当事者の確定(表示説・意思説・行動説、氏名冒用訴訟・死者名義訴訟・表示の訂正・法人格否認)とは
とうじしゃのかくてい
当事者の確定とは、その訴訟の原告と被告が誰であるかを決めることです。当事者は、訴え又は訴えられることによって判決の名宛人となる者をいい、誰が当事者かは訴状の記載全体から合理的に解釈して決めるのが通説と実務です。
訴状の原告欄にAさんの名前があるのに、実際に訴えを起こして法廷に来ているのはAさんの名を勝手に使ったBさんだったとします。判決は誰に効力を及ぼすのかを決めないと、勝っても負けても後始末がつきません。そこで訴訟の入口で、原告と被告が誰なのかを訴状から決める作業が要ります。これが当事者の確定です。原則は訴状の記載全体から決めますが、名前を冒用された場合や死者を被告にした場合には、誰に手続に関わる機会があったかも考えて結論を調整します。
当事者は、訴え又は訴えられることによって判決の名宛人となる者をいい、争われている権利義務の主体と一致しなくてもかまいません
民事訴訟法でいう当事者は、自分の名で判決を求め、又は求められる者をいいます。争いの対象となっている権利や義務が実体法上その人に帰属しているかどうかとは切り離して考えるので、この考え方を形式的当事者概念と呼びます。破産管財人や遺言執行者のように、他人に帰属する権利を自分の名で訴訟する者がいるのは、この概念を前提にしているからです。「訴え又は訴えられることにより判決の名宛人となる者が当事者であるとする考え方によれば,訴訟物として他人の権利を主張する者であっても当事者になることができる」という肢は正しいです。誰がその訴訟で権利を主張できる正当な当事者かは、当事者能力や当事者適格という別の物差しで判断します。当事者は訴状の必要的記載事項です(134条2項1号)。自然人であれば氏名と住所で特定するのが通常ですが、他の者と区別できればよいので、商号・芸名・通称名で特定することもできます。「自然人を被告とする場合,通常は氏名と住所を訴状に記載して被告を特定するが,特定し得るのであれば,氏名の代わりに通称名を用いることができる」という肢は正しいです。
誰が当事者かは、訴状の当事者欄だけでなく請求の趣旨や原因も含めた訴状全体の記載から決めるのが通説と実務です
当事者を決める基準については見解が分かれています。通説と実務は、訴状に表示されたところに従って決める表示説を採り、しかも当事者欄の記載だけで機械的に決めるのではなく、請求の趣旨や原因を含む訴状全体から合理的に解釈します(実質的表示説)。基準がはっきりしていて、訴状を送達する時点で誰に送ればよいかが決まるからです。これに対し、原告の意思を基準にする意思説は、意思が外からは見えないうえ誰の意思を見るのかが決まらないと批判され、当事者として行動した者を当事者とする行動説は、代理人や使者が動く場合に誰が行動したのか曖昧になると批判されます。さらに、これから手続を進める場面(行為規範)では訴状の表示で形式的に決め、手続が進んだ後に振り返る場面(評価規範)では、紛争解決に有効な者で、かつ訴訟追行の機会が与えられていた者を当事者と評価するという規範分類説も有力です。
- 表示説訴状の表示で決めます。通説は訴状全体の記載から解釈する実質的表示説です
- 意思説原告などの意思で決めます。誰のどういう意思を基準にするかが決まらないと批判されます
- 行動説当事者として行動した者を当事者とします。行動の主体が曖昧になると批判されます
- 規範分類説手続を進める場面は訴状の表示で決め、済んだ手続を評価する場面は紛争解決への有効性と手続保障の有無で決めます
氏名冒用訴訟では、被冒用者に判決の効力が及ぶかどうかで、再審の訴えが必要かどうかが分かれます
他人の名前を勝手に使って訴訟をした場合、表示説によれば訴状に表示された被冒用者が当事者になります。そうすると冒用者の訴訟行為は無権代理人の行為と同じに扱われ、被冒用者が追認しなければ訴えは却下されます。気づかれずに判決が確定したときは、被冒用者は代理権の欠缺を理由とする再審の訴え(338条1項3号)や上訴の追完で判決を取り消してもらうことになります。判例は、被告側で委任状を偽造して被冒用者名義で弁護士を選任し応訴させた事案で、被冒用者が当事者となって判決の効力を受けるから再審の訴えができるとしました(大判昭和10年10月28日)。他方で、原告側の冒用について、被冒用者は前訴の当事者ではなく判決の効力は及ばないから、再審を経ずに同じ訴えを起こせるとした判例もあります(大判昭和2年2月3日)。二つの判例は、被冒用者に手続保障がなかったことを前提に、どちらの処理が被冒用者の救済になるかを考えたものと説明されています。
訴え提起前に死亡していた者を被告とした訴えで、相続人を実質上の被告として表示の訂正を認めた判例があります
表示説を貫くと、訴状送達の時点で被告として表示された者が死亡していれば、当事者が実在しないので訴えは不適法となり、気づかずに判決が出てもその判決は無効です。しかし判例は、訴え提起前に被告が死亡して相続が生じていた事案で、本件の実質上の被告は相続人であり、訴状は表示を誤ったにすぎないとして、第一審に差し戻して表示を相続人に訂正させるべきだとしました(大判昭和11年3月11日)。訴えを却下すると原告は再訴の手数料や時効の点で不利益を受けるうえ、相続人の法定代理人が訴状を受け取っていて手続に関わる機会もあったからです。原告側でも、訴訟委任をした直後に本人が死亡し、それを知らずに弁護士が訴えを提起した事案で、訴訟代理権の不消滅(58条)と中断・受継(124条1項1号)の規定を類推適用して、訴えは適法であり相続人が訴訟を承継したとした判例があります(最判昭和51年3月15日)。
表示の訂正は当事者の同一性を保ったまま表記を直すことであり、同一性がなければ任意的当事者変更になります
訴状の当事者の書き方が誤っていたので直すのが表示の訂正で、当事者そのものは変わりません。これに対し、訴えを別の人に向け直すのは任意的当事者変更で、当事者が入れ替わります。どちらに当たるかは、訂正の前後で当事者の同一性があるかで決まり、その判断の前提として、もとの訴状で誰が当事者と確定されていたかが問題になります。法人格否認の法理とのかかわりでは、会社が債務を免れるために商号を変更し、旧商号と同じ商号で代表者・本店・従業員も同じ新会社を設立した事案で、判例は、新会社の設立は会社制度の濫用であり、会社は信義則上、新旧両会社が別人格であることを主張できないとして、新会社が控訴審でした自白の撤回を許さず、旧会社の債務について責任を負うとしました(最判昭和48年10月26日)。なお、前の訴訟の判決の既判力や執行力が法人格否認を理由に新会社へ広がるかは別の問題で、判例はこれを否定しています。
民事訴訟法134条2項
訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。一 当事者及び法定代理人 二 請求の趣旨及び原因
最判昭和48年10月26日
会社は、取引の相手方に対し、信義則上、新旧両会社が別人格であることを主張できず
論文ではこう使う
論文では、まず形式的当事者概念を確認し、当事者は訴状の記載全体から合理的に解釈して決めるという基準(実質的表示説)を立てます。そのうえで、氏名冒用や死者名義のように表示どおりに扱うと不当な結論になる事案では、手続がどこまで進んだか、被冒用者や相続人に訴訟追行の機会があったか、訴えを却下すると原告にどんな不利益が出るかを拾い、表示の訂正で足りるか、無権代理として扱って再審や上訴の追完で救済するか、信義則で無効の主張を封じるかを論じます。規範分類説に立つなら、行為規範と評価規範を分けて書くと構成が明確になります。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。