訴訟と非訟(非訟事件の裁判と公開・対審の保障)とは
そしょうとひしょう
訴訟とは、当事者が主張する権利義務の存否を、公開の法廷における対審と判決によって終局的に確定する手続です。非訟とは、権利義務の存在を前提に、裁判所が後見的な立場から裁量でその具体的内容を形成する手続で、非公開で職権により事実を調べ、決定(家事事件では審判)の形で裁判します。
夫婦の一方が家を出てしまい、もう一方が家庭裁判所に同居を求めたとします。どこで、いつから、どう暮らすかは法律に基準がなく、家庭の事情に合わせて裁判所が決めるしかありません。こうした裁量による形成は、公開の法廷で白黒をつける訴訟より、非公開で柔軟に進める非訟の手続に向いています。ただし、権利義務そのものがあるかどうかを最終的に決めるには、憲法が公開の対審と判決を求めています。
訴訟は権利義務の存否を公開の対審と判決で確定し、非訟は権利義務を前提に裁判所が裁量で中身を形成します
憲法82条1項は「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ」と定め、32条は裁判を受ける権利を保障しています。最大決昭和35年7月6日は、当事者の意思いかんにかかわらず終局的に事実を確定し、当事者の主張する権利義務の存否を確定する裁判を「純然たる訴訟事件」と呼び、これを公開の法廷における対審と判決によらずにすることは82条に違反し、32条の裁判を受ける権利も侵害するとしました。これに対し非訟事件は、権利義務の存在を前提に、その具体的な中身を裁判所が後見的な立場から合目的的に形成するもので、民事行政に近い性質をもちます。家事事件の手続は公開せず(家事事件手続法33条本文)、原告と被告を対立させる対審の構造をとらず、家庭裁判所は職権で事実の調査をし、申立てにより又は職権で必要な証拠調べをします(同法56条1項)。裁判の形式も判決ではなく決定で、家事事件では審判と呼びます。
- 訴訟事件公開の法廷で、対審の構造をとり、要件を定めた規定を当てはめて、判決で権利義務の存否を確定します
- 非訟事件非公開で、対審の構造をとらず、裁判所の裁量で具体的内容を形成し、決定(家事事件では審判)で裁判します。事実は職権で調べます
- 形式的形成訴訟共有物分割の訴えなどです。判決手続で公開・対審によりますが、分割の方法は裁判所の裁量に任され、実質は非訟事件に近い性質をもちます
夫婦の同居を命じる審判は、同居義務の存在を前提に時期・場所・態様を定めるもので、本質的に非訟事件の裁判です
最大決昭和40年6月30日は、旧家事審判法による夫婦同居の審判を非公開・決定の形式で行うことが憲法82条・32条に反するかが争われた事案で、次のように判断しました。夫婦の同居義務は、倫理的・道義的な要素を多く含むとはいえ法律上の実体的権利義務なので、その存否自体を終局的に確定するには公開の法廷における対審と判決によらなければなりません。しかし同居の審判は、同居義務の存在を前提として、同居の時期・場所・態様などの具体的内容を定め、必要に応じて給付を命じる処分にとどまります。民法752条は同居の時期・場所・態様について基準を定めていないので、家庭裁判所が後見的立場から裁量権を行使して具体的内容を形成する必要があり、このような裁判は本質的に非訟事件の裁判です。「夫婦の同居を命じる審判は,判例によれば,同居の時期,場所,態様等について具体的内容を定めるものとして,本質的に非訟事件の裁判である」という肢は正しいです。この審判は家事事件の手続で行われるので、「夫婦の同居を命じる審判の手続は,非公開である」という肢も、「夫婦の同居を命じる審判の手続においては,職権探知主義により審理が行われる」という肢も正しいです。現在、夫婦の同居に関する処分は家事事件手続法の別表第二の事件として審判で扱われています。
審判が確定しても、前提となる同居義務自体の存否は公開の法廷の訴えで争えます
同じ決定は、審判が確定した後はその形成的効力を争うことはできないが、前提となる同居義務等自体については公開の法廷における対審と判決を求める途が閉ざされているわけではないとしました。同居の審判は同居義務があるかどうかを確定したものではないので、同居義務がないと考える者は、別に訴えを起こしてその存否を判決で確定してもらうことができます。この途が残されていることが、非公開の審判を合憲とする理由の一部になっています。「判例によれば,同居の時期,場所,態様等について具体的内容を定める夫婦の同居を命じる審判の確定後は,もはや訴えにより同居義務自体の不存在の確認を求めることはできない」という肢は誤りです。
同居義務は性質上強制執行が許されないので、同居を命じる審判が確定しても強制執行で実現することはできません
民法414条1項ただし書は、債務の性質がこれを許さないときは履行の強制を請求できないと定めています。判例(大決昭和5年9月30日)は、夫婦の同居義務の履行は債務者が任意に履行しなければ目的を達しないものであり、性質上強制履行が許されず、間接強制の方法も許されないとしています。同居を力ずくで実現することは、夫婦の人格を尊重する理念に反するからです。したがって、同居を命じる審判が確定しても、その内容を強制執行で実現することはできません。「同居の時期,場所,態様等について具体的内容を定める夫婦の同居を命じる審判が確定すれば,強制執行によってその内容を実現することができる」という肢は誤りです。
共有物分割や筆界確定のように、訴訟の形をとりながら実質は非訟である訴えもあります
訴訟と非訟の区別は、手続の形と事件の実質が一致しない場面でも問われます。共有物分割の訴え(民法258条1項)は判決手続で審理されますが、どのように分けるかは裁判所の裁量に任され、原告が共有者である以上は請求を棄却することがありません。筆界確定の訴えも、裁判所は当事者の主張する境界線に拘束されずに筆界を定めます。こうした訴えは形式的形成訴訟と呼ばれ、実質は非訟事件ですが、利害の対立が大きいので判決手続によるものとされています。申立てに拘束されない点や請求棄却ができない点は、形式的形成訴訟と筆界確定の訴えの語で扱います。
憲法82条1項
裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
憲法32条
何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
民法414条1項
債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
最大決昭和40年6月30日
審判確定後は、審判の形成的効力については争いえないところであるが、その前提たる同居義務等自体については公開の法廷における対審及び判決を求める途が閉ざされているわけではない
論文ではこう使う
訴訟事件を非訟の手続で処理する立法の合憲性を論じるときは、まず憲法82条・32条が保障するのは「純然たる訴訟事件」、すなわち当事者の主張する権利義務の存否を終局的に確定する裁判であることを示します。次に、問題の手続が権利義務の存否自体を確定するものか、それとも権利義務の存在を前提にその具体的内容を裁量で形成するものかを、実体法の規定の仕方(基準が定められているか)から検討します。後者であれば非訟事件として非公開の手続で足りますが、前提となる権利義務の存否を公開の訴訟で争う途が残されていることを必ず指摘します。そのうえで、権利義務の確定と内容の形成は切り離せないという批判を踏まえ、迅速性・裁量性・プライバシー保護の必要から手続保障の程度を実質的に考える見解に触れると厚くなります。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。