も認められません。「成年被後見人は,日用品の購入に関する訴えを,法定代理人によらずに提起することができる」という肢は誤りです。訴訟は一つの行為が手続全体に影響するので、画一的に保護する必要があるからです。他方、31条ただし書は、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は自ら訴訟行為ができるとしています。営業を許された未成年者はその営業に関しては成年者と同一の行為能力を有する(民法6条1項)ので、その営業に関する訴訟は自らできます。「未成年者が営業を許された場合であっても,その営業に関して訴訟行為をするには,法定代理人によらなければならない」という肢は誤りです。
管轄の合意や訴訟代理人の選任のように、訴訟の外でする行為でも手続に影響するものには訴訟能力が要ります
管轄の合意は法定の管轄を変えるという訴訟法上の効果を生む訴訟行為なので、未成年者が売買契約と一緒に管轄の合意をするには、法定代理人の同意では足りず、法定代理人が代理しなければなりません。「未成年者があらかじめ法定代理人の同意を得た上で売買契約を締結した場合には,管轄の合意は有効であり,法定代理人による追認の対象とはならない」という肢は誤りで、この管轄の合意は無効であり、追認の対象になります。訴え取下げの合意や弁護士への訴訟委任も同じです。これに対し、当事者本人として尋問を受けて陳述するのは証拠資料を提供することであり、訴訟行為として主張をするのではないので、訴訟能力は要りません。法定代理人を尋問する場合も、当事者本人を尋問することは妨げられません(211条ただし書)。「当事者が訴訟能力を欠く場合は,その当事者本人を尋問することはできない」という肢は誤りです。なお、意思能力を欠く者の訴訟行為は、制限行為能力者かどうかにかかわらず無効です。判例は、精神能力が12、3歳の児童程度の成年者がした控訴の取下げを意思無能力者の訴訟行為として無効とし、自己に利益な控訴の提起は有効としました(最判昭和29年6月11日)。
被保佐人と同意を要する旨の審判を受けた被補助人は同意を得て自ら訴訟行為をしますが、相手方の訴えや上訴への応訴には同意が要りません
被保佐人が訴訟行為をするには保佐人の同意が要ります(民法13条1項4号)。被補助人は、家庭裁判所が、訴訟行為をするには補助人の同意を要する旨の審判をしたときに限って同意が要ります(民法17条1項)。「家庭裁判所は,被補助人が訴訟行為をするには補助人の同意を要する旨の審判をすることができる」という肢は正しいです。もっとも、保佐人が同意しないと被保佐人を訴えることも上訴することもできなくなるので、32条1項は、被保佐人・被補助人、後見人その他の法定代理人が相手方の提起した訴え又は上訴について訴訟行為をするには、保佐人・補助人・後見監督人の同意その他の授権を要しないとしています。「被保佐人が相手方の提起した控訴につき控訴棄却を求める答弁をするには,保佐人又は保佐監督人の同意を要しない」という肢も、「被保佐人が相手方の提起した訴えにおいて請求原因事実を認める旨の陳述をするには,保佐人の同意を要しない」という肢も正しいです。ただし、訴えの取下げ、和解、請求の放棄・認諾、訴訟脱退、上訴の取下げ、異議の取下げのように訴訟を終わらせる行為には、応訴の場面でも特別の授権が要ります(32条2項)。「被保佐人が相手方の提起した訴えについて訴訟上の和解をするには、保佐人による特別の授権が必要である」という肢は正しいです。また、訴訟の係属中に当事者について保佐開始の審判があっても、被保佐人は訴訟能力を全面的に失うわけではなく、その審級ではそのまま訴訟行為を続けられると解されているので、訴訟能力の喪失(124条1項3号)には当たりません。「訴訟の係属中に当事者につき保佐開始の審判がされても,訴訟手続は中断しない」という肢は正しいです。
- 未成年者法定代理人が代理します(31条本文)。営業を許された場合など独立して法律行為ができる場合は自らできます(31条ただし書)
- 成年被後見人法定代理人が代理します。日常生活に関する行為の例外はありません
- 被保佐人保佐人の同意を得て自らします。応訴・相手方の上訴への対応は同意不要で、訴訟を終わらせる行為には特別の授権が要ります(32条)
- 被補助人訴訟行為に補助人の同意を要する旨の審判があるときだけ、被保佐人と同じ扱いになります
- 外国人本国法で訴訟能力がなくても、日本法で訴訟能力があれば訴訟能力者とみなされます(33条)
人事訴訟では、未成年者や成年被後見人も意思能力があれば自ら訴訟行為ができます
離婚や認知のような人事訴訟では、身分関係について本人の意思を尊重する必要が大きいので、人事訴訟法13条1項が、人事訴訟の訴訟手続における訴訟行為には民訴法31条・32条や民法の行為能力の規定を適用しないとしています。そのため、意思能力がある限り、未成年者も成年被後見人も被保佐人も、法定代理人や保佐人によらずに自ら訴訟行為ができます。必要があると認めるときは、裁判長が申立てにより弁護士を訴訟代理人に選任することができます。「未成年者は,人事訴訟においては,意思能力を有する限り,自ら訴訟行為をすることができる」という肢は正しく、「成年被後見人が意思能力のある状態で離婚の訴えを提起した場合,この訴え提起は無効であり,補正命令の対象となる」という肢は誤りです。離婚訴訟の被告が成年被後見人で、原告がその成年後見人である場合も、被告は意思能力があれば自ら訴訟行為ができます。「Yは,意思能力を有していても,特別代理人又は成年後見監督人によらなければ,訴訟行為をすることができない」という肢は誤りです。
婚姻による成年擬制は令和4年の民法改正で廃止されたので、婚姻した未成年者を前提とする肢は現在では成り立ちません
令和4年4月施行の民法改正で、成年年齢は18歳になり(民法4条)、婚姻適齢も男女とも18歳になりました(民法731条)。未成年者が婚姻することはできなくなり、婚姻した未成年者を成年者とみなす規定(旧753条)も削られました。出題当時は、婚姻した未成年者は成年に達したものとみなされ、31条ただし書により自ら訴訟行為ができたので、「婚姻している未成年者は,自ら訴訟行為をすることができる」という肢は正しいとされていましたが、現在はその前提となる者がいません。同じく、訴え提起後に婚姻した未成年者の両親がなお法定代理人として訴訟行為をしなければならないとする肢は、成年擬制により法定代理権が消えることから出題当時は誤りとされていました。現在の規律に置き換えると、未成年者が訴訟係属中に18歳に達すれば自ら訴訟能力を取得し、両親の法定代理権は消滅します。もっとも、法定代理権の消滅は相手方に通知しなければその効力を生じません(36条1項)。
民事訴訟法31条
未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。
民事訴訟法32条1項
被保佐人、被補助人(訴訟行為をすることにつきその補助人の同意を得ることを要するものに限る。次項及び第四十条第四項において同じ。)又は後見人その他の法定代理人が相手方の提起した訴え又は上訴について訴訟行為をするには、保佐人若しくは保佐監督人、補助人若しくは補助監督人又は後見監督人の同意その他の授権を要しない。
民法13条1項
被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。(略)四 訴訟行為をすること。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。