人事訴訟の特則(職権探知・自白規定の不適用・処分権主義の制限・訴訟能力・検察官の被告適格)とは
じんじそしょうのとくそく
人事訴訟とは、婚姻の無効・取消し、離婚、認知、実親子関係の存否の確認、離縁などの身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴えで、家庭裁判所が扱います。人事訴訟の特則とは、身分関係が公益にかかわることから、人事訴訟法が民事訴訟法の弁論主義・処分権主義・訴訟能力などの規定を修正していることです。
夫婦が離婚するか、ある子が誰の子かといった身分関係は、当事者だけでなく家族や相続人、社会全体にかかわります。財産の争いのように「被告が認めたからそのとおり」「当事者が話し合ったからそれで決まり」とすると、真実と違う身分関係が誰に対しても通用してしまいます。そこで人事訴訟法は、裁判所が自ら真実を探る仕組みを置き、当事者の処分にも枠をはめています。一方で、本人の意思を尊重するため、訴訟能力は広く認めています。
人事訴訟は家庭裁判所が扱い、身分関係の公益性から弁論主義と処分権主義を修正する特則が置かれています
人事訴訟とは、婚姻の無効・取消し、離婚、協議上の離婚の無効・取消し、嫡出否認、認知、実親子関係の存否の確認、養子縁組の無効・取消し、離縁などの身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴えです(人事訴訟法2条)。人事訴訟は家庭裁判所の管轄に属し、離婚の訴えは当事者が普通裁判籍を有する地などを管轄する家庭裁判所の専属管轄です(同法4条1項)。地方裁判所には管轄がないので、離婚の訴えが地方裁判所に起こされたときは、管轄違いとして家庭裁判所に移送します(民事訴訟法16条1項)。却下するのではありません。「離婚の訴えが名古屋地方裁判所に提起された場合には、名古屋地方裁判所は、訴訟を名古屋家庭裁判所に移送することはできず、当該訴えを却下しなければならない」という肢は誤りです。人事訴訟の確定判決は、民事訴訟法115条1項にかかわらず第三者に対しても効力を有します(人事訴訟法24条1項)。対世効があるからこそ、判決の基礎となる事実を当事者の自白や処分に任せられないのです。
- 弁論主義の修正自白・擬制自白の規定を適用せず(人事訴訟法19条1項)、当事者が主張しない事実をしん酌し、職権で証拠調べができます(同法20条)
- 処分権主義の修正請求の放棄・認諾と和解の規定を適用しません(同法19条2項)。離婚・離縁の訴えは例外で、訴えの取下げはどの人事訴訟でもできます
- 訴訟能力の拡張未成年者・成年被後見人なども意思能力があれば自ら訴訟行為ができます(同法13条1項)
- 当事者の特則被告とすべき者が死亡しているときは検察官が被告になります(同法12条3項・42条1項)
- 併合・移送の特則人事訴訟と原因事実による損害賠償請求を一の訴えでできます(同法17条1項)。地裁から移送されたときは口頭弁論の併合が必要です(同法8条2項)
- 記録・公開の特則事実の調査部分の閲覧は裁判所の許可が要り(同法35条1項)、一定の要件で尋問の公開を停止できます(同法22条1項)
自白の規定は適用されず、裁判所は職権で事実を探知できますが、真偽不明になれば証明責任が働きます
人事訴訟では、民事訴訟法179条のうち裁判所において当事者が自白した事実に関する部分と、擬制自白の規定が適用されません(人事訴訟法19条1項)。被告が原告の主張する事実を認めても裁判所はそれに拘束されず、証拠調べの結果と異なる認定ができます。「Yが口頭弁論において,Xが主張した不貞行為の事実の存在を認めた場合であっても,裁判所は,証拠調べの結果,不貞行為の事実の存在は認められないとの判断をすることができる」という肢は正しいです。認知の訴えでも同じで、「被告が父子関係の存在の事実を認める旨の陳述をしたときは,裁判所は,その陳述に反する事実を認定することができない」という肢は誤りです。親子関係不存在確認の訴えも人事訴訟なので、「被告が,子の懐胎が可能である時期に両親が別居していたとの原告の主張を認める旨の陳述をしたときは,この事実につき裁判上の自白が成立する」という肢も誤りです。また裁判所は、当事者が主張しない事実をしん酌し、職権で証拠調べをすることができます(同法20条)。「裁判所は,人事訴訟においては,職権で,証拠調べをすることができる」という肢は正しいです。もっとも、職権で調べても事実の存否が分からないことはあり得ます。証明責任は真偽不明のときに裁判を可能にする仕組みなので、職権探知主義の下でも働きます。「当該事実が真偽不明であるという状況は生じないので,証明責任が働くことはない」という肢は誤りです。
請求の放棄・認諾と和解は離婚と離縁の訴えを除いてできませんが、訴えの取下げはどの人事訴訟でもできます
人事訴訟法19条2項は、人事訴訟における訴訟の目的について、請求の放棄・認諾の規定(民事訴訟法266条)と和解・放棄・認諾の調書の効力の規定(同法267条)を適用しないとしています。身分関係は当事者が自由に処分できないからです。婚姻無効確認の訴えには例外がないので、「婚姻無効確認の訴えにおいては,請求の認諾は許されない」という肢は正しいです。これに対し、民法が協議離婚・協議離縁を認めていることに合わせ、離婚の訴えでは和解と請求の放棄・認諾ができ(人事訴訟法37条1項)、離縁の訴えにも準用されます(同法44条)。ただし離婚の訴えの認諾は、附帯処分や親権者の指定の裁判を要しない場合に限られます(同法37条1項ただし書)。「XとYは,訴訟上の和解により離婚をすることができる」という肢も、「人事訴訟である離縁の訴えにおいても,請求の放棄及び認諾は許される」という肢も正しく、「離婚請求訴訟において,被告は,請求の認諾をすることができない」という肢は誤りです。他方、訴えの取下げ(民事訴訟法261条)は除外されていません。取下げは訴訟係属をさかのぼって消滅させるだけで、身分関係について何の判断も作り出さないからです。「処分権主義が制限される人事訴訟においては,訴えの取下げは許されない」という肢は誤りで、「実親子関係の不存在の確認の訴えについても,訴えを取り下げることができる」という肢は正しいです。
未成年者や成年被後見人も意思能力があれば自ら訴訟行為ができ、被告とすべき者が死亡しているときは検察官が被告になります
民事訴訟法31条は、未成年者と成年被後見人は法定代理人によらなければ訴訟行為をすることができないと定めますが、人事訴訟ではこの規定や民法の行為能力の規定が適用されません(人事訴訟法13条1項)。身分の変動には本人の意思をできる限り反映させるべきだからです。意思能力がある限り、未成年者も成年被後見人も法定代理人の代理や同意なしに有効に訴訟行為ができます。「未成年者は,人事訴訟においては,意思能力を有する限り,自ら訴訟行為をすることができる」という肢は正しく、「成年被後見人が意思能力のある状態で離婚の訴えを提起した場合,この訴え提起は無効であり,補正命令の対象となる」という肢は誤りです。成年被後見人が意思能力を欠く場合に備えて、成年後見人が成年被後見人のために訴え又は訴えられることができ、成年後見人が相手方のときは成年後見監督人がこれをします(同法14条)。これは本人が意思能力を欠く場合の補充の仕組みにすぎないので、「Yが成年被後見人であり,Xが成年後見人に選任されているときは,Yは,意思能力を有していても,特別代理人又は成年後見監督人によらなければ,訴訟行為をすることができない」という肢は誤りです。また、身分関係の当事者の一方が訴えるときは他方を被告としますが、被告とすべき者が死亡して存在しないときは検察官を被告とします(同法12条3項)。認知の訴えでも、父又は母が死亡した後は検察官が被告になるので(同法42条1項)、「認知の訴えにおいて,被告とすべき父が死亡している場合には,検察官をその訴えの被告としなければならない」という肢は正しいです。
損害賠償請求との併合・移送と、記録の閲覧・公開の停止にも特則があります
民事訴訟法136条は同種の訴訟手続による請求でなければ併合できないとしますが、人事訴訟法17条1項は、人事訴訟に係る請求とその原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求とを一の訴えですることを認め、家庭裁判所が損害賠償請求も審理できるとしています。「配偶者の不貞行為を理由として離婚の訴えを家庭裁判所に提起する場合には,原告は,被告に対する当該不貞行為による慰謝料請求を併合することができる」という肢も、「離婚の請求と,その離婚請求の原因である事実によって生じた損害の賠償請求とは,家庭裁判所に対する一の訴えですることができる」という肢も正しいです。損害賠償請求が地方裁判所に別に起こされたときは、地方裁判所は相当と認めれば申立てにより家庭裁判所に移送でき、移送を受けた家庭裁判所は口頭弁論の併合を命じなければなりません(同法8条1項・2項)。「移送を受けた家庭裁判所は,これらの訴訟に係る事件について口頭弁論の併合を命じなければならない」という肢は正しいです。訴訟記録のうち事実の調査に係る部分は、家庭の私生活や子の心情にかかわる情報を含むので、閲覧等は裁判所が許可したときに限りできます(同法35条1項)。「人事訴訟の訴訟記録中事実の調査に係る部分についての閲覧の請求は,裁判所が許可したときに限り,することができる」という肢は正しいです。尋問の公開を停止できる場合も定められていますが(同法22条1項)、要件がないのに公開を停止した違反は、公開主義の強い公益性から責問権の放棄・喪失で治癒されません。「その違反は,当事者の責問権の喪失によって治癒されるものではない」という肢は正しいです。
民事訴訟法31条
未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。
民事訴訟法136条
数個の請求は、同種の訴訟手続による場合に限り、一の訴えですることができる。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。