任意的当事者変更とは
にんいてきとうじしゃへんこう
任意的当事者変更とは、訴訟係属後に、実体関係の変動がないのに、原告が最初の被告以外の者に訴えを向け変え、又は最初の原告以外の者が原告に代わって訴えを提起することです。当事者に同一性がある表示の訂正や、実体関係の変動による訴訟承継とは区別されます。
会社に代金を請求するつもりで、うっかり社長個人を被告にして訴えてしまったとします。訴状の名前の書き間違いなら直せば済みますが、社長個人と会社は別の人なので、被告を入れ替えることになります。一から訴え直すと、手数料がかかり、それまでの審理も使えなくなります。そこで訴訟の途中で当事者を別の人に入れ替えることを認め、それまでの審理をどこまで生かせるかが議論されています。これが任意的当事者変更です。
任意的当事者変更は、実体関係に変動がないのに、同一性のない別の人に当事者を入れ替えることです
訴えの提起後に訴訟の当事者名が変わる場面は、実体関係に変動がない場合とある場合に分かれます。実体関係に変動がない場合のうち、訴訟上の当事者に同一性があるときは、誤記を直す表示の訂正にとどまります。同一性がないときが任意的当事者変更です。実体関係に変動がある場合は訴訟承継の問題で、相続や合併による当然承継と、係争物の譲渡による参加承継・引受承継があります。任意的当事者変更は、原告が被告とすべき者を誤った場合や、固有必要的共同訴訟で共同被告とすべき者の一部を落とした場合を補う場面で役立つとされます。民事訴訟法に定めはなく、要件と効果は解釈に委ねられています。
- 表示の訂正実体関係に変動がなく、当事者に同一性がある(誤記を直すだけ)
- 任意的当事者変更実体関係に変動がなく、当事者に同一性がない(別人に入れ替える)
- 当然承継相続・合併などの包括承継(中断と受継)
- 参加承継・引受承継訴訟の目的である権利義務の特定承継(49条〜51条)
通説は、任意的当事者変更を新当事者に対する新訴の提起と旧訴の取下げの複合とみています
かつては訴えの変更の一種とする見解もありましたが、現在は訴えの変更に当たらないことが当然とされています。従来の通説は、新しい当事者による又は新しい当事者に対する訴えの追加的な併合と、旧訴の取下げとが組み合わさったものとみる見解です。この見解では、旧訴の取下げには取下げの要件(261条2項の相手方の同意など)が要り、従来の訴訟の結果は原則として新当事者に及びません。もっとも、判例は訴えの主観的追加的併合を認めていないので(最判昭和62年7月17日)、この見解の前提との関係が問題になります。そこで、新当事者が旧当事者の訴訟追行の結果を追認すれば相手方は拒めない、旧当事者と新当事者の訴訟追行が実質的に同一視できる場合には新当事者は従来の結果を争えないとして、従来の結果をできるだけ生かそうとする修正説があります。これに対し、任意的当事者変更を一個の特殊な訴訟行為とみる見解もあります。
最高裁の立場はまだ示されておらず、実務では表示の訂正として扱うことが多いとされます
当事者を誤ったことは訴訟の早い段階で分かることが多く、実務では、関係者の同意を得たり送達をやり直したりしたうえで、表示の訂正として処理することが多いとされます。任意的当事者変更そのものについて最高裁の判断はまだなく、下級審の裁判例は変更を認める場面も結論もさまざまです。短答式試験でこの語を正面から問う肢は出ていません。当事者を誰とみるかの基準は当事者の確定の語で、追加的に共同被告を加える場面は主観的追加的併合の語で扱います。
民事訴訟法261条2項
訴えの取下げは、相手方が本案について準備書面を提出し、弁論準備手続において申述をし、又は口頭弁論をした後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。
論文ではこう使う
論文では、被告を取り違えた原告を救済できるかという形で問われます。まず当事者の確定の基準で、訴状の被告が誰と確定されるかを示し、同一性があれば表示の訂正で足りることを確認します。同一性がなければ任意的当事者変更の問題とし、新訴の提起と旧訴の取下げの複合とみる立場から、旧訴の取下げの要件と新訴の訴訟要件を検討します。そのうえで、旧被告と新被告が実質的に同一視できる関係(会社とその代表者など)や新被告が従来の手続に実質的に関与していた事情があれば、信義則や手続保障の観点から従来の訴訟の結果を新被告に及ぼせるかを論じます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。