訴状の必要的記載事項と請求の特定(134条・規則53条・簡裁の紛争の要点)とは
そじょうのひつようてききさいじこうとせいきゅうのとくてい
訴状の必要的記載事項とは、訴状に必ず書かなければならない事項で、当事者及び法定代理人と、請求の趣旨及び原因をいいます(134条2項)。請求の原因は請求を特定するのに必要な事実をいい、請求の趣旨と合わせて訴訟物を他と区別できる程度に特定すれば足ります。
裁判所に訴えるときは、訴状という書面を出します。訴状には、誰が誰を訴えるのか、どんな判決がほしいのか、それはどの権利についての請求なのかを書かなければなりません。これが欠けていると、被告は何に反論すればよいか分からず、裁判所もどこまで判断すればよいか決められないからです。他方で、勝つために必要な事実まで全部そろえていなくても、請求が特定されていれば訴状としては足ります。足りない主張は、審理の中で補えばよいのです。
訴状の必要的記載事項は、当事者・法定代理人と、請求の趣旨及び原因です
訴えの提起は訴状を裁判所に提出してしなければならず(134条1項)、訴状には、当事者及び法定代理人と、請求の趣旨及び原因を記載しなければなりません(同条2項)。これを訴状の必要的記載事項といい、欠けていれば裁判長の補正命令と訴状却下の対象になります(137条)。法人の代表者は法定代理人に関する規定が準用されるので(37条)、株式会社が当事者なら代表者の記載も必要的記載事項です。「株式会社の代表者の記載は訴状の必要的記載事項であり,これを欠く場合には,補正されない限り,訴状が却下される」という肢は正しいです。民事訴訟規則は、請求の原因を「請求を特定するのに必要な事実」と定めています(規則53条1項)。請求の趣旨は原告が求める判決の結論部分で、請求の原因と合わせて訴訟物を他の権利と区別できる程度に特定します。
金銭の支払を求めるときは、請求の趣旨に具体的な金額を書かなければなりません
損害額の算定が難しい損害賠償や慰謝料の請求でも、請求の趣旨に「被告は、原告に対し、裁判所が相当と認める金額を支払え。」と書くことは許されません。判例は、訴訟物が金銭債権であれば必ず金額を一定して範囲を明らかにすることを要し、最終的に一定の金額を表示しなければ訴えは不適法として却下すべきだとしました(最判昭和27年12月25日)。金額が分からなければ、被告はどこまで負けるか分からない不安定な地位に置かれ、和解の交渉もできないからです。「請求の趣旨に具体的金額を記載することに代え,裁判所が相当と認める金額の支払を求める旨の記載をすることができる」という肢と、慰謝料の請求で「裁判所が相当と認める金額を支払え。」と記載すれば足りるとする肢は誤りです。
請求の原因は請求を特定すれば足り、請求を理由付ける事実が不足していても補正命令の対象になりません
請求を特定するのに必要な事実と、請求を理由付ける事実は区別されます。貸金返還請求なら、契約の当事者・貸付日・貸付金額を書けば、どの消費貸借に基づく請求かは特定できます。弁済期の合意やその到来は、請求を認めてもらうには必要でも、請求の特定には要りません。「弁済期の合意や弁済期の到来の事実の記載がなくても,契約当事者,貸付日及び貸付金額を記載することによって請求が特定されれば,補正を命じた上での訴状却下命令をすることはできない」という肢は正しいです。同じく、「請求を理由付ける事実の記載が不足しているときは,裁判長は,当該訴状の補正を命じなければならない」という肢は誤りです。100万円の貸金のうち70万円の弁済を受けて残り30万円を請求する場合も、30万円を請求する訴訟物はそれで特定されるので、弁済の事実を書く必要はありません。「請求を特定するために,訴状において,70万円の弁済を受けたとの事実を記載しなければならない」という肢は誤りです。確認の訴えでは、請求の趣旨に確認すべき権利関係が示されるので、所有権確認なら取得原因を書かなくても特定に欠けません。「請求の原因欄に甲土地の所有権の取得原因事実の記載がなくても,そのことは訴状の補正を命じる理由にはならない」という肢は正しいです。
規則は請求を理由付ける事実や重要な間接事実・証拠の記載も求めますが、欠けても訴状は不適法になりません
民事訴訟規則は、訴状に、請求を理由付ける事実を具体的に記載し、立証を要する事由ごとに、その事実に関連する事実で重要なもの(間接事実)と証拠を記載しなければならないと定めています(規則53条1項)。最初の期日から中身のある審理をするためです。「訴状には,立証を要する事由ごとに,当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければならない」という肢は正しいです。ただし、これらは訴訟が始まってから主張してもよいので、欠けていても訴状が不適法になるわけではありません。もっとも、請求を理由付ける事実の主張がないまま被告が欠席しても、擬制自白(159条3項・1項)が成り立つのは原告が主張した事実だけなので、主張自体が足りない請求を直ちに認容することはできません。「請求を理由付ける事実の記載を欠く訴状の送達を受けた被告が,答弁書その他の準備書面を提出せず,口頭弁論期日に出頭しない場合には,裁判所は,直ちに原告の請求を認容する判決をすることができる」という肢は誤りです。
簡易裁判所では、口頭で訴えを起こせ、請求の原因に代えて紛争の要点を明らかにすれば足ります
簡易裁判所は、少額で身近な事件を本人でも起こせるように、訴え提起の方式を軽くしています。訴えは口頭で提起することができ(271条)、訴えの提起では請求の原因に代えて紛争の要点を明らかにすれば足ります(272条)。「訴えは,口頭で提起することができる」「訴えの提起においては,請求の原因に代えて,紛争の要点を明らかにすれば足りる」という肢は正しいです。272条は口頭で訴えるときに限らないので、簡易裁判所に訴状を出して訴える場合も紛争の要点で足ります。「訴状を提出して訴えを提起する場合には,紛争の要点を明らかにすることで請求の原因に代えることはできない」という肢は誤りです。簡易裁判所の手続の特則は「簡易裁判所の訴訟手続の特則」で扱います。なお、差止請求の特定について、新幹線の騒音・振動を一定の数値を超えて居住敷地内に侵入させてはならないという抽象的な不作為を求める請求も、間接強制で実現できるから特定に欠けないとした裁判例があります(名古屋高判昭和60年4月12日)。
- 必要的記載事項(134条2項)当事者・法定代理人、請求の趣旨及び原因です。欠ければ補正命令と訴状却下の対象です
- 請求の原因(規則53条1項)請求を特定するのに必要な事実をいいます
- 請求を理由付ける事実・重要な間接事実・証拠(規則53条1項)記載すべきものですが、欠けても訴状は不適法になりません
- 簡易裁判所(271条・272条)口頭で訴えを起こせ、請求の原因に代えて紛争の要点で足ります
民事訴訟法134条1項
訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。
民事訴訟法134条2項
訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。一 当事者及び法定代理人 二 請求の趣旨及び原因
民事訴訟法272条
訴えの提起においては、請求の原因に代えて、紛争の要点を明らかにすれば足りる。
論文ではこう使う
論文では、請求の特定は、差止請求や将来給付のように請求の趣旨が抽象的になる場面で論じます。請求の趣旨と原因で訴訟物を他と識別できれば足りるという識別の基準を示し、抽象的不作為を求める請求でも、被告がとるべき手段の選択を被告に委ねてよく間接強制で執行できるので特定に欠けない、と当てはめます。金銭請求では金額の明示が必要であること(最判昭和27年12月25日)を対比に置きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。