法律による行政の原理(法律の留保)とは
ほうりつによるぎょうせいのげんり
法律による行政の原理とは、行政活動が国会の制定した法律に従って行われなければならないという原則です。行政活動は法律に違反してはならないという法律の優位と、一定の行政活動には法律の根拠がなければならないという法律の留保を内容とします。
市役所が違法な建物の除却を命じたり、税金を課したりできるのは、そうしてよいと法律に書いてあるからです。反対に、法律が禁じていることを役所が勝手にすることはできません。役所の仕事は国民の権利や財産に直接触れるので、国民の代表である国会が作った法律で縛りをかけておく必要があるからです。何をするにも法律の根拠が要るのか、権利を侵害する場面だけでよいのかが、法律の留保の範囲の問題です。
法律の優位は、行政の活動が法律に違反してはならないという原則です
法律による行政の原理の内容は、法律の法規創造力、法律の優位、法律の留保の三つに分けられます。法律の法規創造力は、国民の権利義務に関する一般的な規律である法規を創り出せるのは法律だけだという原則です。法律の優位は、行政の活動が法律に違反してはならないという原則で、すべての行政活動に及びます。法律の優位は、行政の作用と法律の関係の問題であり、法律と条例のような法形式どうしの優劣の問題ではありません。条例は地方公共団体の議会が制定する自主法であって、行政の作用ではないからです。「法律による行政の原理の内容として、法律の優位原則によれば、法律の定めに対する違反が存在する場合には、法律の効力が条例に優越することになっています。法律に抵触する限りで、市の条例は、無効になります」という肢は誤りです。法律に反する条例が無効であること自体は正しいのですが、それは憲法94条と地方自治法14条1項の「法律の範囲内」の問題であって、法律の優位の原則が導く結論ではありません。条例が法律に反するかどうかは、最大判昭和50年9月10日(徳島市公安条例事件)の示した枠組みで判断します。対象事項と規定文言の対比にとどまらず、それぞれの趣旨・目的・内容・効果を比較して、両者の間に矛盾牴触があるかによって決します。
侵害留保説は、権利を侵害し義務を課す行政作用に法律の根拠を要求します
法律の留保は、一定の行政活動は法律の根拠がなければすることができないという原則で、どこまでの活動に根拠を要するかに争いがあります。通説・実務は侵害留保説をとります。国民の自由と財産を侵す作用には、国民の代表である国会の承認という民主的な正統性が特に必要だからです。もっとも、留保の範囲をめぐる各説は、あくまで法律の根拠がどこまで必要かという議論であって、国会が決めるべき事柄の範囲を論じるものではありません。「法律の留保原則の中でも、侵害留保の考え方によれば、国の将来の基本的な政策について、その在り方を規定するような事項は、国会の議決によるべきであって、行政に委ねることはできないことになっています」という肢は誤りです。基本的政策を国会が決めるべきだという主張は重要事項留保説の発想で、侵害留保説からは出てきません。国の基本的な政策のあり方を定めることは、国民の権利を侵害し義務を課す作用そのものではないからです。逆に、侵害的な内容であれば、行為形式が処分でなくても根拠が要るのかが問われます。「国又は地方公共団体が、相手方に新たな義務を課することを内容とする契約を当該相手方と締結するに当たっては、法律による行政の原理ないし侵害留保原則の見地から、原則として、当該義務を課する法令上の根拠があることを要する」という肢は誤りです。契約によって相手方に義務が生じるのは相手方自身の同意に基づくもので、行政が一方的に義務を課す場面ではないため、根拠規範は不要とされます。最判平成21年7月10日は、産業廃棄物処分業者が公害防止協定で処分場を将来廃止する旨を約束することは処分業者自身の自由な判断で行えることであり、廃棄物処理法に抵触しないとしました。公害防止協定のように、法律又は条例の根拠がなくても契約で義務を課すことができます。
- 法律の法規創造力国民の権利義務に関する一般的な規律である法規を創り出せるのは法律だけであるという原則
- 法律の優位行政の活動は法律に違反してはならない。すべての行政活動に及ぶ
- 法律の留保一定の行政活動は法律の根拠がなければすることができない。どこまで及ぶかに争いがある
- 侵害留保説国民の権利を侵害し、又は義務を課す作用に根拠を要する。通説・実務
- 全部留保説すべての行政活動に根拠を要する
- 権力留保説権力的な行政活動には、侵害的か授益的かを問わず根拠を要する
- 重要事項留保説国民の基本的人権にかかわる重要な事項について根拠を要する
必要なのは作用法上の根拠規範で、組織規範では足りません
法律の根拠といっても、行政機関の任務や所掌事務を定めるだけの規定では足りません。行政活動に関する法律は、権限の発動を基礎づける根拠規範、権限の行使の仕方を縛る規制規範、機関の設置や所掌事務を定める組織規範に分けられます。侵害的作用に要求されるのは、要件と効果を定めて権限の発動を基礎づける作用法上の根拠規範です。国家行政組織法や各省の設置法が「〇〇に関する事務をつかさどる」と定めていても、それだけで国民の権利義務を一方的に動かす権能は生まれません。組織規範は、その行政機関が何を担当するかを行政の内部で画するにとどまるからです。「行政活動により国民の権利を侵害し、又は自由を制限するには、その根拠として法律が必要となるが、そのための法律としては、行政機関の任務又は所掌事務を定める行政の組織規範があれば足りる」という肢は誤りです。なお、任務規定は権限の外枠にはなるので、行政指導のように相手方の任意の協力を求めるにとどまる作用は、所掌事務の範囲内であれば根拠規範がなくてもできます。
通達で法令の解釈を変えても、課税の根拠は法律にあります
行政の内部規範である通達は、上級行政機関が下級行政機関の法解釈を統一するために発するもので、法規ではありません。したがって、通達で国民に新たな義務を課すことはできません。もっとも、通達によって従来の解釈が改められた結果として課税が行われたとしても、課税の根拠は通達ではなく法律にあります。「過去約10年間にわたり物品税が賦課されていなかったパチンコ球遊器につき、物品税法上の課税対象物品に当たる旨の通達が発せられたために、税務署長が法令の解釈を変更して行った物品税賦課処分は、法律の改正又は制定によらずに通達に基づいて国民に新たな不利益を課すものであるから、法律の留保原則に違反する」という肢は誤りです。最判昭和33年3月28日(パチンコ球遊器事件)は、本件の課税がたまたま通達を機縁として行われたものであっても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、課税処分は法の根拠に基づく処分と解するに妨げがないとしました。長年課税されていなかったという運用の実態があっても、法律上は課税対象に当たる物品であれば、納税義務を課す根拠は物品税法そのものにあるからです。通達の性質は通達・訓令・告示で扱います。
授益的な活動には原則として法律の根拠は要りませんが、侵害面には要ります
侵害留保説からは、補助金の交付のような給付行政には根拠規範は要りません。相手方に金銭を給付する行為は国民の権利を制限し義務を課すものではなく、予算という形で議会の民主的統制も及んでいるからです。「国は、国の補助金を交付するための根拠として、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律を定めているのであり、地方公共団体は、同法に相当する条例を制定しない限り、補助金を交付することができない」という肢は誤りです。同法は1条が示すとおり、交付の申請、交付決定、是正措置、返還といった手続を定めて予算執行の適正化を図る法律であって、国に補助金を交付する権限を与える根拠規範ではありません。地方公共団体についても、地方自治法232条の2が公益上必要がある場合に寄附又は補助をすることができると定めており、条例の制定は補助金交付の要件になっていません。他方、いったん法律が定めた負担を行政が軽くする場合には、法律の内容を変えることになるので根拠が要ります。「法律に定められた租税を行政機関が減免する措置をとるためには、法律の根拠が必要である」という肢は正しいです。租税の減免は、相手方にとっては利益になる措置ですが、憲法84条の租税法律主義のもとでは、課税要件を変えて本来成立するはずの租税債務を消滅させることにほかならず、他の納税者との公平も損なうからです。
条例も法律による行政の原理にいう法律に準じて扱われます
住民の代表機関である議会が制定する条例は、法律の留保にいう法律に準じ、条例を根拠に義務を課し権利を制限することができます(地方自治法14条2項)。ただし、義務の履行を強制する手段については扱いが違います。行政代執行法1条は「行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる」と定め、ここでいう法律に条例は含まれないと解されています。同法2条の「法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)」という括弧書きは2条以下に及ぶだけで、1条には及ばないからです。直接強制は義務者の身体や財産に直接実力を加える手段で、人権への侵害の度合いが大きいため、国会の制定した法律で創設する必要があります。「法律による行政の原理によれば、議会制定法によって義務の履行強制が可能であるから、現行法上、直接強制について、法律のほか条例を根拠規範とすることも許される」という肢は誤りです。他方で代執行は、行政代執行法2条が「法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。)」と定めているので、条例で課された代替的作為義務についても、同条そのものを根拠に代執行ができます。「行政庁が条例によって課された代替的作為義務に違反した者に対し代執行を行うためには、代執行ができる旨の規定が条例中に定められていなければならない」という肢は誤りです。条例と法律の関係は条例と規則で扱います。
最大判昭和50年9月10日(徳島市公安条例事件)
条例制定権の範囲内において、法律の範囲内で条例を制定することができるのであって、条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾牴触があるかどうかによってこれを決しなければならない。
最判昭和33年3月28日(パチンコ球遊器事件)
本件の課税がたまたま所論通達を機縁として行われたものであっても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基く処分と解するに妨げがない。
論文ではこう使う
論文では、行政の活動に法律の根拠があるかを最初に確かめます。侵害留保説を出発点に、当該活動が国民の権利を侵害し義務を課すものかを認定し、侵害的であれば作用法上の根拠規範の有無を条文で探します。任務規定や組織規範しかない場合は、根拠を欠き違法だと結論づけます。逆に、行政指導や契約のように相手方の任意の協力に基づく形式であれば根拠規範は不要とし、代わりに、事実上の強制になっていないかを比例原則や権限濫用の禁止で審査する流れに移します。法律の優位については、法律の趣旨に反する運用をしていないか、委任命令が委任の範囲を超えていないかという形で現れます。条例の事案では、徳島市公安条例事件の趣旨・目的・内容・効果の比較という枠組みを立て、上乗せ・横出しが法律の許容するところかを当てはめます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。