訴訟代理権の範囲と弁護士法25条違反の訴訟行為(和解権限の範囲・訴訟行為の排除)とは
そしょうだいりけんのはんいとべんごしほうにじゅうごじょういはんのそしょうこうい
訴訟代理権の範囲とは、訴訟代理人が委任を受けた事件についてどこまで訴訟行為ができるかのことで、特に和解の権限が訴訟物以外の権利関係にどこまで及ぶかが問題になります。弁護士法25条違反の訴訟行為とは、相手方の協議を受けて賛助した事件など弁護士が職務を行ってはならない事件でした訴訟行為のことで、相手方の異議があれば裁判所が排除します。
弁護士に和解を任せたら、相手方が分割払いを認める代わりに自宅に抵当権を付けてほしいと言い出したとします。貸金の訴訟なのに抵当権まで約束してよいのかが問題になります。和解は互いに譲り合って紛争を丸く収める手段なので、訴訟物の外に話が広がることはよくあります。他方で、弁護士が相手方からも以前に相談を受けていた事件を引き受けていたら、相手方は不安になります。代理人に任せた範囲と、代理人として関わってはいけない事件の線引きを扱うのがこの語です。
訴訟上の和解は特別委任事項なので、和解条項に訴訟物以外の権利が入っていなくても、和解をするには特別の委任が要ります
訴訟代理人は、委任を受けた事件について勝訴判決を得るための訴訟行為を包括的にすることができますが、和解は訴訟物について互いに譲歩して訴訟そのものを終わらせる行為であり、本人に重大な結果をもたらします。そのため55条2項2号は、和解を特別委任事項としています。特別の委任が要るかどうかは和解条項の中身で変わるものではありません。「訴訟代理人は,和解条項中に訴訟物たる権利以外の権利に関する条項を含むものでない限り,当事者から和解についての特別の委任を受けていない場合であっても,訴訟上の和解をすることができる」という肢は誤りです。訴訟物以外の権利がどこまで和解に取り込めるかは、特別の委任があることを前提に、その権限の範囲の問題として考えます。
和解の権限を授与された代理人は、互譲の一方法として必要な範囲で、訴訟物以外の権利関係も和解に取り込むことができます
判例は、貸金請求事件で和解の権限を授与された被告の訴訟代理人が、和解の一条項として、貸金債務の弁済期の延期と分割払いを認めてもらう代わりに、被告所有の不動産に原告のための抵当権を設定する契約をした事案で、和解の代理権限のうちに抵当権設定契約をする権限も含まれていたとしました(最判昭和38年2月21日)。抵当権の設定は、訴訟物について互いに譲歩する方法の一つとしてされたものだからです。「貸金請求事件において訴訟上の和解の権限を授与された被告の訴訟代理人は」、弁済期の延期と分割払いの担保として抵当権を設定する条項を含む場合に「その抵当権設定契約をする権限を有する」という肢は正しいです。さらに、同一当事者間に生じた一連の紛争に起因する別の請求権についても、和解権限のある訴訟代理人はそれを含めて和解をする権限があるとした判例があります(最判平成12年3月24日)。和解は紛争を柔軟に終わらせる手段なので訴訟物に限る必要はありませんが、本人の合理的意思に合う範囲にとどめる必要があります。また、55条3項は弁護士である訴訟代理人の代理権を制限できないとしていますが、和解は本人の意思を重んじるべき行為なので、和解の権限に付けた制限は有効と解する見解もあります。
弁護士法25条1号に違反する訴訟行為は当然に無効ではなく、相手方が異議を述べれば裁判所が排除しますが、異議を述べずに第二審の口頭弁論が終結すれば有効になります
弁護士法25条1号は、弁護士は相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件について職務を行ってはならないと定めています。これに違反した訴訟行為の効力について、大法廷判決は、同号は弁護士の品位の保持と当事者の保護を目的とする規定であるから、違反を懲戒の原因にとどめて訴訟行為を完全に有効とするのでは相手方の保護に欠けるとし、相手方たる当事者は、これに異議を述べ、裁判所に対しその行為の排除を求めることができるとしました(最大判昭和38年10月30日)。他方で、相手方が違反を知り又は知り得たのに異議を述べずに訴訟手続を進めさせ、第二審の口頭弁論を終結させたときは、その訴訟行為は完全に効力を生じ、無効を主張することは許されないとしています。この考え方を異議説と呼びます。「相手方当事者は,当該訴訟行為に異議を述べ,裁判所に対し,排除を求めることができる」という肢は正しいです。これと関連して、弁護士会の懲戒処分で業務を停止された弁護士の訴訟行為について、その事実が公にされていない事情のもとでは、一般の信頼を保護し裁判の安定を図るため有効とした判例もあります(最判昭和42年9月27日)。
排除の決定に対しては、自らの訴訟代理人の訴訟行為を排除された当事者が即時抗告をすることができます
弁護士法25条1号違反を理由に訴訟行為を排除する決定に対して不服を申し立てられるかについて、民事訴訟法に明文はありません。判例は、相手方当事者には排除の裁判を求める申立権があるとしたうえで、排除の決定に対しては、自らの訴訟代理人の訴訟行為を排除するものとされた当事者が、民訴法25条5項の類推適用により即時抗告をすることができるとしました(最決平成29年10月5日)。訴訟手続から特定の者を排除するという点で、除斥・忌避の申立てを理由がないとする決定と似ており、排除の当否を早く確定させる必要があるからです。他方、排除された訴訟代理人自身は、自らを抗告人として即時抗告をすることはできません。「自らの訴訟代理人の訴訟行為を排除するものとされた当事者は、即時抗告をすることができる」という肢は正しいです。
- 和解条項に訴訟物以外の権利がない和解それでも特別の委任が要ります(55条2項2号)
- 貸金の弁済期延期・分割払いの担保として被告不動産に抵当権を設定する和解和解権限に含まれます(最判昭和38年2月21日)
- 同一当事者間の一連の紛争に起因する別の請求権を含む和解和解権限に含まれます(最判平成12年3月24日)
- 弁護士法25条1号違反の訴訟行為相手方は異議を述べて排除を求められます。異議なく第二審の口頭弁論が終結すれば有効です(最大判昭和38年10月30日)
- 排除の決定代理人を排除された当事者が即時抗告できます。代理人自身はできません(最決平成29年10月5日)
弁護士法25条
弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第3号及び第9号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
民事訴訟法25条5項
除斥又は忌避を理由がないとする決定に対しては、即時抗告をすることができる。
論文ではこう使う
論文では二つの論点が出ます。和解権限の範囲は、55条2項2号の趣旨(本人の意思の確認)を示し、和解が互譲による柔軟な解決であることから訴訟物に限らず、本人の合理的意思に合う範囲で訴訟物以外の権利関係も取り込めると論じ、抵当権設定の判例を当てはめます。弁護士法25条1号違反の効果は、絶対無効説・有効説・異議説を並べ、同号の目的が相手方の保護にあることから、相手方が異議を述べれば排除できるが、異議なく手続が進めば無効を主張できないとする判例の異議説で結論を出します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。