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行政上の制裁・公表とは

ぎょうせいじょうのせいさい・こうひょう

行政法 その他の行為形式

行政上の制裁・公表とは、義務違反者の氏名や違反の事実などを行政が広く知らせることで、間接的に義務の履行を確保する仕組みです。国民に危険を知らせる情報提供としての公表と、違反者に不利益を与える制裁としての公表を区別します。

食中毒を出した飲食店の名前が役所のホームページに載ると、罰金を払わされたわけでもないのに客足は止まります。役所が事実を広く知らせるだけで、相手には強い制裁として働くのが公表です。もっとも、危ない商品を買わないよう国民に知らせる公表と、行政指導に従わない業者を名指しして従わせる公表とではねらいが違います。後者は相手の名誉や信用を狙って傷つけるので、法律や条例の根拠が要るかが問題になります。

役所の記者発表の場面。先生が大臣役(札「大臣」)で演台に立ち、左右に二枚の掲示。左の掲示「勧告に従わない事業者:○○株式会社」の前に業者の男性(札「勧告に従わない事業者」)がうつむいて立ち、掲示の上に札「制裁的公表:法律・条例の根拠が要る」

制裁を目的とする公表には法律や条例の根拠が必要ですが、情報提供としての公表には要りません

制裁的公表は相手方の名誉や信用を直接に損ないますから、侵害留保の考え方によれば法律又は条例の根拠を要します。もっとも、公表のすべてに根拠が要るわけではありません。危険の周知のような情報提供は、国民の生命や財産を守るために迅速に行う必要があり、行政の責務から当然に行い得るものと考えられています。裁判例も、公表が関係者に制裁などの法律上の不利益を課すことを予定したものでない場合には明示の法的根拠は必要ないとしています(東京高判平成15年5月21日)。したがって「行政庁による氏名の公表は,個人の名誉,信用等を毀損するおそれがあるから,行政庁は,法律の根拠がなければ公表することはできない」という肢は、公表一般について根拠を要求している点で誤りです。ある公表が制裁か情報提供かは、公表の対象が違反の事実か危険の事実か、公表の文言が非難を含むか、法令が公表を義務履行確保の手段として位置づけているかという機能から判断します。

  • 情報提供としての公表国民に危険や事実を知らせて自衛を促す。所掌事務の範囲内であれば個別の法律の根拠は要らない
  • 制裁的公表義務違反や不服従の事実と氏名を明らかにして事実上の制裁を加える。法律又は条例の根拠が要る

行政指導に従わないことを理由とする公表は、法令の根拠があれば32条2項に違反しません

行政手続法32条2項は、行政指導に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを禁じています。行政指導は相手方の任意の協力によってのみ実現されるものなので、従わない者に法律の根拠なく事実上の制裁を加えて任意性を失わせることを禁じる趣旨です。不服従を理由に制裁として公表することは、この不利益な取扱いに当たります。しかし、法律や条例が公表を予定している場合は別です。その場合の公表は行政指導に携わる者が独自の判断で加える制裁ではなく、法令に基づく独立の措置であって、32条2項違反の問題は生じません。「行政手続法第32条第2項は、行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならないと定めているが、法律上、相手方が行政指導に協力しないときに氏名等の公表を行うことができる旨の規定が存在する場合に、行政指導に協力しなかった相手方の氏名等の公表を行ったとしても、同項違反の問題は生じない」という肢は正しいです。これに対し「勧告の相手方がこれに従わなかったときに,その旨及びその勧告の内容を公表することは,行政指導に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いに当たるから,法令上の規定がある場合でも許されない」という肢は誤りです。国土利用計画法や大規模小売店舗立地法には、勧告に従わない者についてその旨と勧告の内容を公表できる定めが実際に置かれています。

県庁の場面。先生が知事役(札「知事」)で「勧告に従わない旨と勧告の内容を公表する(大規模小売店舗立地法)」と書いた法律の条文の紙を掲げ、向かいに大型店の経営者の男性(札「大型店の経営者」)が立っている。男性の吹き出し「行政指導に従わないから

公表の前に意見を述べる機会を与える義務は、行政手続法にはありません

公表は処分ではありませんから、行政手続法の不利益処分の手続、つまり聴聞や弁明の機会の規定は適用されません。条例が公表を定める場合も同じで、「条例の定めるところにより,行政指導の相手方が行政指導に従わなかった旨を公表する場合には,原則として,行政指導の相手方に意見を述べる機会を与えなければならない」という肢は誤りです。行政手続法には公表の前に意見陳述の機会を与えるべき旨の定めはありません。もっとも、これは立法論として弁明の機会が不要だという意味ではありません。事実上の不利益が大きく、いったん公表すれば回復が困難ですから、条例で公表を定める際には弁明の機会や事前の通知を置くことが望ましく、実際にそうした例も増えています。行政手続法上の義務があるかという問いと、望ましい制度設計かという問いは別の問いです。関連して、申請の取下げや内容の変更を求める行政指導について書面の交付を義務づける規定も行政手続法には置かれておらず、書面の交付は相手方から求められたときの義務です(35条3項)。

市役所の場面。先生が市長役(札「市長」)で机に座り、「公表の前の弁明の機会」と書いたカードを二枚並べている。左のカードには札「行政手続法:定めなし(公表は処分ではない)」、右のカードには札「条例で置くのが望ましい:回復が困難」。向かいの事業

複数の者に行政指導をするなら、指針を定めて公表しなければなりません

同じ行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、あらかじめ、事案に応じ、行政指導指針を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければなりません(行政手続法36条)。これは公表が義務づけられる場面です。一斉に行われる行政指導は事実上の強制力を伴いやすく、内容が見えないと恣意的な運用を招くので、あらかじめ内容を特定して公表させ、公平性と透明性を確保する趣旨です。「国土交通大臣が,全国の一級建築士に対し,その業務の適正な実施を確保するための行政指導をしようとするときは,あらかじめ,事案に応じ,行政指導指針を定め,かつ,行政上特別の支障がない限り,これを公表しなければならない」という肢は正しいです。建築確認を留保して行う行政指導についても、「その指針があらかじめ定められなければならず,行政上の支障がない限り,当該指針は公表されなければならない」という肢は正しいです。行政指導指針は命令等に当たるので(2条8号ニ)、定めるには意見公募手続も必要です(39条1項)。

公表には原則として処分性が認められず、争う手段は差止めの民事訴訟や国家賠償になります

公表は事実行為であって、相手方の権利義務を直接に形成したり範囲を確定したりするものではありません。ですから抗告訴訟の対象となる処分には当たらないのが原則です。争う手段は、公表の差止めを求める民事訴訟や当事者訴訟、公表がされた後であれば国家賠償請求ということになります。ただし、法令が公表に営業の制限などの法的効果を結びつけている場合や、公表に従わないと相当程度の確実さをもって不利益な処分を受けることになる場合には、処分性が認められる余地があります。病院開設中止の勧告について処分性を認めた判例の発想を応用する場面です。

事実に反する公表や相当性を欠く公表は、国家賠償の対象になります

公表の内容が事実に反していたり、相当性を欠く方法で行われたりした場合には、名誉や信用の侵害として国家賠償法1条1項の責任が問題になります。職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたかが判断の中心で、公表の前にどの程度の事実確認をしたか、公表の必要性と対象者の不利益との均衡がとれているか、公表の範囲や方法が目的に照らして相当かが検討されます。真実でない事実を公表した場合でも、真実と信じるにつき相当の理由があるときは違法性が否定され得るという考え方も用いられます。公表を受けた者の救済としては、損害賠償に加えて、訂正の公表を求めることができるかという問題もありますが、一般的な請求権は認められていません。訂正の公表を求める請求が認められるとすれば、それは公表の根拠法令が予定している場合か、名誉回復の適当な処分として民法723条の趣旨を及ぼす余地があるかという形で論じられます。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、前に事業者の男性(札「公表された事業者」)が「事実に反する公表で信用を失った」と書いた訴状を持って立っている。机の上に「公表」と書いた紙と「事実確認の記録」と書いた空のファイル。先生の

行政手続法 第32条 第2項

行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

論文ではこう使う

論文では、まず当該公表が制裁的公表か情報提供かを機能から判定し、制裁的であれば法律又は条例の根拠を要求します。根拠がある場合は、行政手続法32条2項の不利益な取扱いには当たらないと整理し、根拠がない場合は同項違反として違法を導きます。次に手続です。公表は処分でないため行政手続法の事前手続は及びませんが、不利益の大きさと回復の困難さから、条例が弁明の機会を定めていればその遵守を求め、定めがなくても適正手続の観点から事実確認の程度を問題にします。争訟方法は、公表前であれば差止めを求める訴えの可否を処分性の有無から検討し、処分性が否定されるなら民事の差止訴訟や公法上の当事者訴訟を選びます。公表後は国家賠償で、事実確認の懈怠と方法の相当性を当てはめます。

試験ではこう問われる

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