遺言執行者の当事者適格とは
ゆいごんしっこうしゃのとうじしゃてきかく
遺言執行者の当事者適格とは、遺言執行者が遺言の執行に必要な範囲で相続財産の管理処分権を持つことから、その職務の範囲内の訴訟について、相続人に代わって自分の名で原告又は被告となる資格のことです。遺言執行者は法定訴訟担当の一つに当たります。
亡くなった父が、自宅を長年世話になった知人に遺贈する遺言を残し、遺言執行者に弁護士を指定していたとします。知人が登記を移してほしいと訴えるとき、被告を相続人とするか遺言執行者とするかが問題になります。遺言執行者は遺言の内容を実現する職務を持ち、その範囲で相続人は相続財産を処分できなくなります。そのため、遺言の執行に関わる訴訟では遺言執行者が自分の名で当事者になります。どこまでが遺言執行者の職務かで、被告が入れ替わるのがこの語の論点です。
遺言執行者は遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を持つので、その職務の範囲内の訴訟では、相続人に代わって当事者となる法定訴訟担当者です
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(民法1012条1項)、遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができます(同条2項)。相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができません(民法1013条1項)。このように相続財産の管理処分権が遺言執行者に移るので、遺言執行者はその職務の範囲内の訴訟について、相続人のために自分の名で当事者となります。法律の規定によって他人の権利について当事者となるので、法定訴訟担当の一つです。もっとも、どの訴訟で遺言執行者が当事者になるかは、その訴訟が遺言の執行そのものに当たるかで判例が線を引いています。
受遺者が遺言の執行として所有権移転登記を求める訴えは遺言執行者を被告とし、既に受遺者への登記がされた後に相続人がその抹消を求める訴えは受遺者を被告とします
判例は、特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴えにおいて、被告としての適格を有する者は遺言執行者に限られ、相続人はその適格を有しないとしました(最判昭和43年5月31日)。登記の移転はまだ済んでいない遺言の執行そのものだからです。「特定不動産の受遺者が,遺言の執行として当該不動産の所有権移転登記手続を求める訴えを提起するときは,相続人ではなく遺言執行者を被告とすべきである」という肢は正しく、「相続人が当該訴えの被告適格を有する」という肢は誤りです。これに対し、遺言の執行として受遺者への所有権移転登記や仮登記が既にされている場合に、相続人がその登記の抹消を求める訴えについては、相続人は遺言執行者ではなく受遺者を被告とすべきだとしました(最判昭和51年7月19日)。受遺者のために登記を守ることはそれ自体遺言の執行ではなく、執行として登記がされた後は、その登記についての権利義務は受遺者だけに帰属するからです。「相続人が原告となって抹消登記手続を求める訴えを提起するときは,受遺者ではなく,遺言執行者を被告としなければならない」という肢も、「遺言執行者を被告とすべきである」とする肢も誤りです。
特定の不動産を相続させる旨の遺言の対象不動産について賃借権の確認を求める訴えは、特段の事情がない限り、遺言執行者ではなく相続人を被告とします
特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言があると、その相続人は相続開始と同時に遺産分割を経ずにその不動産を取得します。判例は、その不動産について賃借権の確認を求める訴えの被告適格を有するのは、遺言書に不動産の管理と相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り、遺言執行者ではなくその相続人であるとしました(最判平成10年2月27日)。遺言の内容が相続開始と同時に実現していて、不動産の管理は遺言執行者の職務ではないからです。「遺言執行者ではなく,当該相続人を被告とすべきである」という肢は正しいです。平成30年の相続法改正で、特定財産承継遺言について遺言執行者が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができると定められました(民法1014条2項)が、不動産の管理まで遺言執行者の職務とされたわけではないので、この判例の考え方は改正後も妥当すると考えられています。
相続人が遺言の無効を主張して相続財産の持分の確認を求める訴えでは、遺言執行者を被告とすることができます
判例は、相続人が遺言の無効を主張し、遺言執行者を被告として相続財産について共有持分権を有することの確認を求めた事案で、相続人が敗訴すれば遺言どおりに執行されることになるから、相続人には遺言執行者に対して確認を求める利益があり、その判決の効果は受遺者にも及ぶとしました(最判昭和31年9月18日)。遺言を執行するかどうかがまさに遺言執行者の職務にかかわるからです。「相続人が遺言の無効を主張して,相続財産について自己が持分権を有することの確認を求める訴えを提起するときは,遺言執行者を被告とすることは許されない」という肢は誤りです。
- 受遺者が遺言の執行として所有権移転登記を求める遺言執行者が被告です。相続人は被告適格を有しません(最判昭和43年5月31日)
- 受遺者への登記が済んだ後に相続人が抹消を求める受遺者が被告です。遺言執行者ではありません(最判昭和51年7月19日)
- 相続させる旨の遺言の対象不動産について賃借権の確認を求める特段の事情がない限り、その相続人が被告です(最判平成10年2月27日)
- 相続人が遺言の無効を主張して持分権の確認を求める遺言執行者を被告とすることができます(最判昭和31年9月18日)
民法1012条1項
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
民法1012条2項
遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
民法1013条1項
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
論文ではこう使う
論文では、遺言執行者を法定訴訟担当の典型として示し、民法1012条・1013条により遺言の執行に必要な範囲で管理処分権が遺言執行者に移ることを根拠に、その職務の範囲内の訴訟に限って当事者適格を持つと書きます。そのうえで、問題の訴訟が遺言の執行そのものに当たるか(未了の登記移転か、執行後の登記の保持か、遺言の内容が相続開始と同時に実現しているか)を判例の線引きに当てはめて、被告を決めます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。