筆界(境界)確定の訴えとは
ひっかいかくていのうったえ
筆界(境界)確定の訴えとは、相隣接する土地の筆界(登記された一筆の土地の範囲を区画する公法上の境界)が不明であったり争われていたりする場合に、裁判によって新たにその筆界を定めることを求める訴えです。境界確定の訴えとも呼ばれ、判例は土地所有権の範囲の確認ではない形式的形成訴訟としています。
隣の家との間の境目がどこか分からなくなったとき、登記簿上の土地と土地の境目(筆界)を裁判所に引いてもらうのが筆界確定の訴えです。筆界は、土地が登記されたときに公に決まった線で、隣人どうしが話し合って動かせるものではありません。そのため裁判所は、当事者の言い分や合意に縛られずに、資料から最も妥当な線を自分で引きます。争われているのが土地の所有権の範囲ではなく公の線であることが、この訴えの特殊な扱いを生んでいます。
筆界確定の訴えは、所有権の範囲ではなく公法上の筆界を裁判で新たに定める訴えです
判例は、境界確定の訴えは、隣接する土地の境界が事実上不明なため争いがある場合に、裁判によって新たにその境界を確定することを求める訴えであって、土地所有権の範囲の確認を目的とするものではないとしています(最判昭和43年2月22日)。この事件では、被告が係争部分を時効取得したと主張しましたが、時効取得によって筆界が動くわけではないので、時効取得は筆界の確定とは無関係であり、所有権を主張したいなら別に所有権確認の訴えを起こすべきだとされました。民事訴訟法には正面から定めた規定がなく、訴訟の慣行として認められてきた訴えで、判例・通説はこれを形式的形成訴訟と位置づけます。現在は、不動産登記法の筆界特定制度(筆界特定登記官が筆界を特定する手続)があり、その結果に不服があれば筆界確定の訴えで争うことになります。
裁判所は当事者の主張に拘束されず、証拠で筆界が分からなくても請求を棄却できません
筆界は当事者が処分できないので、処分権主義(246条)は働きません。原告は請求の趣旨で特定の線を示す必要はなく、隣接する土地相互の境界が不明であるか争いがあることを主張すれば足ります(最判昭和41年5月20日)。「原告は,隣接する両土地の筆界を確定する旨の判決を求めるだけでは足りず,特定の筆界を明示しなければならない」という肢は誤りです。裁判所は、客観的な筆界が分かればそれにより、分からなければ常識に照らして最も妥当な線を定めるべきで、その線が当事者の主張より有利か不利かは問いません(最判昭和38年10月15日)。原告の主張より原告に有利な線を引いても246条に反しないので、「所有権確認訴訟では,原告の主張する所有権の範囲より原告に有利な内容の判決をすることはできないが,筆界(境界)確定訴訟では,原告の主張する筆界(境界)より原告に有利な内容の判決をすることはできる」という肢は正しいです。また、原告の主張する線が正しくないと認めても請求を棄却するのではなく、自ら正当と認める線を定めなければなりません(大連判大正12年6月2日)。棄却すれば筆界が不明のまま残り、訴えの目的を果たせないからです。「証拠上筆界が明らかにならなかった場合には,裁判所は,請求棄却判決をする」「境界確定訴訟において,裁判所は,原告の請求を棄却するとの判決をすることができる」という肢は誤りで、「証拠等により特定の筆界を認定できない場合でも請求を棄却することは許されず」とする肢は正しいです。
控訴審でも不利益変更禁止の原則は働かず、控訴した側にさらに不利な線を引けます
通常の訴訟では、控訴審は不服申立ての限度でしか第一審判決を変更できず(304条)、控訴した当事者に第一審より不利な判決はできません。しかし判例は、筆界確定の訴えでは、控訴裁判所が第一審の定めた線を正当でないと認めたときは、自ら正当とする線を定めるべきで、その結果が控訴人に不利で附帯控訴をしない被控訴人に有利になってもかまわず、不利益変更禁止の原則の適用はないとしました(最判昭和38年10月15日)。「筆界(境界)確定の訴えの控訴審においては,不利益変更禁止の原則の適用はない」という肢と、「控訴裁判所は,第一審判決を変更して,第一審判決が定めた筆界よりも更に控訴人にとって不利な筆界を定めることができる」という肢は正しいです。これに対し、「不利益変更禁止の原則により,控訴審裁判所は,第一審判決を第一審原告に有利に変更することはできない」という肢と、「控訴裁判所は,不服申立ての限度においてのみ,第一審判決の取消し又は変更をすることができる」という肢は誤りです。
当事者が筆界について合意しても裁判所は拘束されず、和解や認諾で筆界を定めることもできません
筆界は当事者の合意で変更・処分できないので、相隣者が境界について合意しても、それは客観的な筆界を判断する資料の一つになるだけで、裁判所は証拠によってこれと異なる線を筆界と認定できます(最判昭和31年12月28日、最判昭和42年12月26日)。「相隣者間で筆界につき合意が成立しても,裁判所は,その合意と異なる位置にある線を筆界と定めることができる」という肢は正しく、「両当事者が隣接する土地の間にある溝の中央線を筆界とする旨を合意した場合には,裁判所は当該合意に従って筆界(境界)を定めなければならない」という肢は誤りです。同じ理由で、筆界を定める効果を持つ訴訟上の和解はできず、被告が請求を認諾しても訴訟は終わりません。「筆界(境界)確定の訴えにおいて,筆界を定める効果を有する内容の和解をすることはできない」という肢は正しく、証拠調べで心証が一致すれば「認諾により訴訟を終了させることができる」とする肢は誤りです。所有権確認訴訟では当事者が所有権を処分できるので和解で範囲を定められる点と対照的で、「所有権確認訴訟では,裁判上の和解により土地所有権の範囲を定めることができるが,筆界(境界)確定訴訟では,裁判上の和解により筆界(境界)を定めることができない」という肢は正しいです。また、筆界の確定は所有権に基づく明渡請求の先決関係に立たないので、明渡請求訴訟の中で筆界確定を求める中間確認の訴えは不適法です(最判昭和57年12月2日)。土地所有権の確認なら中間確認の訴えにできるので、これを対比した肢と、筆界確定の追加的な訴えは「中間確認の訴えには当たらない」とする肢は正しいです。
- 請求の趣旨所有権確認は範囲を特定します。筆界確定は特定の線を示さなくてよいです
- 申立てへの拘束所有権確認は原告の主張より有利な判決をできません。筆界確定は有利な線も引けます
- 和解・認諾所有権確認はできます。筆界確定は筆界を定める和解も認諾もできません
- 中間確認の訴え所有権確認は明渡請求の先決関係としてできます。筆界確定はできません
- 当事者適格どちらも相隣接する土地の所有者です
当事者適格は相隣接する土地の所有者にあり、共有地なら共有者全員が当事者になります
判例は、相隣接する土地の各所有者が、境界を確定することについて最も密接な利害を持つ者として当事者になるとしています(最判平成7年3月7日)。登記名義人であることや、土地の賃借人であることでは足りません。「筆界(境界)確定訴訟では,相隣地の各登記名義人が当事者適格を有する」という肢は誤りで、「争いのある筆界を挟んで相隣接する土地の各所有者は,筆界確定の訴えの当事者適格を有する」という肢は正しいです。被告が隣地の賃借人にすぎなければ被告適格を欠くので、「Yが筆界に争いのある隣接土地の賃借人である場合には,Xの訴えが被告適格を欠くものとして却下されることはない」という肢は誤りです。同じ判決は、甲地のうち筆界の全部に接する部分を乙地の所有者が時効取得しても、両地の所有者が境界に争いのある隣接地の所有者どうしであることに変わりはなく、時効取得した部分を分筆して登記するためにも筆界の確定が必要だとして、当事者適格は失われないとしました。「Yが甲地のうち筆界の全部に接する部分を時効取得したときには,…Xは原告適格を喪失する」という肢と、同じ事案で「原告は当事者適格を失う」とする肢は誤りです。隣地が共有のときは、筆界は共有者全員について合一に確定すべきものなので、共有者全員を当事者とする固有必要的共同訴訟になります(最判昭和46年12月9日)。「必ず共有者Y1及びY2の両者を被告としなければならない」という肢は正しいです。共有者の一部が提訴に同調しない場合の扱いは「固有必要的共同訴訟の成否」で扱います。
民事訴訟法246条
裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。
民事訴訟法304条
第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができる。
論文ではこう使う
論文では、筆界確定の訴えを形式的形成訴訟の典型として使います。まず、公法上の筆界を新たに定める訴えであって所有権の範囲の確認ではない(最判昭和43年2月22日)という性質を示し、そこから、処分権主義が働かないこと(特定の線の主張は不要・主張に拘束されない・請求棄却はできない・不利益変更禁止の原則の適用がない)、和解・認諾・自白の拘束力が否定されることを導きます。当事者適格は相隣接する土地の所有者で、時効取得があっても失われないこと(最判平成7年3月7日)を、分筆登記の前提として筆界の確定が要るという理由とともに書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。